俺、今月たまたま予定が空いてるんだ!

 12月に入り季節は冬。

 もう吐く息は白く、手袋やマフラーをしている人を多く見かけるこの季節。

 桜学祭も終わり、気持ちをきっちり切り替え、学生であるみんなは学業に勤しんでいた。


 といっても、俺達はまだ1年生。

 受験もない俺達はいつもと変わらない日常を送っている。


 そして、我が1年2組はいつもと変わらなく、教室で友人同士のたわいのない会話を繰り広げていた。


「俺ってさ、今月は特別に予定を入れてないんだよな」


「奇遇だな、俺も今月だけ予定が入っていないんだ」


「あぁ、俺もなんだ。特に24日は何もないんだよな」


 (((チラッ)))


「「「………」」」


 教室の隅っこで、我がクラスの男子達はいつもと変わらず楽しく友達とお喋りしている。

 うんうん、友達との交流は大事だよな。


「そういえば今月はあの日だよな」


「そうだな、特に気にしていなかったがあの日があったな」


「確かに、あの日だったな」


 (((チラッ)))


「「「………」」」


 しかし、男子達の楽しい会話とは裏腹に、周りにいる女子たちの空気は沈んでいた。

 どうしてだろう?もしかして彼女達はあの日なのかな?


「あの人達はさっきから何故私達をチラチラと見ているのでしょうか?」


「特に女子を見ているよね………」


 西条院と神楽坂は呆れた目でクラスの男子達を見る。

 現在朝のホームルーム前。

 俺達はいつもと同じメンバーで楽しい楽しい会話をしていた。


「そう言うな、きっとお前らの気の所為なんだ」


「いえ、完全に下心が見えてしまっているのですが……」


 そう言って、金髪の美少女はため息をついた。


 彼女の名前は西条院柊夜。長い金髪と整った顔立ちが特徴で、一年生ながら生徒会長を務める完全才女である。

 そして、日本では知らない人はいない西条院グループの一人娘だったりする。

 だが、今まで彼女なりにその事に不満を持っていたようで、桜学祭で色々なことがあった。


 しかし、今ではちゃんと解決し、今までよりいい毎日を送っているようだ。

 本当に、良かったね西条院さん…。後は胸の平べったさを解決すればこれで君の悩みも解決—————


「いだぁい!?」


「すみません、埃を取ってあげようとしたのですが……」


「君は埃を取ってあげる時はグーで叩いちゃうの?」


 俺が軽く西条院を紹介していたのだが、何故かグーで頭を殴られてしまった。

 ……おかしい、しっかりと読者の皆さんに伝えてあげようと思っただけなのに。


「時森くん、大丈夫?」


 そう言いながら、蹲る俺を心配してくれる銀髪の美少女。


 彼女の名前は神楽坂アリス。サラリとした銀髪が特徴の美少女さんで、小柄な体型と、その愛くるしさで、学内外問わずの人気者。密かに神楽坂のファンクラブも存在しているらしい。


 そして、彼女はなんとロシアと日本のハーフさん。

 けど、生まれも育ちも日本のようで、試しにロシア語で話してみたのだが「……?」という反応がかえってきたことから、彼女のロシアは血だけなようだ。


 しかし、こうして改めて彼女達を紹介してみると、彼女たちは反対……とはいかないが、かなり容姿も性格もいい意味で違うな。


 西条院は金髪に対して神楽坂は銀髪。


 お淑やかに対して明るい性格。


 ぺったんこな胸に隠れボインのむ—————


「どこ見て紹介してんだコラ?(ボコッ!)」


「む、胸を見て紹介しないでよ!(バチン!)」


 何故、彼女達は俺が読者の皆さんに対して紹介しているのが分かったんだろうか?

 しっかり脳内で行っていたはずなのだが……視線なのだろうか?


 俺は彼女達のエスパーっぷりに驚きながらも、西条院と神楽坂に叩かれた頬をさする。

 ……本当に容赦ないな。


「で、結局何の話をしていたんだっけ?」


「全くもう……男子達の下心丸出しの行動ですよ」


 西条院は呆れた目を向けながら、小さくため息をつく。


「多分あれって、今月アレがあるからだよね?」


「もうあいつらを擁護する気が起こらないから言うけどその通りだ」


 そう、話が逸れてしまったが、男子達がしている謎の行動は今月アレがあるからなんだ。


 その『アレ』とは皆さんお察しの通り—————


「クリスマスですよね」


「クリスマスだね」


 今月は12月。

 寒くなってきたこの季節の初っ端リア充イベント—————それが『クリスマス』。


 それは若い男女がモミの木の下でキャッキャウフフをするイベント。

 寒い夜の中、「待った?」「ううん、今来たとこだよ」から始まり、「イルミネーション綺麗だね」「君の方が綺麗だよ」という言葉で締めくくり、最後にはそっと触れるだけの口付け。

