願うことは、みんな幸せに過ごせるように
俺の心臓がバクバクドキドキしていると、気がつけば参列も俺らの番。
……やっと、やっと解放されるぅ。
もうね、恥ずかしさと嬉しさと、いつ殺されるかっていう恐怖がごちゃ混ぜになってたんですよ。
よくここまで持ちこたえたと思う。
俺すごい!よく頑張った!
そして参列に並んでいる間、西条院と麻耶ねぇは終始ニヤニヤしていて、神楽坂はずっと不機嫌だった。
……いや、神楽坂さんよ。機嫌を治してはくれませんかね?
帰りに恥ずかしいけど手を繋いでやるからさ。
「では、後がつかえてしまっているので、早めに終わらせましょうか」
西条院がそう言うと、俺は財布の中から五円玉を取り出す。
確かに、後ろもかなりの行列だから早めに終わらせた方が良さそうだな。
「あ、あれ…?」
すると、横では神楽坂が財布の中を見て慌てていた。
……はぁ。
あれだけ五円玉用意しておけって言ったのに忘れていたな?
「ほれ」
仕方ないので、俺は財布の中にある五円玉を取り出し神楽坂に渡す。
念の為に五円玉を2枚持ってきていて良かったわ。
「あ、ありがとう…」
神楽坂は俺の方を見て小さくお礼を言う。
しかし、何故か神楽坂の顔が若干赤い。
俺は不思議に思いながらも、俺は気にせず賽銭箱に五円玉を投げ込む。
そしてきっちり二礼二拍手一礼。
――――しかし、なんてお願いをしよう?
去年までの俺だったら『彼女が欲しいです!』ってお願いしてたんだけど、今年はちょっと違う気がする。
……神楽坂に告白されたからだろうか?
あれから時間があまり経っていないが、神楽坂の気持ちが変わっていなければ、彼女を作るだけならすぐに願いが叶ってしまう。
けど、俺はそんな軽い気持ちで彼女が欲しい訳では無い。
―――――でも、
俺はちらりと横を見る。
そこには目をつぶってお願いをしている俺の親友や神楽坂に西条院、麻耶ねぇの姿があった。
……俺は一体どうしたいのだろうか?
自分でも答えが分からない。
どうしたらいいのか、誰が好きなのか、自分の中ではよく分からないでいる。
だったら、
「……今年も1年、みんなが幸せに過ごせますように」
今年は俺にとって素晴らしい人と出会えた。
だから、これからもこの日常が変わることも無く、誰もが幸せに過ごせるようにお願いをしよう。
だから神様、このお願いを叶えてください。
俺はそんな事をお願いしながら、目をつぶった。
♦♦♦
「いやぁ〜!やっと終わったって感じだね!」
麻耶ねぇが疲れた体をほぐすかのように手を組んで大きく背伸びをする。
……素晴らしい!なんて立派なおっぱいなんだ!
こうして背中を逸らしていると、着物越しからでも分かるような豊満な胸が強調されて、西条院とは比べ物にならないチョモランマが俺の視界を「どこ見てるんですか?」なんでもないです。
「そうですね!もうちょっと遅かったら、時間がもっとかかってたかも」
神楽坂は麻耶ねぇの隣を歩き、笑いながらそう答えた。
「お守りも買ったし、とりあえずは大丈夫だよね望?」
「あぁ、これでやることはやっただろう」
そう言って、俺達は神社を出て道路を歩く。
俺達は各々のお願いが終わり、1年の為のお守りも買った。
何故か女性陣は全員『恋愛成就』だったのだが、そこはあえてスルーしておこう。
……仲がいいのかな?おそろいが欲しかったのかな?
すみません、そこまで鈍感ではないです。
……何となく察しています。
「そういえば、皆は何をお願いしたんだ?」
先を歩いていた俺は、振り向いてみんなに聞いた。
「僕は今年こそインターハイ優勝かな」
一輝は俺の方を振り向いてそう口にした。
一輝らしいお願いだと思う。
こいつはサッカー対してはすごい熱意を持って取り組んでいる。
だからこそ、俺も素直に今年こそインターハイに出て欲しいと、我が親友を応援したくなってしまう。
……頑張れよ。
「麻耶ねぇ達は?」
俺は仲良く歩いている3人に向かってそう聞いた。
「私は、好きな人と結ばれたい……ですかね」
「私も、好きな人と付き合いたいってお願いしたよ!」
「そ、そうか……」
俺は2人のお願いを聞いて思わず口ごもってしまう。
西条院は桜学祭で好きな人がいると言った。
彼氏を作りたい西条院からしたら、その人と付き合いたいってお願いするのも当然だろう。
……けど、未だにその好きな人が俺である可能性が俺の中ではあるんだよなぁ。
さっきの手を繋いだ行為もそうだし、俺が落ち込んでいる時に投げかけてくれた言葉もそうだ。
『だから、あなたは前を向いて抗ってください。そして、自分が今何をしたいか、何をするべきか考えて、行動してください—————私の好きな人はこんな所で落ち込んでいるような人じゃありませんよ?』
……本当に西条院は誰が好きなんだろうか?
自惚れである可能性は十分にある。
そして、神楽坂も好きな人がいる。
その相手は、彼女から直接聞いてしまった。
『私は、あなたのことが好きです』
面と向かって言われたあの言葉。
気持ちが変わっていなければ、神楽坂の好きな人は………俺のはずだ。
だからこそ、神楽坂の発言に戸惑ってしまう。
これは彼女なりのアピールなのだろうか?
そう思うと、自然と顔が熱くなっっていくのを感じる。
「ま、麻耶ねぇは何てお願いしたんだ?」
俺は熱くなった顔を誤魔化すように話を逸らした。
きっと、あのまま彼女達の話を聞いていたら余計に赤くなるに違いない。
「私は……そうだね」
麻耶ねぇは、少し考え込むように間をあけた。
「望くんと……みんなと、仲良く幸せに過ごしたいってお願いしたかな」
そして麻耶ねぇは、小さく笑った。
その表情は、どこか儚げで、それでいて心から思っているというのが伝わってくる。
「……そっか」
意外にも、俺と麻耶ねぇは同じようなお願いをしていたみたいだ。
それは長年の付き合いだからなのか。
それでも俺はそのお願いが叶って欲しいのだと――――そう思わずにはいられなかった。
こうして、俺達は各々の願いを胸に抱き、新しい年を迎える。
これから先、どんな未来が訪れるのか分からないが、幸せな1年になりますようにと願いながら。
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