第4章 とある少女の過去

プロローグ

 あるところに、一人の少女がいました。


 少女はどこにでもいるような可愛らしい子供で、何の不自由もなくすくすくと育っていきました。

 少女の家族はとても優しく、少女にたくさんの愛を注いでいます。

 なので、少女はその愛を一心に受け、明るく優しい子へと育っていきました。


 しかし、少女は他の人とは少し違うところがありました。


「ねぇ、やっぱりあの子可愛いよね!」


「うんうん、とっても綺麗!」


「この前、B組の宮下君に告白されたらしいよ!」


 それは、周りより整いすぎた容姿です。


 少女は歩けば誰からも目を引かれるような可愛らしい姿をしており、整いすぎた顔は学校中の男子からとても人気がありました。


 少女にとって、告白されることは日常茶飯事です。

 しかし、少女はその告白は全て断っていました。


 その理由は


「好きってなんだろう?」


 少女にとって、好きというものは分かりません。

 何故、みんな告白してくるのか、私のどこが好きなのか、私とどうなりたいのか、さっぱり分からなかったのです。


 しかし、それでも少女は好意を寄せられ続けます。


 優しい、明るい、可愛い。


 色んな事を言われ続けました。

 けど、どの言葉も少女の心には届かず、色んな人の好意を跳ね除けていました。


 そんなある時です。

 少女は一人の男子生徒から告白をされました。


 その男子生徒は、校内の中でかなり人気の子らしく、その容姿も今まで告白されてきた男子生徒の中では1番整っています。


 しかし、少女はその男子生徒の好意を断りました。

 何故なら、少女には好きというものが分からなかったからです。


 その男子生徒も、かなり残念がってはいましたが、渋々受け入れてくれました。


 これがいつもの告白。

 好きだと言われて、お断りしていく。


 少女にとっては、いつもと変わらない日常でした。


 けど、それは少女にとっての変わらない日常。

 だが、この男子生徒をお断りしたことは、周りを大きく変えていくものだったのです。


「あの子調子に乗ってるよねー」


「ほんとほんと、ちょっと顔がいいからって」


「キモすぎ」


 その男子生徒をお断りした日を境に、少女の周りは一変しました。

 教室に入ると、少女に聞こえるくらいの悪口を言われ、集団行動の仲間外れにされたり―――――周囲は彼女を蔑み始めました。


 しかし、少女は気にしないことにしました。


(告白を断ったのは自分だ)

(申し訳ないことをしたから罰が当たったんだ)


 心優しい少女はそう思うことにしました。

 誰にも文句は言わず、家族にも、教師にも、いつもと変わらず明るく振舞っていきます。


 けど、そんな変わらない彼女を見て、周囲はどんどん変化していきました。


 上履きがゴミ箱に捨てられていたり、トイレに入ると水を浴びせられたり、ノートにはページいっぱいに悪口が書かれていたりと、エスカレートしていったのです。

 そしてついには、校舎裏に呼びつけられ、大勢に暴力を振るわれたこともありました。


 優しい少女も、エスカレートしていく周囲のいじめに耐えきれず、その明るい性格はどんどん陰っていったのです。


「どうしてっ!?私ばっかりこんな目にあうの!?」


 好きでこの顔に生まれたんじゃない。

 私だって普通の顔に生まれたかった。

 私はただ、好きという感情が分からなかっただけなのに。


 そんな思いが、彼女の中で埋め尽くされていきます。


 しかし、そんな少女の思いは周囲には理解されず、いじめはどんどん続いていきます。

 教師が止めに入ることも無く、ただ毎日毎日、少女の心と体を傷つけていきました。


 優しい家族に相談しようとしたことがあったのだが、少女はそれをしませんでした。


「お父さんとお母さんには迷惑はかけれない」


 きっと心配させてしまう。

 少女の大好きな家族にはいつも笑っていて欲しい。


 だから少女は家族の前では明るく振舞っていました。


 しかし、少女も一人の人間。

 いつか限界は迎えるものです。


 少女はある日、小さな刃物を持って屋上に上がります。

 コツコツと、ゆっくり階段を登っていく。


 そしてゆっくり、工事中と書かれた看板を退けてフェンスの無い屋上へと出ました。


「いい景色だなー」


 少女の心は、口から零れた言葉とは裏腹に陰りすぎていました。


 何のために生きているんだろう?

 生きていても楽しくない。

 こんなにも生きることが辛いなんて。


 だから少女は手に持っていた刃物を強く握りしめます。

 不思議と躊躇いはなく、己の手首を刃物で思いっきり切りつけました。


「ははっ、ちょっと痛いや……」


 鋭い痛みが少女を襲う。

 手首からはどんどん血が溢れていきました。


「……私、死ねるかなぁ?」


 少女は溢れる血を抑えることもなく、屋上の端まで歩いていきます。

 フェンスが無い屋上からは、楽しそうに遊んでいる生徒の姿が見える。


「もう……いいよね?」


 そして、少女は体を傾けました。


 これから私は死ぬのだと、この辛い現実から開放されるのだと。

 ここから落ちれば楽になれると思って。


 しかし、少女の体は落ちていくことはありませんでした。

 少女が躊躇ったのではありません。


 少女の体を、誰かが強く引っ張っていたからです。


「おい、お前!何やってんだ!?」






























 



 そこには一人の少年の姿がありました。

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