すみません、不法侵入です

 大晦日まで後2日に迫った今日。

 俺はベッドの温もりを感じていたいと思いつつも目を覚ます。

 外では昨日降った雪が積もっており、子供たちが家の前でワイワイと騒いでいた。


 ……ほんと、子供って元気だよね?

 お兄さん、寒くてベッドから出たくないんだけど?


 と言っても仕方がない。

 時計を見ると、短い針が10を指していた。


 やばい……寝すぎてしまった。

 早く起きて神楽坂の朝飯を作らないと……。


 俺はそう思い、ベッドから起き上がり肌寒く感じる部屋を出る。

 重たい瞼を覚醒させる為、洗面所へと向かい顔を洗う。


「うわっ、冷た」


 俺は冷たい水に驚きつつも、顔を濡らした。

 そして、腹を空かせているであろう神楽坂のためにリビングへと向かう。


 クリスマスでの出来事以来、我が家には一人の同居人ができた。

 元々、親の都合によりロシアで過ごすはずだった少女だったのだが、日本に居させるため住む場所を提供している。


 年頃の少年少女がひとつ屋根の下というのは間違いが起こりやすいと聞くが、俺達には至ってそんなことは無い。


 というのも、


『と、時森くん!?な、何でお風呂にいるの!?』


『いや……俺お前に、先に入るからなって言ったよな?』


 とか、


『ご、ごめん!大丈夫!?』


『あぁ、どうして何も無い場所で躓いて、俺のズボンに水をぶっかけたかは分からんが、大丈夫だ』


 とか、


『時森くん……』


『お前が洗濯にミスって俺の着る服が無くなってしまったが心配するな。とりあえずどこかで俺の服を買ってきてくれないか?』


 などと、基本的に俺が被害者で、ラッキースケベもあいつではなく、何の需要もない俺がなっているからだ。


 ……ま、まぁ、確かに?あいつの寝起きとか、お風呂上がりとか、寝巻き姿とか?――――見てて悶々としたりするけど?


 それはもうあれですよ。俺の鋼の理性が大活躍してるんですよね〜。


 ………まぁ、本音を言えば、手を出した後が怖いから必死に我慢してるんだが。


 何はともあれ、数日しか経っていないものの、あいつとの生活もだいぶ慣れてきた。

 やっぱり1人より2人の方が楽しく感じる。

 なので、ここ数日はとても充実した日々を送っていた。


 そんなことを読者の皆さんに脳内で伝え終えると、俺はリビングのドアを開く。


「あ、時森くんおはよー」


 ドアを開けると、テーブルに座っている同居人――――神楽坂の姿が見えた。


「時森さん、おはようございます」


 そして、ソファーでお茶を嗜んでいる西条院の姿も見えた。


「望くんおはよー!全く、寝坊助さんだね〜」


 そして、キッチンで朝食を作っている麻耶ねぇの姿も見える。


 ………。


 これが俺の日常の朝。

 最近お馴染みである声と、絶対にいるはずもない人の声を聞いて、俺の朝は始まる。


 俺はおもむろに、ポケットの中から携帯を取り出す。


「もしもし」


『はい、こちら110番です。どうかされましたか?』


「あ、警察ですか?―――――」



 不法侵入です。



 ♦♦♦



「はぁ……全く、朝から心臓に悪い事をしないでください」


「心臓に悪かったのは俺の方なんだが?」


 西条院は並べられた朝食を食べながら俺に愚痴を零す。


 いや、なんで俺が悪いみたいになってるのかな?

 普通に不法侵入だからね?俺の家に勝手に入ってきているよね?

 しかも何故当たり前のように朝食を食べているの?


「望くんも、その話は置いといて、冷めないうちに食べてね〜」


「いや、置いちゃいけない話なんだけど?」


 後、不法侵入は麻耶ねぇもだからね?

 何勝手に家に入って朝食作ってるの?

 たまに家に来るけど合鍵渡してないよね?


「……というか、お前らどうやって家に入ってきたんだよ?」


「窓からですよ?」


「屋根からだけど?」


「家のセキュリティが低すぎるっ!」


 西条院と麻耶ねぇはサラリと自分の侵入経路を口にする。


 ……え、待って。窓はともかく屋根って何?

 登ったの?そして屋根壊したの?


