害虫駆除の大晦日
も〜い〜くつね〜ると、お〜しょうが〜つ〜♪
なんて歌が頭に思い浮かぶ今日この頃。
ついにあと1日寝ればお正月という日になってしまった。
今年も色々あったな〜。
入学して可愛い子に告白してフラれて、普通な子にアプローチかけようと思ったら美少女達に脅されるし、桜学祭で西条院が倒れたり、クリスマスでは神楽坂に会いにロシアまで行った。
……本当に、ここ数ヶ月の生活が濃ゆ過ぎる気が。
そんな1年を振り返りながら、俺は必死に手を動かす。
手に伝わるのは少しの痛みと硬い感触。
ここでちゃんとやらないと後々がめんどくさいからなぁ〜。
「あぁ!銀髪美少女がッ!我が家にぃぃぃぃぃぃぃぃ〜!」
「いい加減眠れよ父さんやい。出会い頭で神楽坂抱きつこうとすんなや(ゴッ)」
「アリスちゃんに何しようとしてるの!(ガンッ)」
「あなた!恥ずかしいとは思わないんですか!?(ビリッ)」
「ははは……」
現在大晦日の夜。
俺と神楽坂は家の大掃除が終わり、麻耶ねぇの家に遊びに来ていた。
――――しかし、
「ごふっ!まだ……まだァァァァ!」
「今日は神楽坂みたいな可愛い子さんだから、いつも以上にしぶといな(ゴンッ、パキャ)」
「こんな人が親なんて恥ずかしい……(ガンッ、ガンッ)」
「やっぱり、離婚しようかしら?(ビリッ、ビリッ)」
俺達は、玄関で神楽坂を守るため、彼女に仇なす害虫の駆除をしていた。
俺は両手にメリケンサック、麻耶ねぇは丈夫な鉄パイプ、母さんはスタンガンを握りしめる。
それぞれの武器を振りかざし、それぞれ害虫駆除にあたっていた。
というのも、俺と神楽坂が玄関を開けると、ものすごい勢いで神楽坂に迫ってきた父さんを何とか排除する為。
仕方ない……例え家族でも、神楽坂に害を与えるような行為は見過ごせないからな。
「んじゃ、もういっちょいきますか〜(ゴンッ)」
やっぱり、害虫駆除は手が汚れるなぁ。
♦♦♦
「では改めて。私が麻耶の父である鷺森一郎だ」
「初めましてアリスちゃん。麻耶の母のみちえです〜。話は麻耶から聞いているわ〜」
害虫駆除は結果失敗に終わり、時刻は23時過ぎ。
現在、俺達はリビングでそれぞれ自己紹介をしていた。
結局、俺らが武器を振り下ろしている光景を見て、神楽坂が「そ、そろそろやめてあげない?」と言ってきたので、仕方なく害虫駆除をやめることにしたのだ。
本当に神楽坂は優しいなぁ〜。
1歩遅かったら、おっさんの熱烈なハグを受けていたというのに。
「は、はいっ!神楽坂アリスです!今日はよろしくお願いします!」
神楽坂は背筋を伸ばし、緊張しながらも自己紹介した。
「アリスちゃん、お母さん達に緊張することはないよ?」
「そうだぞ。母さんは優しいし、父さんは年中可愛い子を見つけたら興奮してしまうような典型的な女の害虫だからな」
「ねぇ、ママ?息子の発言がきついんだけど?」
「今日はゆっくりしていってちょうだいね」
「スルーぅ!?息子の発言に傷ついているのにマイハニーはスルーですか!?」
スルーするだろ普通。
どうして出会い頭にあんなことをしておいて、何も言われないと思ったんだ?
「はい!ありがとうございます!」
神楽坂は嬉しそうに母さんに向かって返事をする。
うんうん……仲良く出来そうでよかったよ。
「……ねぇ、麻耶?大丈夫なの?あんなに可愛い子が望の家に一緒に住んでいるなんて?」
「……大丈夫だよ〜!私が頑張れば望くんはなびかないと思うから!」
俺が神楽坂の様子に安心していると、何やら隅っこで麻耶ねぇと母さんがヒソヒソと話し合っていた。
……どうしたんだろうか?
