俺、同居してるのバレたら殺されるなぁ…

「いや〜!一輝くん久しぶりだねぇ〜!」


「はは……お久しぶりです」


 俺が全身の関節を戻し終わった後、やっとの思いでリビングに戻ると、一輝が麻耶ねぇに捕まり頭をわしゃわしゃされていた。

 そして、何故か一輝の顔は疲れきっていて、いつものヘラヘラとした雰囲気もどこか元気無い。

 ……そういや、一輝は昔から麻耶ねぇのこと苦手だったもんなぁ。


「1年ぶりだっけ?」


「いえ、2週間前くらいに会いましたよ……」


「あ〜、そうだったね〜」


 なんとも記憶力の無い麻耶ねぇなのか。

 そんなに時間経ってないのに忘れてやんなよ可哀想に。


「佐藤さんと鷺森さんはお知り合いなのですか?」


 不意に、処刑室――――もとい、俺の部屋から処刑を終えた西条院が後ろからひょこっと顔を出てきた。

 本当に…ちょっとぐらい手加減できないですかね?


「あぁ、麻耶ねぇと一輝は中学一緒だったし、俺と一緒にいることが多かった2人だからな―――――自然と接点ができたんだ」


「そうなんだねー」


 俺の話を聞いて神楽坂が横で納得する。


「それに……佐藤さんが何故か疲れきっているように見えるのですが?」


「一輝は女性からのスキンシップには弱いからな〜。麻耶ねぇのスキンシップの激しさについていけてないんだろう――――全く、軟弱なヤツめ」


 はぁ………一輝よ。

 女の子のスキンシップには慣れておかないとダメだぞ?

 いざ彼女が出来た時に困るじゃないか。


「……そう言ってる時森くんも、ひぃちゃんに膝の上座られて気絶していたよね」


「な、何のことか分からないなぁ〜」


 神楽坂は俺をじとーっと見つめてくる。


 やめいやめい、そんなことを言うんじゃありません。

 俺は読者の皆様には女慣れしているジェントルマンで通ってるんだから、イメージ変化はダメでしょ?


「…ふふっ、あの時の時森さんは可愛かったですね」


「……からかうなよ」


「からかってませんよ?――――それに、違うというのであれば、もう一度座ってあげましょうか?」


「是非ともお願いしま「……時森くん?」西条院、そういう発言はよくないと思うんだ」


 俺は西条院に軽く注意する。

 うん、そういうのは気軽にやっちゃダメだもんね!

 僕偉いからちゃんと分かっているよ!


 ……だから神楽坂さん?そんな光が灯っていない目で見ないで頂けますか?

 めっちゃ怖いです。


「あ、そういえば望くん!年越しはうち来るの?」


「あ、あぁ……行こうとは思っていたが…」


 一輝の背後に周り頭をなでなでしている麻耶ねぇから唐突にそう聞かれる。


 ……まだ抜け出せていないのか一輝は。


 俺は目が怖い神楽坂から目を離し、少しだけ考える。


「行ってもいいんだが……今年は神楽坂が一緒に住んでいるからなぁー」


 例年、俺は年越しと正月は麻耶ねぇの家で過ごしている。

 しかし、今年は最近同居を始めた神楽坂がいるから悩んでしまう。


 俺一人だったら気軽に行くのだが、神楽坂を1人にさせる訳には行かない。

 母さんなら別にいいって言ってくれそうではあるんだが――――


「え?望、神楽坂さんと一緒に住んでいるの?」


 麻耶ねぇに頭を撫でられていた一輝が驚いた様子でこちらを向く。


「あれ?言ってなかったっけ?……実はな――――――かくかくしかじかなんだ」


「ごめん、かくかくしかじかって言われても内容が伝わらないよ……」


 え?うそーん?

 ラノベとかアニメだとこれで伝わるじゃん。

 全く、性能の低い親友はこれだから困る……。


「なら、一から説明してやろう―――――」



 ♦♦♦



「―――――という訳だ」


「なるほどね……」


 俺は一輝に最近あった出来事と、一緒に住む経緯を伝える。

 仕方が無いので、懇切丁寧に身振りを添えて伝えたんだ―――――感謝して欲しいものだな。


「まずは、流石望だねって言っておくよ。神楽坂さんのためにロシアに行く行動力は素直にすごいと思う」


「よせやい、照れるだろ」


 褒めたって何にも出ないぞこのやろう!


「あと―――――この事はクラスの男子にはバレちゃいけないよ?」


「……あぁ、分かってる」


 俺は至って真面目に頷いた。


 俺はこの事を卒業するまで知られてはならない。

 もし、万が一、クラスの連中にバレてしまったら俺はどうなると思う?


『貴様ァァァァ!神楽坂さんと同居だとぉぉぉぉぉぉ!?』


『羨ましい、羨ましい、ウラヤマシ、シシシシシシシシシシシシシシィ!』


『殺っちゃわないとね………羨ましいから殺っちゃうんだよぉ〜〜〜〜〜〜!』


 ………ぶるっ。


 考えただけでも恐ろしい。

 俺はきっと、明日の日差しを拝むことも無く、この世から魂が消えてなくなってしまうだろう。


 ……ま、まぁ!登校時間をずらせばいいだけだし!誰にも言わなかったらバレることなんてないと思うんだけど!


 ―――――神楽坂がポロッと言わないか心配だなぁ……。


 あの子すぐに言っちゃうから。

 天然でアホなんだから心配になってくる。


 ……学校始まる前に、原稿用紙100枚に「私は同居していることは言いません」って書かせないといけないな。


『――――ッ!?』


『どうしたんですかアリス?』


『い、いや……何か嫌な感じがして……』


 絶対に書かせよう。


 俺は密かに決意した。


「結局どうする?私は別にアリスちゃんが来ても大丈夫だけど?」


「だってさ。神楽坂どうする?」


 俺は一旦殺されるかもしれないという未来を後回しにして、神楽坂にどうするか聞く。


「め、迷惑じゃないですか?」


「迷惑じゃないよ〜!お母さんも大勢の方が喜ぶから!」


「じゃ、じゃあ!お呼ばれします!」


 神楽坂は安心したのか、元気よく返事をした。


 いや、別に麻耶ねぇの家に行くのはいいんだけど――――


「おい、麻耶ねぇ」


 俺は麻耶ねぇの近くまで行き、神楽坂に聞こえない声で話す。


「どうしたの望くん?」


 すると、麻耶ねぇは俺に顔を近づけて、さりげなく抱きつく。


 ……どうしてすぐに抱きつくんだ?

 正面から抱きつかれたら息子が元気になっちゃうのバレるでしょ?


「父さん、今回は大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ〜!今回はアリスちゃんが来る前にちゃんと意識を奪っておくから!」


「……ならいいが、あまり中途半端にするなよ?――――やる時は躊躇うな」


「分かった!じゃあ、後で鉄パイプ借りていくね!」


「後で母さんにもスタンガン渡しておくか……俺も、念の為にメリケンサックを持参しておこう」


 ここまですれば、神楽坂が来ても大丈夫だろう。

 父さんは神楽坂には害でしかないからな。



「ねぇ、どうして2人はあんなにも物騒な会話をしているの?」


「……鷺森さんも、時森さんと同じ思考しているんですね」


「ははは……」




 そんな俺たちの会話を聞いていた3人は何故か若干引いていたが、俺達はその事に気が付かなかった。

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