飯を振舞ってあげようとしただけなのに、どうして空気が重いの?

※作者のコメント

ちゃんと書きました!真面目のマジです!


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 生徒会も終わり、俺達は仲良く帰宅していた。

 隣には今ではすっかりお馴染みの麻耶ねぇと神楽坂が並んで歩いている。


 日はすっかり沈み、帰宅している生徒も俺達しかいない。

 そのおかげで、俺は周りから嫉妬の目を浴びることもなく安心して帰ることができている。

 あれだよね、生徒会に入った唯一のメリットだよね。


「ん~っ、やっと生徒会の仕事が終わったね~」


 麻耶ねぇは腕を大きく上で組み、背伸びをしていた。

 そのしぐさは大変すばらしい。

 何故なら、背伸びしたおかげで大きな胸がしっかりと強調されているんだから!

 ……Fカップはあるのかな?


「————時森くん、どこ見てるのかな?かな?」


「ん?麻耶ねぇのむ————いえ、お空を見てました」


 どうしてでしょう?神楽坂からものすごい圧を感じたんだけど?

 しかも、どうして胸見てるの分かったの?あれですか、とうとう西条院と同じ域にでも達したのでしょうか?


 別に胸を見て良くない?どうして、胸見ただけでそんな圧をかけてくるの?

 神楽坂だって十分に大きいじゃん……。


「相変わらず、望くんはおっぱいが大好きだねぇ~」


「否定はしないが麻耶ねぇ、今はそんなことを言ってはいけない」


 麻耶ねぇがそんなことを言うと、神楽坂の目からふぅっと光が消えた。

 あ、やばい————これ、神楽坂の不機嫌がピークに達した時の状態だ。


 ほら言ったじゃん!今は刺激しちゃダメなんだって!

 なんでか分からないけど、今の神楽坂に胸の話はNGだから!


「おっぱいだったら、私の見てくれればいいのに……」


 神楽坂が不満げに自分の胸を触りながら小さく呟いていたが、少し聞き取れなかった。

 麻耶ねぇと自分の胸を見て比較しているのだろうか?

 大丈夫、西条院よりも大きいから!安心して!


「そ、そんなことより!帰りスーパーに寄ってもいいか?」


 俺は慌てて話を逸らす。

 これ以上、神楽坂を不機嫌にしてはいけない。俺の中の勘がそう訴えていた。


「別にいいよ!今日の夜ご飯でも買うの?」


「まぁ、そうだな」


「え?時森くん料理できるの?」


 神楽坂は目に光が灯り、俺が料理できることが意外なのか、そう聞いてくる。

 ………よかった、どうやら神楽坂は落ち着いたようだ。


 本当、俺がおっぱい好きだなんて今更なのに、どうして不機嫌だったんだろう?

 人の気持ちはわからないなぁ。


「ん?まぁ、できるぞ?というか一人暮らしだし、料理ができないと死活問題だからな」


 まぁ、モテるためにお料理教室に通っていたという理由もあるが。


「え……時森くん一人暮らしだったの?」


「あぁ、両親が一年前に他界してしまったからな」


「あっ、ごめん…」


 神楽坂は聞いてはいけない事を聞いてしまったと思い、申し訳なさそうに謝った。 

 

「気にするな、もうとっくに気持ちの整理もついたし、たまに麻耶ねぇの家族に世話になっているから大丈夫だ」


「うんうん、たまに遊びに来てるよ!」


 俺には両親がいない。

 一年前、「新婚旅行に行ってくる!」と言ってハワイに行く途中、飛行機事故によって亡くなったのだ。 

 俺も「いい年こいて何が新婚旅行だ」と呆れていたが、まさか事故にあうなんて思ってもいなかった。


 その時の俺は中学3年生。

 親戚もおらず、孤児院に入れるかという話も上がったのだが、幸いにして親が残したお金で一人暮らしはできたので、こうして今一人暮らしをしている。


 そんな俺を麻耶ねぇの家族は、「家で暮らさない?」と言ってくれたのが、申し訳ないので断った。

 今は残してくれたお金以外にも服を作ったりしてお金を稼いでいるので、生活は安定している。

 それでも、やはり一人暮らしは寂しいもので、ちょくちょく麻耶ねぇの家に遊びに行っている。


 本当に……麻耶ねぇの家族には感謝している。

 こんな俺でも、家族のように接してくれるんだから。

 多分、麻耶ねぇの家族がいなければ、こうして明るく振舞えることもなく、家族の死から立ち直ることはできなかっただろう。


 だから、麻耶ねぇの家族には感謝しかない。

そして、俺も麻耶ねぇの家族の事は第2の家族だと思っている。

今では麻耶ねぇの両親を「父さん」「母さん」と呼ぶほどに。


「それでも、ごめんね?私、不謹慎なこと言っちゃったかも……」


「気にするなって言っただろ?それに、今は支えてくれる人もいて寂しくなんかないんだから」


 俺は、神楽坂を安心させるように頭を撫でた。

 