「まぁ、神楽坂くんも安心して過ごすといい」
「父さんが言うと説得力皆無なんだが?」
何を言っているのだろうかこの変態さんは?
頼れる父親ぶっているのだろうが、もはや手遅れである。
「アリスちゃん!ちょっと見せたいものがあるから私の部屋に来ない?」
「はい、行きます!」
ヒソヒソ話が終わった麻耶ねぇが神楽坂を誘って自分の部屋に向かう。
……そういや、最近麻耶ねぇと神楽坂が仲良くなってきているなぁ。
前までは生徒会室でいがみ合っていたのに、どういう心境の変化だろう?
「……行ってしまったな」
「何、残念がっってんだよ」
自制心というのはないのかこの親父は?
「違うよ……娘が仲のいい子を連れてきている光景をもうちょっと見たかっただけだよ」
父さんは、少しばかり寂しい表情をしつつも、その声音はどこか嬉しそうだった。
「本当に、あの子が仲のいいお友達を連れてきたのは何年ぶりかしら……」
母さんも、父さんと同じように嬉しそうな顔をする。
まぁ、父さん達からしてみれば、麻耶ねぇが神楽坂――――仲のいいやつを連れてくることはかなり嬉しいだろう。
今までは、麻耶ねぇが友達を連れてくることは無かった。
それには麻耶ねぇなりの理由があるのだろうが……。
「そうだな……」
俺も思わず笑みが零れてしまう。
やっぱり俺も嬉しいのだろう。
俺と一輝以外に仲のいい人が麻耶ねぇにできるということが。
きっと、これは彼女なりの成長があってこそなんだと思う。
「こうして麻耶が変われたのも、望のおかげだな」
「何言ってんだよ父さん。全部麻耶ねぇが頑張ったことだろ?――――俺は何もしてねぇよ」
「そんなことはない。本当に……ありがとうな」
そう言って、父さんは俺に向かって頭を下げる。
それに続いて母さんも少しだけ頭を下げた。
「お礼を言われるなんて心外だな。まるで他人みたいじゃないか」
「あぁ…そうだったな。私達は―――――家族なんだ」
父さんは頭を上げると、小さく笑ってテーブルに置いてある酒を煽る。
……全く、少し酔っ払っているんじゃないか?
そして母さんは、俺の横に座り、抱き抱えて俺の頭を撫でる。
……子供じゃないんだがなぁ。
――――そうだ、俺達は家族みたいなものなんだ。
この人達は俺が両親を失い、ここまで支えてくれた。
絶望して打ちひしがれていた俺を明るい未来へ引き上げてくれた。
そして、失った家族の愛情を、こんな俺に与えてくれた。
「……お礼を言うのは俺の方だっての」
俺は小さく呟きながら、テーブル置いてあるお茶を啜る。
ゴーン、ゴーン。
すると、外から鐘の音が聞こえてきた。
時計をちらりと見ると、時刻は24時になっている。
どうやら、色々あるうちに新年があけてしまったようだ。
「と、時森くん!あけましておめでとう!」
「今年もよろしくね〜」
そして、急いで俺の所まで来た2人が新年の挨拶をする。
――――この1年は色々なことがあった。
彼氏を作る手伝いをさせられ、生徒会に入り、関わることのなかった美少女と関わりを持った。
そして、抱え込んでいた気持ちをさらけ出したり、前に進むと決意した人達がいた。
そんな人を、横で見れて、優しく頼りになる人達と巡り会えて――――本当にいい1年だったと思う。
「あぁ、俺こそよろしくな」
今年もみんなといい1年を迎えれますように。
そんな事を思いつつ、鳴り響く除夜の鐘の音を聞いたのであった。
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