BL好きじゃないよね?ねぇ!?

「神楽坂よ、君には俺の寿命でも縮める趣味でもあるのかね?うぅん?」


「……ごめんなさい」


 神楽坂は俺に説教されて小さく落ち込む。

 ……この姿を見るのも何回目だろうか?


 ……あぁもう!そんなにしょぼくれてもダメ!何かこっちが悪いみたいに思えるでしょう!?


 少しは学習しなさいよ!本当にもう!


「望くん望くん」


「どうした麻耶ねぇ」


 俺が神楽坂に説教していると、横に座っていた麻耶ねぇに肩を叩かれる。


「最近、私達のクラスでこんなのが流行ってるんだよねぇ〜」


 そう言って、唐突に麻耶ねぇは俺に1冊の薄い本を渡してきた。


 授業も終わり只今放課後。

 部活のない生徒なら帰宅しているのだろうが、生憎俺は生徒会室でタダ働き。


 あぁ…なんで俺生徒会に入ったんだろう?

 教師から脅されたからです、はい。


 俺達、生徒会は桜学祭が終わっても大忙し。

 各部活の備品のチェックや予算配分、全校集会のプログラムの作成など、桜学祭でできなかった仕事がわんさかある。


 ……そりゃ、仕事しなきゃいけないよね。


 話が逸れてしまったが、俺は麻耶ねぇから渡された薄い本を手に取る。


「どれどれ……『男達の熱い友情〜禁断の愛は誰にも止めることはできない〜』……ふむふむ」


 俺はそんなタイトルの本をページめくる。

 するとそこには開始1ページで男達が裸でくんずほぐれずで抱き合っていた。


「—————麻耶ねぇ、これは?」


「うん、友達に進められた本だよ〜」


「今すぐその友達とは縁を切りなさい」


 なんでこんなもの流行ってるの?

 おかしくない?男子達のイチャラブストーリーって一部の人しか需要ないんじゃなかったの?


 麻耶ねぇの友達はかなり腐ってるんじゃなかろうか?

 交友関係が心配になってきた。


「うわぁ………うわぁ…」


「これは凄いですね……」


 仕事をしていた西条院とお茶くみをしていた神楽坂がこちらに近づいて薄い本を見て小さく呟く。

 普通の女の子であれば、そんな声が盛れるのも仕方が無いだろう。

 だって、普通に気持ち悪いもの。


 だから2人とも、顔を赤くしながらページを捲るんじゃありません、君たちに悪影響でしょ?


「確かに、うちのクラスでは男女問わずにBLが流行っているね」


「先輩、ちょっとその発言にはおかしいところがあります」


 先輩も仕事を中断して、薄い本を片手に持ってそう口にした。


 ……俺、先輩のクラス行きたくないっす。

 なんで男子にまで流行ってるんですか……?狙われそうで怖いんですけど。


「私もコレ見ちゃって、ちょっとハマっちゃたんだよね〜」


「弟としてのお願いです。どうかハマらないでください」


 俺は麻耶ねぇに向かって土下座をする。


 だって嫌じゃん!幼なじみのお姉ちゃんがBL好きなんてさ!?

 もしかしたら俺が誰か男子と話していたら「あぁ…望くんの受け……尊い」なんて声が聞こえるかもしれないじゃん!恥ずかしいよ俺!?


 だから神楽坂と西条院よ、次のページをめくるのはやめなさい!友達でもBL好きは嫌なんです!


「少年、諦めてくれ。もう、少年の知っている麻耶じゃないんだ」


「……先輩」


「『少年、諦めてくれ。もう、少年の知っている俺じゃないんだ』—————これって時森くんが受けで結城先輩が攻めってうことかな?」


「待て神楽坂、人が違う。」


 やばい、BL本に興味を持ってしまったからか、神楽坂は耳がイカれてしまったようだ。

 今の神楽坂には、男たちの会話が都合よくBLに改竄されてしまうようだ。


 人が違うだけでこんなにBLっぽくなるなんて……日本語って難しい。


「麻耶は違う世界へと飛び立ってしまった。彼女の性癖は変わってしまったんだ」


「『俺は違う世界へと飛び立ってしまった。俺はお前の事を愛しているんだ!』—————いえ、案外逆かもしれませんよ?」


「違う西条院。逆とか以前に台詞の後半が違う」


 西条院も耳がイカれているのでは無いのか?

