会えなかった彼女との再会

(※アリス視点)


「うぅ……やっぱりさむいよぉー」


 私は自室で1人、荷物の整理をしている。

 外を覗くと、夕焼けと日本とは全く違う外観に雪が積もっている光景が見える。


 ここ、モスクワは日本と同じ季節は冬なのだが、気温がもっぱら違う。

 なんと気温がマイナスなのだ。


 暖房を効かせていても、昨日まで日本に住んでいた私からすればかなり寒い。

 そんな中、寒さを我慢しつつ荷解きをする。


 私の両親は現在近所のご挨拶回り。

 といっても、昔はここに住んでいたので、はじめましてではないみたい。


 私はまだロシア語が分からないのでお留守番中。

 けど、おじいちゃんおばちゃんにはちゃんと挨拶もした。


 どうやら、しばらくはこの家を貸してくれるらしい。

 なのでこの広々とした家には私達3人で住むことになる。


 うぅ……学校が始まるまでにロシア語が覚えれるかなぁ?


 私はそんなことを思いつつも、荷解きを進める。

 すると、ダンボールの中から一枚の写真が出てきた。


「懐かしいなぁ……」


 それは桜学祭で撮ったクラスの集合写真。

 少し前のはずなのに、妙に懐かしく感じる。


 ……そして、そこに写っている1人の男の子。


「元気にしているかなぁ」


 そして、私の親友の少女の姿も思い浮かんでそんな心配をしてしまう。

 もう私が日本にいないって気づいているのかな?


 ……黙っていなくなっちゃって怒っているかもしれない。


 けど、そんなのは分かりきっていたことだ。

 私がした事はみんなを裏切るような行為だ。

 そんなの怒るに決まっている。


 私はそんなことを思いつつも、写真を机の上に置いた。


 ————ピーンポン。


「……ん?誰だろ?」


 不意にチャイムの音が家に鳴り響く。


 おかしいな?誰も来ないだろうってお父さんが言っていたのに。

 しかも、私喋れないからどういう反応していいかも分からないのになぁ。


 けど、このまま無視をするのはさすがにいけないので、私は玄関へと向かう。


 ………せめて日本語が分かる人でありますように!


 私はそんな淡い期待を抱きながらも、玄関のドアを開く。


 そして、私は現れた人物を見て固まってしまう。


「————よぉ。ごめんけど、寒すぎて死にそうだから中入れてくれね?」


「ーーーーえ?」


 すると、出てきたのは日本の厚手のコート来た少年。

 幸いにして、どうやら日本語が話せる人が訪れてきたようだ。


 けど、その少年は本来ならここには絶対にいない。

 だから私は今の現状に頭が真っ白になった。


「……時森くん?」



♦♦♦



「…はいどーぞ」


「さんきゅー」


 神楽坂はホットミルクを注いで俺に渡してくれた。

 俺はお礼を言うと、早速少し啜る。


 ………あぁ、あったまるー。


 俺はほっと一息ついた。


 とりあえず、寒いので俺は家の中に入れてもらうことにした。

 あそこで立ち話を続けられただけで、俺はいつか凍死していたんじゃないかと思う。


 だって寒いんだもん!携帯見たらー2℃だったよ!?ちゃんと確認してくれば良かったって思ってるよ!


 本当に、あの時は西条院に背中を押してもらって来たからな……そんなこと考えている余裕なんてなかったんです、はい。


「どうしてここが分かったの?」


「あぁ、西条院にお前の母さんの住所を聞いてきたんだよ。あとは現地で人に聞きながら」


 俺はずずっとホットミルクを啜る。


 全く、苦労したんだよなぁ。

 9時間以上も飛行機に乗って現地に着いたら寒いしどこかも分かんないし、とりあえず齧ったロシア語で何とか身振り手振りでここまで教えてもらったし、途中はヒッチハイクでブーンである。


 本当にここに住んでいる人は優しいね。

 ……けど、何でここはこんなにも遠いかな?


 あのおっちゃんがここまで乗せてくれなかったら、寒い中を歩け歩け大会だったぞ。


「そうなんだ……すごいね…」


 神楽坂は気まずそうにそう呟く。

 それはロシア語話せたことを言っているのか、それともここまで来たことなのか?

 ……多分、両方だろう。


 ———さてと、


「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか、神楽坂」


 俺は真面目な声でそう言うと、神楽坂はビクッと体を震わせてこちらを向く。


「……だよね。私もちゃんと話すよ」


 神楽坂は観念したのか、落ち着いた声でそう口にする。

 まぁ俺がここまで来て、はいさよならってことは流石にしないだろう。


 神楽坂はそんな冷たい子じゃないはずだ。


「まず先に—————何で黙っていなくなったんだ?」


「……」


 神楽坂は少し俯いて黙ってしまう。

 いや、言おうとしている言葉を探しているのだろう。


「別に急に決まったわけじゃないんだろ?流石に「急にロシア行くぞ」ってのはおかしいからな」


「うん……桜学祭が終わったくらいにお父さんから言われたよ」


 ということは約2ヶ月前。

 それくらいだったら納得もできる。

 ……俺たちに言わないことには納得できないが。


 ————じゃあ、何故言わなかったのか。


 俺は神楽坂に迫るような言葉を口にする。


「だったらどうして……みんなに言わなかったんだ?」


 俺がそう言うと、神楽坂はゆっくりと口を開く。

 責めていない————いや、今の俺の口調は多分責めているようなものなんだろう。


 だって、そうだろ?


 俺達って黙っていなくなってもいいような関係だったのか?


 —————いや、そんなことはない。


 俺も西条院も麻耶ねぇも先輩もクラスの連中も。

 きっと彼女がいなくなるのを寂しがるに違いない。


 だからこそ、しっかりと伝えて、笑って見送りたかった。


 俺は神楽坂が紡ぐ言葉をじっと待つ。


「私は————」



 そして、神楽坂は口を開いた。

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