日本への帰国
「流石に疲れたね〜」
「全くだ……2日連続で9時間も飛行機の中にいるのは疲れる……」
現在、俺達は長い長いフライトを終え、やっとの思いで成田空港に到着した。
あの後、俺は神楽坂の実家に泊まったのだが、娘の自慢話を延々と聞かされたあげく、未成年にも関わらず、お酒をガブガブと飲まされてしまった。
……ほんと、酔った幸雄さんには関わってはいけなかったな。
しかも、ロシアまでやってきた疲れも溜まっていたのか、俺はすぐにベッドにダイブしてしまった。
そして、何故か朝起きたら隣で神楽坂が寝ていたんだ。
……寝顔も可愛かったのだが、いかんせん思春期男子の朝にはかなり辛いものがあったなぁ。
というハプニングがあったりして、俺はかなり疲れている。
隣にいる神楽坂は何故か元気なようだし……俺ってもしかして貧弱だったりする?
「とりあえず、帰ろっか!」
「そうだな。とりあえず幸雄さんも後で来るみたいだし、その前にやらなくちゃいけないことをやってしまおう」
幸雄さんも、神楽坂の再転入手続きの為に日本に来ることになっている。
それがいつになるか分からないが、俺の家の住所を教えているのでとりあえずは大丈夫だろう。
「しなくちゃいけないこと?」
「あぁ……それは後で話すから、とりあえずバスに乗るぞ」
俺は話を切り上げ、急いで最寄り駅までのシャトルバスに乗ることにする。
なので、俺はきょとんとしている神楽坂の手を取り、急いでターミナルまで歩いた。
「……手を握って貰っちゃった」
神楽坂、お前はどうして手を握っただけで嬉しそうにするんだ?
そんな態度をされてしまったら、こっちも変に意識してしまうだろ……。
――――あぁ、くそっ……顔が熱い。
俺は顔が赤くなるのを感じつつも、急いでバスへと乗り込んだ。
♦♦♦
「ちょっとしか離れてなかったのに、懐かしい感じがする!」
しばらくバスに揺られ、俺達はとうとう駅に到着した。
……長かった。……本当に長かった。
本当にロシアまで距離ありすぎじゃない?
朝早くから神楽坂の実家を出たはずなのに、日本では今、夕方だよ?
時差って恐ろしい……俺、全然眠たくなんだけど?
ちゃんと夜眠れるかしら?
「ところで、今から時森くんの家に行くの?」
固まった体をほぐすように背伸びをしていた神楽坂は、俺に近づいて来てそう聞いた。
「いや、その前に行くところがある」
俺は神楽坂の手を取り、自分の家とは反対方向へと足を進める。
「いいの?家とは反対方向じゃない?」
「いいんだよ――――言ったろ?しなくちゃいけないことがあるって」
神楽坂は頭にはてなマークを浮かべている。
「その、しなくちゃいけないことって何?」
「あぁ――――――
日本に来ることは出来た。
これできっと神楽坂はみんなと向き合うことが出来る。
だから、彼女にはまずは先に1歩踏み出してもらおうと思う。
「お前が前に進むために、必要な事だよ」
♦♦♦
「時森くん……ここって」
目的地に着くと神楽坂が隣で小さく呟いた。
俺はそんな神楽坂の声を無視して、目の前にあるインターホンを押す。
「少々お待ちください」
すると、中から聞きなれた声が聞こえてくる。
そして、小さな足音が近づいてくると、玄関のドアが開いた。
「時森さんたちですか」
「……ひぃちゃん」
神楽坂は、西条院を見て少し固まってしまう。
現在、俺達は西条院の家に来ている。
神楽坂が前に進むため、まずはしなくちゃいけないことがある。
だから、俺達は西条院の家まで来たんだ。
「アリス、久しぶりですね」
「……」
神楽坂は少し気まずそうにしている。
まぁ、それはそうだろう。
何故なら、親友である西条院にも黙っていなくなったのだから。
申し訳なさも相まって、気まずそうになるのも無理はない。
しかし、神楽坂は意を決したのか、大きく息を吸って、西条院に向かって口を開く。
「あ、あのねひぃちゃん!」
「アリス、とりあえずは中に入ってください。人を待たせているので」
だが、そんな神楽坂の口を西条院は遮ってしまう。
「……え?……え?」
神楽坂はまさか西条院に遮られるとは思っていなかったのか、驚いて少し戸惑ってしまった。
「いいから、さっさと中に入るぞ神楽坂」
俺は、驚いている神楽坂を無視して中に入る。
さっさと入らないと、待たせてしまうことになるだろうが。
「いいか、神楽坂。お前は前に進みたいと言った。過去に囚われたくないと言った」
俺は驚く神楽坂の背中を押しながら言葉を続ける。
「その為に、お前にはまずしなくちゃいけないことがある」
「……それって?」
俺は神楽坂が前に進むために必要なことはしてやった。
後は神楽坂自身が前に進むように頑張るだけだ。
そして、俺は西条院の部屋の扉を思いっきり開ける。
「え、えーっと……久しぶりだねアリスちゃん」
「え……?まこちゃん……?」
そこには、白いセーターを着たショートヘアの少女が座っていた。
さぁ、神楽坂。
お前は前に進みたいんだろう?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
※作者からのコメント
すみませんm(_ _)m
長くなってしまったので、2話に分けることにしました。
もう少しお付き合い下さい。
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