神楽坂とイヴにデート!(2)
何か今日の神楽坂が積極的な気がする。
いつもだったら1歩離れたような感じで接してくるはずなのに、今ではお互いの距離がゼロに近い。
ただ手を繋いでいただけなのに、今では立派な恋人繋ぎに進化。
それだけではなく、時折腕に抱きついては恥ずかしくてすぐに離れていくという行為を繰り返していたり—————いや、俺だって恥ずかしいんだよ?
そんな神楽坂を見ていると、先程までの落ち着いた気持ちは一転、美少女とデートしているという事を意識してしまい戸惑ってしまう。
………全く、困ったものだぜ。
これじゃ、立派に男らしく神楽坂をエスコートできないじゃないか。
しかし、これはこれで大変嬉しいもので、しっかり神楽坂を堪能しつつ、平静を装いながら接するようにしている。
————堪能って、ちょっといやらしくない?
「着いたね〜」
「あぁ、意外と距離があったな」
俺達はしばらく歩き、水族館前に到着。
何故かここまでの道のりがとても長く感じたが、きっと気の所為だろう。
ネットには駅から徒歩3分と書かれていたが、やっぱり気の所為だろう。
「ほい、じゃあこれ」
俺は財布から予め購入していたチケットをひとつ手渡す。
「え……ありがとう!じゃ、じゃあお金を———」
「お金は気にすんな。こういう時は男が出すって相場が決まってんだよ」
俺は財布からお金を取り出そうとする神楽坂を止める。
本当は現地でチケットを買っても良かったのだが、こういう風に神楽坂がお金を払おうとするから、予め購入しておいたのだ。
始めに買っておいた方がこいつも納得しやすそうだからな。
「で、でも……」
それでも引き下がらない神楽坂に対して、俺は頭を撫でる。
「ここはカッコつけさせてくれ。こんな美少女とデートさせてもらってるんだ、これは必要経費だよ」
「————ッ!?……ありがとう」
神楽坂は一瞬ビクッとなったが、しばらく頭を撫でていると、納得してくれたのかお礼を言う。
うんうん、そうでなくちゃな。
「じゃあ、早速入るか」
「うん!」
神楽坂は眩しい笑顔を向けながら、俺達は恋人繋ぎで水族館の中へと入っていった。
……ねぇねぇ、まだ恋人繋ぎなの?
♦♦♦
「わぁー!すごいね!」
神楽坂はアーチ状に広がっている水槽を見て驚きの声を上げる。
そこは下からも水槽の中を見渡せるようになっていた。
「ねぇ、時森くん!あそこにエイがいるよ!」
神楽坂ははしゃぎながら優雅に泳いでいるエイを指さす。
ぴょんぴょんと跳ねる姿は大変可愛らしいもので、周りの人達も優しい目で見ていた。
良かった……楽しんでいるようだな。
俺は神楽坂の様子を見て少し安心する。
しかし、エイか—————どこかクラスの男子達を連想させるな。
「エイって上から見ると結構かっこいいけど、下から見ると顔がブサイクだよな」
「ふふっ、そんなこと言っちゃダメだよ」
「いや、そうは言うがな……」
俺は再度エイの顔を見る。
……やっぱりブサイクだ。
あ、だからか!クラスの男子達を連想してしまったのは!
あいつらもブサイクだからなぁ。
「よし、あいつの事は山田と命名しよう」
「ふふっ、何それ」
神楽坂は可愛らしく小さく笑う。
よくやった山田。君のブサイクな顔のおかげで、神楽坂が楽しそうに笑ってくれたぞ。
俺は心の中で山田(エイ)に褒めながら、アーチ状の水槽を進んでいく。
その間に、神楽坂はあちらこちら動き回って水槽の中を見ていた。
……本当に、子供らしくて可愛いな。
俺は神楽坂の新しい一面を見れて少し嬉しく思う。
「へぇ〜、次は小さい水槽なんだね」
そしてアーチ状の水槽を抜けると、次は個別に見せるための小さな水槽が並んでいる部屋に入った。
「あ、見て見て!クラゲさんだよ!」
神楽坂は俺の腕を引っ張りながら、小さな水槽に入っているクラゲを指さす。
はしゃぎすぎてクラゲさんとか言ってるけど、他の人から子供みたいに見えちゃうよ。
いや、まぁ可愛いんだけどね。
「ふーん、どれどれ……こいつ、卵焼きみたいだな」
「だよね〜!ちょっと可愛いよね!」
「これ可愛いか?」
俺はそのクラゲを見てそう思ってしまう。
えーっと、なになに————『フライド・エッグ・ジェリーフィッシュ(別名:揚げ卵くらげ)』……確かに卵だったわ。
世の中、色んなクラゲもいるもんだなぁ〜。
……でもこれ可愛いか?
「こっちにはハリセンボンがいるよ!」
「ほうほう………どこかクラスメイトを連想させる顔だな」
「何それ?」
いやさ、ハリセンボン好きな人には申し訳ないけど……ブサイクじゃない?
小さく膨らんだ体にはっきりと見えるたらこ唇。……あまりお世辞にもかっこいいとは言えない。
やっぱりブサイクを見るとクラスメイトを連想してしまうな。
どうしてだろうね?
「ねぇねぇ!こっちにも色んなお魚いるよ!」
いつの間にか俺の手は両方空いてしまい、神楽坂ははしゃいで館内をあちらこちら見て回っている。
その姿は見ていて微笑ましいものであり、空いた両手の温もりさえ忘れさせていた。
「あまりはしゃいでどっか行くなよ〜」
「私、子供じゃないよ!」
いや、そのはしゃぎようは子供だから。
という言葉は口にせず、俺は先に見て回っている神楽坂の後ろをゆっくりと追いかけた。
……今日の水族館のチョイスは正解だったな。
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