〜回想〜とある少女の過去(2)

 願っていることと叶ったことは必ずしも同じではない。

 それは、誰しもが感じることがあるだろう。


 現実は思っているほど甘くはなく、一つ叶えてしまえばまた一つ問題が浮かび上がってくる。


 私は、いじめが無くなるという願いが叶った。

 しかし、また一つ大きな問題が浮かび上がってしまう。


「―――――え?時森くんが転校したってどういうこと?」


「いや、どういことって言われましても、この前時森が上級生の何人かと喧嘩したんですよ」


「それで、上級生を病院送りにしてしまって―――――先生は親の都合って言ってましたけど、あれは絶対これの所為だよね」


 私が問い詰めると、通りすがりの男子生徒達が隠さず答えてくれた。

 そして、隣にいた生徒も協調するように答えてくれる。


 ……え、でも待って。

 転校ってどういうこと?喧嘩って何?


 私の頭の中が真っ白になってしまう。


 そういえば、さっき教室に入った時何人かの男子生徒の姿が見えなかった。

 その人達は、私に何回か暴力を振るっていた人だちだったはず………。


「もしかして……私の所為?」


 そうとしか考えれなかった。


 どうやっていじめが消えたのか分からない。

 みんなが私が自殺仕掛けたことに、焦ってやめたのかもしれない。

 もしかしたら私のことを可哀想だと思ったクラスの人が辞めさせたのかもしれない。


 ――――けど、


『俺が責任もって何とかしてやるよ』


 彼が言った最後の言葉。

 その言葉を思い出すと、とても今回の事とは無関係とは思わなかった。


「ねぇ!?時森くんがどこの学校に行ったか分かる!?」


「え、えぇ……確かに山吹中だったと思います」


 私は思わず彼に大きな声で詰め寄ってしまう。

 それに驚いてしまったのか、男子生徒は後ろに1歩下がりながら答えてくれた。


 山吹だったらここから遠くない!


「ありがと!」


 私はお礼を言うと、勢いよく駆け出す。

 これから授業が始まってしまうけど関係ない。


「時森くんとちゃんとお話がしたい!」


 そんな思いを胸に、私は学校を出た。

 後ろからは授業を告げるチャイムが聞こえる。



 ♦♦♦


 何も考えず走り、しばらくして私は山吹中までたどり着いた。


「電車を使えばもっと早く着いたかな…。」


 私はそんなことを考え、息を切らしながらも校門を跨ぐ。


 山吹中はお昼前だというのに賑やかで、おそらく今は休憩中なのだろう。

 ……だったら私にとっては好都合だ。


「時森くんを探さなきゃ……」


 私は校舎へと足を進める。

 時森くんは1学年下だから、1年生の教室を探せばどこかにいるかもしれない。

 もし見つからなくても、また誰かに聞けばわかるだろう。


 私は校舎の中に入り、1年生の教室へと向かう。

 制服姿が違うからなのか、周りからの視線を集めてしまう。


 けど、今の私には関係なかった。


「時森くんはどこなの……」


 時森くんに会いたい。

 時森くんとお話がしたい。

 時森くんにお礼を言いたい。


 私の中ではそれしか考えていなかった。

 だから私は気にせず彼の姿を思い出しながら廊下を歩き回る。


『ねぇ、望は普段何してるの?』


『ん?特に何もしてないな』


 すると、廊下の隅からそんな声が聞こえてきた。


「今、『望』って……」


 望という名前は彼の名前だったはずだ。

 そして、そこから聞こえた声はどこか聞きなれた声な気がする。


 私は早歩きで声の元へと向かった。


 彼がそこにいるかもしれない。

 やっと会えるかもしれない。


 そんな思いを抱きながら、人混みをかき分けて声の聞こえる方向へと足を進める。


 そして、見えた先には――――


『だったら、サッカー部に入らない?』


『サッカーか……それはいいかもしれないな』


 仲良く話す、1人の男子生徒と……時森くんの姿があった。


「時森くんっ!」


 私は出会えたことに嬉しくなり、思わず彼の名前を叫んでしまう。

 そして、自然とうっすら私の目に涙が浮かんでしまった。


 ……あぁ、私ってこんなにも時森くんに会いたかったんだ。


「ん?――――――お前……」


 時森くんも、私の声に気づいたのか私の方を向いてくれた。


 ………やっと会えた。

 黙っていなくなってしまったけど、ようやく彼に会えた。


 私は時森くんの元まで駆け寄る。

 一緒に話していた男の子が驚いていたけど、関係なかった。


「どうしていなくなっちゃったの!?転校って何!?どうして喧嘩なんかしちゃったの!?私の為なの!?」


 私は大きな声で今まで抱えていた気持ちを彼にぶつける。


 止まらなかったのだ。

 聞きたいこと、言いたいことが彼を見つけた途端溢れ出してしまう。


「お、おい……」


 時森くんは驚きながら、私の必死の言葉にたじろいでいる。

 周囲も、何やら妙に私たちを見てヒソヒソとざわつき始めていた。


『え、あの制服って違う中学だよね?』


『どうしてあんなに可愛い子がここにいるんだ?』


『確か、あいつってこの前転校したやつだよな?』


「……とりあえず、場所変えるぞ」


 彼は私の所為で注目を浴びていることに気まづく思ったのか、私の手を取ってここから歩き出す。


「う、うん……」


 病室で握ってくれた手の温もり。

 その時と同じ温もりを手に感じながら、時森くんに連れられてその場を離れていった。


 あれ…おかしいな……。

 ……やっぱり涙がでちゃうや。

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