「……うん」


 神楽坂は頭を撫でられて安心したのか、声音も先ほどの申し訳ない様子から明るいものへと変わっていった。


 やっぱり、神楽坂は明るくないとな。

 俺のせいで彼女の沈んだ表情は見たくない。

 変に気を使わず、ただ普通に明るく接してくれる方が俺も嬉しいからな。


「どうする?今日も家来る?」


「いや、一昨日行ったばかりだしな。今日やめとくよ」


「そっかー、前も言ったけど気を使わなくていいからね!お母さんも望くんが来てくれるのが嬉しいから!」


「分かったって、そしたら明日顔を出すよ。母さんにもそう伝えておいてくれ」


「うん、分かった〜」


 本当に、麻耶ねぇにも感謝している。

 俺が落ち込んでいる時に一番最初に励ましてくれたのが麻耶ねぇだった。

 葬式の日、俺が一人葬儀場で泣いていると、優しく、抱きしめて慰めてくれた。


『大丈夫、おねぇちゃんがいるから。ずっと望くんのそばにいるから…』


 その時の言葉を今でも覚えている。

 あの時の言葉がどれだけ俺の心を救ってくれたことか……。


 普段は邪険にしてしまうが、麻耶ねぇは俺が大切にしている人だ。

 だから、少しずつ俺なりに彼女を支えてやりたい。

 今でも俺はそう思っている。


「そうだ、久しぶりに家で飯食べるか、麻耶ねぇ?」


 俺は、昔のことを思い出した所為か、麻耶ねぇを家に誘った。

 恩返しってわけじゃなが、たまには飯でも作ってあげないとな。


「うん!行く行く~」


 麻耶ねぇは俺の隣で元気よく返事をして腕に抱きつく。

 ………あぁ、こんな事をしなければ、麻耶ねぇには文句ないんだけどなぁ。

 あまり思春期ボーイを刺激しないでほしい。


「あ、あの!私も行っていいかな!」


 すると、神楽坂も家に行きたいと言い出す。

 ………別に飯を振舞うのは構わないのだが。


「いいのか?一人暮らしの男の家に来ても?」


 そう、そこなのだ。

 麻耶ねぇが来るとしても、俺も一人の男。

 神楽坂みたいな美少女と一つ屋根の下で過ごすって、結構危険なんだよ?

 主に、この事実を知った男連中に殺されないかとか。


「だ、大丈夫!心の準備はできてるから!」


 そんな気合を入れて来なくても……。

 俺の家に来るのはそんなに勇気がいることなのかしら?

 それとも襲われる覚悟でもあるっていうの?


「俺も男だぞ?」


「知ってる!」


「男はみんな狼さんなんだぞ?」


「知ってるよ!」


「狼さんは神楽坂みたいな美少女と一緒にいると襲っちゃうんだぞ?」


「だ、大丈夫!……今日は見られても大丈夫な下着穿いてきたから!」


「ごめん、俺絶対に襲わないから、そんなこと公共の場で叫ばないで」


 神楽坂は往来の場で大きな声で叫んだ。

 やめて!俺が悪かったから!顔を赤くしてそんなこと言わないで!

 ほら、周りの人たちがひそひそとこちらを見ているでしょ!


 なんで神楽坂はそこまでして俺の家に行きたいの?

 しかも、今の発言だと襲ってもいいってことですよね?

 それは大変魅力的なのですが、流石に麻耶ねぇのいるところでは襲ったりしませんよ————麻耶ねぇがいなくても襲わないからね!?


「………別に望くんの家に来てもいいんじゃないかな?」


 俺達のやり取りを聞いていた麻耶ねぇがそんなことを言い出す。

 ————2トーンぐらい声を低くしながら。


「いや、別に俺も来てほしくないわけではなくて、男の家に上がるということがどれだけ危険なこ————」


「ちょっと、二人で話したいこともあるしね」


「———ッ!?………わ、私もっ!前々から麻耶先輩とは二人で話したいことがありました!」


「えぇ………なんでこの二人は火花散らしてるの?」


 麻耶ねぇと神楽坂はお互いの間に何かあるのか、火花を散らし合っていた。

 というか、二人で話したいことって何?

 ちなみに、今から行くところって俺の家なの分かってる?二人で話している間、俺ってどうしたらいの?


 二人の間に不穏な空気が流れつつも、俺たちは買い物をするべくスーパーに向かった。


 ………あぁ、空気が重いよぅ。

 俺、別に飯を振舞おうとしただけなのになぁ…。

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