 後半部分のセリフが全く掠ってもいない。


「どうか、少年の力で麻耶を元の道に戻してあげてくれ!」


「『はぁ……はぁ……最高だ少年ッ!こんなに気持ちいいのは初めてだ!もっと…もっと、俺にくれ!』—————けど、望くんは受けであって欲しいと思うな」


「どうやったらそう聞こえるんだよ!?もう一文字も掠ってねぇじゃねぇか!?」


 このBL本恐ろしいッ!

 これを見た人は発言がBLっぽく聞こえる呪いにでもかかっているの!?

 麻耶ねぇに至っては男が喋っているだけで、脳内でBLゼリフに変換されてしまうようだ。


「冗談に決まってるじゃないですか」


「そうだよ〜、こんな気持ち悪いのにハマるわけないじゃん!」


「時森くん、流石に私でもこれは好きになれないよ」


 三人は、口を揃えて否定する。


 ……そうか、なら俺も嬉しいのだがな。

 俺の親しい人達がBLにハマるなんてさすがの俺でもショックしかないからな。


 しかも、彼女達は学園3大美女と呼ばれるほどの美少女さんである。

 そんな彼女達がBL好きなんてことになったら、きっと学校中の男子達はショックでしばらく寝込んでしまうだろう。


 俺は、彼女達の大丈夫という言葉に安心した。


「じゃあ先輩、仕事の続きでもしましょうか」


「『じゃあ先輩、この続きでもしましょうか』—————時森くんも乗り気だったんだね……」


 …………。


「俺、この書類どうやったらいいのか分からないんですよね」


「『俺、ここからどうやって動いたらいいのか分からないんですよね』—————流石の私達でも引きますね………」


 …………。


「まぁ、後で西条院にでも教えてもらえばいいですかね?」


「『先輩……ちゃんと気持ちよくしてくださいね?』—————私、望くんの性癖にはついていけないよぉ……」


「俺も君たちの会話についていけないっ!!!」


 どうして俺が先輩好きみたいな会話になってんの!?

 どう考えても俺の言葉はまともだったよね!?


 しかもなんで続けちゃうのよ!?

 俺、先輩と何してたの!?変なことしてないよね!?ねぇ!?

 

「まぁ、冗談はこれくらいにして、仕事に戻りますか」


「そうだね、時森くんも戻ろ?」


 そう言って、彼女たちは自分の作業へと戻っていった。

 何故俺はこんなにも疲れなくてはいけないのか—————腑に落ちない。


 しかし、本当に大丈夫だろうか?


 まぁ、彼女達ならBLにハマってしまうなんてことは無いだろう。

 しかも、西条院には好きな人がいる。そう、だからちゃんと男が好きなはずだ………はずなんだと思う。


 俺はそう信じて、自分の仕事に戻ろうとした。

 すると先輩は俺に近づいてきて、俺に向かって小声で話しかけてきた。


「ちなみに少年、うちのクラスではこの本を見ただけでBL好きになってしまったんだ」


 そして先輩はそう言い残し、自分の作業に戻っていった。


 …………。


「待って先輩!今のどういう事っすか!?」


 なんでそう不安になるようなこと最後に言い残したの!?この本マジで呪われているんじゃないのか!?


 っていうか、みんな本当にBL好きじゃないよね!?ねぇ!?




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


※作者からのコメント


変な話になってしまってごめんなさいm(_ _)m


次話からちゃんと書きますのでよろしくお願いします!

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