「ふふっ、冗談ですよ。普通にアリスが中に入れてくれたんです」


「うんうん、「時森くんが朝起きてこなくて朝ごはんが食べれないから、助けて〜」って」


「―――――おい」


 俺は神楽坂の方を見ると、彼女は気まづそうに目を逸らす。


「………だってお腹空いたんだもん」


 神楽坂は少し不貞腐れた様子で口を開いた。

 いや……だもんって……可愛いけどさ?


「腹が空いたんなら俺を起こせばいいだろうに」


「さ、流石に時森くんが寝ている間に襲うのはちょっと……」


「起こせって言ったよな?俺、襲えって言ってないよな?」


 何故彼女は猟奇的な発想に至るのだろうか?

 襲うって……女の子が言うセリフじゃないよね?


「それに……私はしばらく1人でご飯作っちゃいけないって言われたし」


「それは仕方がないだろう、危ないんだから」


 1度神楽坂に料理をさせてみたのだが、もうそれは凄かった。

 米を研いでくれと言ったら砥石を持ってくるし、野菜を洗う時は食器用洗剤を持ってくるし、電子レンジが何故か不思議な爆発を起こしたりと――――本当にやばかった。


「だって……普通に炒めたはずなのに、フライパンに穴があいちゃうんだもん」


「分かりますよアリス……何故かフライパンに穴があいちゃいますよね」


「あ、ひぃちゃんもなっちゃうの?」


「えぇ、何故か炒めているとフライパンに穴があくのです」


「本当にどうしてなのかな?フライパンが悪いのかな?」


「日本のフライパンはもろすぎだと思います」


 2人はそう言いながら、フライパンに対して愚痴を零していた。

 きっとそれはフライパンの所為ではないと思うが。


「ねぇ、望くん?2人は何の話をしているの?」


「言うな麻耶ねぇ……俺もすこぶる不思議に思っているんだ」


 2人が謎の共感をしていると、麻耶ねぇが2人を指して心底不思議そうにしていた。


 ごめん、麻耶ねぇ……俺にもさっぱり分からないんだ。

 だって、ちゃんと俺が途中までしっかりと見ていたのに、神楽坂が炒めた途端、

 フライパンにぽっかりと穴が空いてしまうんだ。


 ほんとに不思議。

 しかも、その現象は神楽坂だけじゃなかっただなんて……世の中不思議だなぁ。


「まぁ、いいや。麻耶ねぇ朝飯作ってくれてありがと」


「どういたしまして〜」


 俺がお礼を言うと、正面に座っている麻耶ねぇは笑顔で受け取る。


「――――というか、麻耶ねぇ達は俺と神楽坂が一緒に住んでいいること知っていたのか?」


 俺はさっきから気になっていた事を2人に聞く。


「うん、話はちゃんとアリスちゃんから聞いたよ!」


「えぇ、どういう経緯で時森さんと一緒に暮らし始めたのかもしっかりと聞きました」


 ……な、なるほど。

 だからこんなにも2人はこの状況に溶け込んでいたのか。


 しかし、何故神楽坂は自分から2人に言ったのだろうか?


 別にこの2人に言うな、とは言わない。

 どうせいつかバレるし、この2人は信用しているので問題は無いのだが――――ちょっと気になる。


「ごめんね、時森くん」


「いや、別に構わないが……どうして自分から言ったんだ?」


 すると、神楽坂はちょっとだけ小声で俺に向かって言った。


「……2人とはフェアに戦いたいからね」


 え?何で2人と戦うの?戦う理由が3人にはあるの?

 後、どうやって戦うのか気になります。


 出来ればキャットファイトで!

 水着姿のキャットファイトが見たいです!


「神楽坂、今から水着を買いに行こう」


「え?今、冬だよ?」


 神楽坂は不思議そうに首を傾げた。

 いかんいかん、どうしても見たくてつい口にしてしまった。


「時森さん、クソッタレな下心を零さないで早く食べてください」


「口悪いね西条院」


 西条院はぶすーっと頬を膨らませて、俺に注意する。


 ……何が不満だったというのか?

 俺はただ神楽坂の水着姿が見たかっただけだというのに。


 ―――――やっぱり、女心は分からないなぁ。


 俺はそんなことを思いつつも、麻耶ねぇが作ってくれた朝飯を食べるのであった。

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