神楽坂とイヴにデート!(1)

 学校も冬休みに入り、待ちに待ったクリスマスイブ。

 本格的に寒くなり、俺も厚手のコートを身にまとっている。


 時刻は午前8時前。

 朝っぱらだというのに、駅前にはあちらこちらにカップルがイチャイチャしている姿が目に入る。


 彼、彼女達はお互い愛を確かめ合うように手を繋いだり、立ち止まってハグしたり、そっと触れるだけの甘いキス—————全く、お熱いことで。


 以前の俺であれば、200文字にわたる呪詛を延々に繰り返し呟きながらカップルの横を通り過ぎていたが、今の俺は違う。


 そう—————今日はあの神楽坂とデートなんだから!


 きっと、俺達もあのお熱いカップルみたいにらぶまんきちゅーするに違いない!

 俺も始めは「荷物持ちかな?」って思っていたが、「デートです!」って言われたんだから間違いないはず!


 俺は夢に思わなかったクリスマスデートの為、昨日から密なデートプランを考えてきた。

 神楽坂には事前に集合時間と解散時間を聞いた。

 少し解散時間が早いことは少々意外だったが、ここは男たるもの立派にエスコートして見せようじゃないか!


 ————しかし、10分前に集合場所に来たが、まだ神楽坂はいない。


 よし、だったら神楽坂が来る前にもう一度デートプランの見直しを————


「お待たせ〜!」


 俺が携帯で確認しようとすると、少し離れたところで大きく手を振りながら銀髪の美少女が近づいてきた。


「ごめん、待った?」


「いや、待ってないぞ」


 神楽坂は少し息が乱れつつも、俺の所までやってきた。


 あぁ……これが彼氏彼女が日常的によくやる噂の「待った?」「いいや、待ってないよ」なのかぁ〜。

 幻だと思っていたが、現実に存在するとは………大変素晴らしいものですな。


「そっかぁ……」


 神楽坂は小さく胸をなでおろした。

 そんなに安心しなくてもいいんだぞ?俺が早く着いただけだし。


「あ、あの………」


 神楽坂は頬を赤くし、体をモジモジさせながら俺に上目遣いで聞いてきた。


「ど、どうかな……?」


 ————ふむ。

 ここでの「どうかな?」はきっと彼女の服のことを言っているのだろう。

 確か古今東西、リア充の男はデートの際に女性の服を褒めるという風習があると聞く。

 そこで安易に「似合ってるよ」とか「可愛いね」と言ってしまうと、「え、何それテキトー…」と言われ、好感度を下げてしまうらしい。

 なので、女性の服を褒める時には具体的に言う必要がある。


 だから俺は今日の彼女のコーデを見て、しっかり褒めるべく口を開く。


「いや、いいと思うぞ?明るいグレーのニットセーターとタイトスカートを合わせることで大人っぽく、トップスとスカートを暗めのグレーで揃え、バックとパンプスで赤を差し色にすることで、より一層オシャレに見える。そしてベレー帽を合わせることによって、女子校生らしい可愛さを与え、神楽坂の明るい雰囲気を十分に感じさせる————素晴らしい、とても似合っている!」


「まさかのマジレス……」


 あれ?ダメだったの?

 おっかしいな……かなり具体的に答えたはずなのに、何故神楽坂は若干引いているのだろう?

 ソースが間違っていたのかな?

 やばい……初っ端から躓いてしまった。


「でも、そっか……似合ってるんだね……」


 いや、神楽坂も頬を赤らめてニマニマしているので、あながち失敗ではないのかもしれない。

 俺はその事に安堵する。


「と、時森くんも……そ、その……かっこいいよ…」


 すると、神楽坂は頬を赤くした状態で、恥ずかしそうに俺の服装を褒めてくれた。


 やばい…ッ!今日、神楽坂可愛すぎないか!?

 いつもの神楽坂も可愛いが、今日の神楽坂は一段と可愛い気がする。


 これがクリスマスイブ補正なのか!?

 キリストの誕生日にこんな効果があっただなんて!?


「お、おう……ありがとう」


 俺は褒められた事の嬉しさよりも、神楽坂が可愛すぎて戸惑ってしまう。


「「………」」


 お互いの間に気まずい空気が流れる。


 いかん、まともに顔が見れなくて黙ってしまった。

 神楽坂も俺から視線を逸らして俯いているし—————どうしようこの空気!?


 え、みんな凄すぎじゃない!?世の中のカップルはこんな事を平然と乗り越えてきたっていうの!?

 思わず脱帽だよちくしょうめ!


