懐かしき反省文……やっぱり俺悪くないよね?

「………はぁ」


 西条院の重いため息が生徒会室に響く。

 俺が西条院からクリスマスのお誘いを受けた日の放課後、浮かれる間もなく今日も今日とて生徒会は大忙し。


 俺も現在、働き方改革を無視したタダ働きをさせられている。

 ………あぁ、お給料欲しいなぁ。

 安〇さん………このブラックな生徒会に祝福を!


「どうしたんだい?西条院ちゃん?」


「結城さんですか………いえ、ちょっとこれを見て頭が痛くなっただけです」


 そう言って、西条院は先輩に1冊のファイルを見せた。


「うん?これは今までの反省文が閉じてあるファイルだね」


 先輩は西条院からファイルを受け取る。

 へぇ、そんなものまで生徒会が保管してるんだな。

 てっきり、先生が書かせるだけ書かせて、シュレッダーにぶち込んでいるだけかと思ったわ。


「中を見てください……はぁ」


 西条院は2度目のため息をつく。

 おいおい、ため息しちゃうと幸せが逃げていくぜお嬢さん?


「これは―――ッ!?すごいね……」


 先輩は中を見て驚き、俺の方を一瞥する。

 どうしたんですか先輩?どうしてこっちを見るんですか?


「どうしたの?――――わぁ……」


 神楽坂も気になったのか、先輩が持っているファイルを覗き、驚きの声をあげて俺の方を見る。

 だからどうしたというのか?そんなに見られても何も出ないぞ?


「どれどれ――――あちゃー望くん……これはすごいね」


 麻耶ねぇもファイルを見て俺の方も向く。

 待て、俺が何をしたというのか?流石にすっごい気になる。


「おい、さっきから俺の方を見て何をそんなに驚いているんだ?」


「これを見てください」


 そう言って、西条院は先輩が持っているファイルを見せる。

 俺も気になってファイルを覗くと、そこには懐かしいものが綺麗に閉じられていた。


「お、これは俺が今まで書いてきた反省文じゃないか」


 懐かしいなー。今まで色んな事で反省文書かされてきたのであまり覚えていない が、こうして見ると何か懐かしいものを感じる。

 本当に色々あったなぁ………。


「すごいね……200枚閉じれるファイルの中身が全部時森くんの反省文だよ」


 へぇー、俺ってそんなに反省文書いてきたのかー。

 ちょっと意外。


「全く………これだけ反省文を書かされる生徒を私は見たことがありませんよ…」


 そう言って西条院は額に手を当てる。

 そんなに呆れないでもいいじゃないか?

 誰だって反省文の1枚も書いたことがあるだろ?ただ、それが人より多いってだけなんだけで。


「どれどれ―――――『この度は、授業中にもかかわらず、クラスの友達と鬼ごっこをしていて申し訳ありません――――』へぇ、ちゃんと真面目に書いてるんだねぇ〜」


 麻耶ねぇは俺の反省文を見て少し感心する。

 俺だって、ちゃんと反省している時はちゃんと書くんだよ麻耶ねぇ。


「しかも、ちゃんと少年の反省文に教師からのコメントが書いてあるね――――『鬼ごっこを授業中にするやつは正直先生も見た事はないが、反省しているのであれば、次からはきちんと授業を受けるように』」


「……やっぱりこの学校だけだよね、授業中まで鬼ごっこする人って」


 神楽坂は呆れているが、そんなことないと思うぞ?

 どこの学校でも、嫉妬に狂った男子達が鈍器を持って襲いかかって来ることなんて日常茶飯事じゃないか?


「えっと、次は―――――『ねぇ、先生。俺って悪くないと思うんですよね。だって、追いかけてきたのはあいつらであって、俺って被害者だよ?』………全く反省してないね」


「むしろ開き直っていますね」


「失敬な。真面目に俺は被害者じゃないか」


 いつだってそうだ。俺はただ巻き込まれただけで、あいつらさえいなければ超優等生なんだぞ?

 今でも優等生なんだが。


「そう言っても時森くん、先生も『おい、時森。喧嘩両成敗って言葉を知らないのか?だからお前は馬鹿なんだよ』って言ってるよ?」


「待って、先生も俺が被害者って分かってるよね!?っていうか普通に悪口書かれてるんだけど!?」


 俺は先生のコメントに驚いた。

 初めてだよ、先生から普通に悪口言われたの?っていうか、喧嘩両成敗って言ってるくらいだから俺被害者だと分かっているよね?だったらなんで反省文を書かせるの?


「次は―――――『ねぇ、先生?どうしてこんな事をさせるの?ねぇ、どうして?どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして』……こっわ!………怖いよ少年」


「どれだけ追い詰められていたの望くん……」


「あの時は本当に辛かったからなぁ…」


 俺はしみじみとその反省文を書いた時の情景を思い出す。

 男子達にフルボッコにされ痛めつけられた体、冷えきった生徒指導室。

 外側からは鍵がかけられ、椅子ではなく硬い床に正座させられながら反省文を書かされる―――――あぁ、あの時は本当に辛かったなぁ。


 あれ?どうして涙が零れるんだろう?