「と、とにかく、そろそろ行くか」


「そ、そうだね!」


 俺は気まずい空気から脱するべく、とりあえずこの場から離れることにした。

 俺は神楽坂背を向け、駅の反対側へと歩き出す。


 あぁ、くそっ……顔が熱い。



♦♦♦



 しかし、気まずい空気も時間が経てば解決するもの。

 しばらく歩いていると、必然的にお互いの間に会話が生まれ、いつも通りに会話がすることが出来た。


 というのも、歩き出してから数分のこと。

 神楽坂が「ちょっと待ってて!」と言って横断歩道をゆっくりと歩いていたおばあちゃんを助けに行ったのがきっかけ。


 やっぱり、どんなに補正がかかっていようが神楽坂は神楽坂なんだ。

 優しくて、明るく、そして笑顔が似合う女の子。


 その事を改めて思った俺は緊張することも無く、普通に接することが出来た。

 神楽坂も俺の態度が移っていったのか、緊張することもなくいつも通りに接してくれた。


「ところで、今からどこに行くの?何も考えずに歩いてきたけど?」


 神楽坂は俺の顔を覗いて聞いてくる。


「今から行くのは水族館だな————っと、そういや神楽坂の意見も聞いていなかったな」


「ううん!大丈夫だよ!子供の時にしか行ったこと無かったし、楽しみだなぁ〜」


 ……良かった、どうやらチョイスは間違っていなかったようだ。

 俺は心の中で密かに安心する。


「今日は神楽坂とのデートだからな。お前に楽しんで貰えるよう頑張るさ」


「デ、デートっ!」


 俺は神楽坂に笑ってそう言うと、何故か神楽坂はまた顔を赤くして顔を逸らしてしまう。

 どうしたんだろうか?


 さっきまでは普通だったのに……熱でもあるのだろうか?



♦♦♦



(※アリス視点)


 ど、どどどどどうしよう!?今日の時森くん、カッコよすぎるよぉ!

 あれかな!?クリスマスイブ補正ってやつなのかな!?


「クリスマスの時の男子っていつもよりカッコよく見えるんだよね〜」ってクラスの女の子が言っていたのも分かる気がする!


 今日の時森くんは大人っぽい服装で、髪もしっかりワックスをつけてビシッとキメている。

 それに、さりげなく私を道路側に歩かせないように気をつかってくれてるし、極めつけはさっきのセリフ!


『今日は神楽坂とのデートだからな。お前に楽しんで貰えるよう頑張るさ』


 本当にドキドキが止らないよぉ!

 デートって言われちゃうと意識してしまうし、私のために頑張ってエスコートしてくれるって言われちゃたら、余計に心臓の鼓動が早くなっちゃう。


 しかも、あの優しく微笑む笑顔とか、おばあちゃんのお手伝いをして褒めながら頭を撫でられた時とか、もう心臓がバクバク鳴って時森くん聞こえていないかって心配だったもん!


 今は何とか平静を保っていられるように頑張っているけど、ちょっとした事でどうしても戸惑ってしまう。

 ……うぅ、こんなにドキドキするのは私だけなのかな?


 私は彼の横顔をちらりと見る。

 その顔は取り乱している様子もなく、顔が赤い私を心配しているようだった。


 ……不公平だと思う!

 私だけ取り乱してるのはなんか………こう……何か私だけ意識してるみたいだもん!


 時森くんにもちゃんとデートって意識して欲しい!

 もっと彼にドキドキしてもらいたいよ!


 すると、私は不意にある事を思いついた。


「そ、そっか……これはデートだもんね……デートだったら、大丈夫だよね……」


 私は彼に意識して貰えるよう、少しだけ勇気を振り絞る。


「……え、えいっ!」


 私は小さな掛け声と共に彼の手を強く握った。

 ……デ、デートだもん!手を繋いで歩くなんて普通だよね!


「お、おぅ……どうした神楽坂?」


 彼は少しだけ驚いて変な声が出たが、すぐにいつも通りの調子に戻ってしまう。


「……デートだったら、手繋ぐなんて当たり前だよね?」


「……そうだな」


 彼はいたって平静な態度でそう返す。

 ……うぅ、これでもダメなのかなぁ?


 私はちらりと時森くんの顔を見る。

 すると彼の顔はほんのりと赤くなっていた。


 あぁ、時森くんもちゃんと意識してくれてるんだなぁ。

 私はその事に嬉しくなり、思わず笑ってしまう。


「ふふっ、時森くん顔赤いよ?」


「うるせっ」


 彼は私から顔を背け、少しだけ歩くスピードを早くした。


 あぁーもう、時森くんは可愛いなー。

 きっと、彼は私のことを意識してくれて顔が赤くなってしまったんだと思う。

 そして、それを誤魔化すかのようにそっぽ向く時森くんは少し可愛く見えた。


 けど、顔が赤いのは私も同じだ。

 彼の手の温もりを感じると、私も同じくらい意識してしまう。


 けど、それでも私は嬉しくて、手を握りながら彼の後ろを歩いていった。



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※イチャイチャ回は苦手。

でも何故だろう?アリスが可愛く思えてくる。

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