「『ごめんな時森……先生もそこまで追い詰めるつもりはなかったんだ。今日はゆっくり休んで明日は精神科に受診して来い』――――先生もついに心配してるね」


 ……確かに、あの時の先生は妙に優しかった気がするな。

 追い詰めたのは先生のはずなのに。


「……はぁ、というわけで、ついに時森さんの反省文が収まりきれなくなったんです」


「あぁ、だからため息をついていたんだね」


 西条院は再度、3回目のため息をついた。

 おい、さすがに失礼じゃないか?

 俺だって好きで反省文を書いてるんじゃないからな?


「時森さん、このファイルを自分で棚に戻してください」


「へいへい」


 俺は重たい腰を上げ、西条院からファイルを受け取ると、並べられた棚に戻す。

 そこでふと、同じようなファイルが並べられているのを見つける。


「なんだこれ?」


 そのファイルには『反省文②』と書かれてあった。

 俺は気になって中を見てみると、そこには―――――


『全部時森が悪いんです!』

『そうです!あいつが幸せを独り占めしているから!』

『理不尽だよねぇ〜、まだ僕時森を殺せてないのに反省文だなんて〜』


「俺達のクラスの男子しかねぇ………」


 俺と同様にびっしり詰まった我がクラスの反省文があった。


 ―――――あいつらも、俺と同じくらい反省文書いているんだなぁ。


 全く、これだから馬鹿は困るんだ。

 俺みたいな優等生を見習って欲しい。


 俺は自分のことを棚に上げ、クラスの連中の馬鹿さ加減に呆れながら、そのファイルを棚に戻した。



 ♦♦♦



「では、今日はこれくらいにしましょうか」


 そう言って、西条院は皆に解散を告げる。


 あぁー!やっと終わったー!

 ほんと、タダ働きは疲れるだけだなぁ。

 俺は固まった体をほぐすように体を動かした。


「お疲れ様」


「お疲れ〜!」


 先輩麻耶ねぇも、各々帰る準備を始めた。


 さてと、俺も帰る準備しますかね。

 俺は作業を中断し、開いていたパソコンを閉じる。


「麻耶ねぇに神楽坂、さっさと帰ろうぜ―――――あれ?神楽坂は?」


 俺は帰ろうと2人に声をかけようとすると、そこには神楽坂の姿がなかった。

 あれ、おかしいな?さっきまではいたはずなんだが……。


「あぁ、少年。さっき神楽坂ちゃんなら職員室に行くって言って出ていったよ」


 先輩は、帰る準備をしながら俺にそう言った。

 ……職員室?何か用事でもあるのだろうか?


「ありがとうございます先輩。――――どうする麻耶ねぇ?早く帰ってくるかもしれないし、神楽坂来るまで待ってもいいか?」


「私はいいよ〜!」


 麻耶ねぇはソファーに座りながら了承してくれた。

 ……流石に、1人だけ置いてけぼりなんて可愛そうだからな。


 カバンもここに置いてあるし、戻ってくるだろう。


 俺はそんなことを思いつつ、麻耶ねぇの隣に座りながら、ゆっくりと神楽坂を待った。



 ♦♦♦



(※アリス視点)



「これで、手続きは以上です」


 そう言って、担任の先生は書類をトンと机の上に置いた。

 私は今、やらなければいけない手続きがあるので、1人で職員室に来ていた。


「ありがとうございます」


 私は先生にお礼を言う。

 それと同時に、私は無事手続きが終わったことに安堵し、小さく胸を撫で下ろす。


「けど神楽坂さん――――本当にいいの?」


「………どういうことですか?」


 私は先生が言っている意味がわからず、思わず聞き返してしまう。


「みんなにちゃんと言わなくてもいいの?」


 先生は心配そうに私の顔色を伺いながら再度聞いてくる。

 その心配は嬉しいけど、今の私には心を締め付けるものだった。


「大丈夫です先生―――――ご心配ありがとうございます」


 私は力なく笑うと、先生に一礼して職員室を出る。


 やっぱり思ってしまう。

 本当にこれでいいのかって。


 けど、どうしてもみんなに言うには私の勇気が足りなかった。

 きっと言った方がいいのだろう。

 その方がいいっていうことは頭ではしっかりと理解している。


 私は階段を登り生徒会室へと戻る。

 扉を開けると、そこには私を待っていた麻耶先輩と時森くんの姿があった。


「おう、おかえり」


「早かったね〜」


 2人は私を見ると、軽い口調で帰ってきた私を迎えてくれる。

 くつろいでいるところを見ると、きっと私が帰ってくるのを待ってくれていたのだろう。


「ごめんね!待っててくれてありがとう!」


 私は2人に元気よくお礼を言う。

 そして、私は2人を待たせないように急いで帰る支度をする。


「じゃあ、帰るか」


「うん!」


「そうだね〜」


 私達は時森くんの合図と共に、静まり返った生徒会室後にした。

 そして、みんなで仲良く笑いながら雑談を交えながら、私達は帰宅する。










 私は怖いんだ。

 この関係を壊してしまいそうで、私に対する目が変わってしまいそうで、私はみんなに告げられないでいる。


 いつかはその時が来るのに、どうしても私には勇気が足りなかった。


 こうして、私はみんなに告げることも無く冬休みに入り、待ちに待ったクリスマスイブを迎える。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ※いよいよ次回はついにクリスマスイブ!

 お待たせして申し訳ありません!


 次回は明日投稿する予定です!



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