 聖なる夜には甘いキスを—————と、某有名人が言っているほど、お互いの仲を深めることの出来る素晴らしいイベント——————それがクリスマスである。


 しかし、そのイベントもあくまでクリスマスに会う想い人がいる場合のみだ。

 相手がいない非リア充達は、その聖なる夜で一人寂しく、家でお母さんが作ってくれたケーキを食べるだけ。

 そして、次の日「俺、彼女とイルミ見に行ってきたんだよね〜」という友達からの自慢話を聞かされ、惨めな気持ちで返事をする。


 それだけは絶対に嫌だ!


 だからこそ、彼らは必死に今月(クリスマス)空いてますよアピールをしているのだろう。

 自分が一人寂しく聖なる夜を過ごさないように。


 ……全く、惨めなものだな。


「確かに……あいつらにも困ったものだな」


「……気持ちは理解できるんだけどね」


 そう言って神楽坂は俺の方をちらっと見る。

 ん?何故にこっち向いた?というか、お前には非リア充の気持ちなんて分からないだろう?

 だって、その気になれば絶対にイチャラブできるんだから。


「さてと———」


 俺は、ゆっくりと席を立つ。


「どこに行くのですか?」


「ちょっと、友達と交流を深めるために、な」


 そして、教室の隅にいる男子達に向かっていった。

 うん、友達の仲を深めるのはいい事だよね!


「よう、お前ら」


「お、どうした時森」


 俺が男子達の塊の方に行くと、男子Aが俺に反応してくれた。


「いや、俺もちょうど今月は暇だなって思ってな」


「なんだお前もか、奇遇だな」


「あぁ全くだ。本当に偶然だよな、みんな今月だけ予定が入ってないなんてな」


「そうだな」


((((チラッ))))


「「「………」」」


「こんな偶然もあるもんだなー」


「あぁ、本当にな」


「「「「はっはっははー」」」」


((((チラッ))))


「「「………」」」


 あぁ、本当にどうしてだろうなー。

 今月だけ、たまたま、偶然、予定が入ってないんだよなー!

 特に24日!誰か一緒に遊んでくれる女の子はいないかなぁ〜?


「あ、あのっ!」


 俺がそんな事を思っていると、神楽坂は勢いよく席を立って声をかけてきた。


「ん、どうした?」


 俺は神楽坂近づいて尋ねる。

 顔も若干赤いし—————熱でもあるのか?


「………大丈夫、勇気を出せば大丈夫」


 何が大丈夫なのだろうか?

 神楽坂は俯きながらブツブツと小さな声で呟いている。


 ……普通に心配になってきたな。


「と、時森くんは、24日予定がないんだよね!?」


「お、おう……そうだな」


 神楽坂は俺にぐっと近づいてきた。

 ちょっと待って神楽坂ちゃん!近いんだって!

 可愛らしい顔が近くて、俺ドキドキしちゃうから少し離れてくれない!?


 俺は神楽坂の顔が近くに迫って、少し戸惑ってしまった。


「じゃ、じゃあさ……私と一緒に—————」


「殺気!?」


 神楽坂が何か言いかけたが、俺は背中に感じた鋭い視線に、思わず後ろを振り返る。

 そこには鬼のような顔で鈍器とスタンガンを持っている男子の姿があった。

 ……みんな武器のバリエーション増えましたね。


「ど、どうしたの」


 神楽坂は俺から少し離れ、俺の顔を心配そうに覗く。

 心配してくれてありがとう神楽坂。本当に今日も天使のように可愛いよ。


「大丈夫だ神楽坂。どうしてか、背中に熱い視線を感じただけだから」


「そ、そうなんだ……」


 神楽坂は俺の言葉を聞いて安心したのか、顔を離した。


「そ、それでね……」


 そして、神楽坂は再び口を開こうとしたが、俺は慌てて神楽坂の肩をがっしり掴む。


「頼む神楽坂。お願いだから発言には細心の注意をはらってくれ」


「う、うん」


 俺の必死の剣幕に、神楽坂はたじろいでしまう。

 だって仕方ないじゃないか……。


 神楽坂の発言次第では僕、殺されちゃうんだもん!


 俺には分かる。神楽坂の発言がグレーゾーンに入ると、やつらは己の嫉妬と妬みによって、悪魔の権化と化してしまうだろう……。


 そうなれば、俺の命が危なくなってしまう!


 けどまぁ、今まで散々神楽坂に注意してきたんだ。

 そろそろ俺の苦労もくみ取って、あいつらを刺激しない発言をしてくれるに違いない。


 俺は神楽坂を信じ、彼女が紡ぐ言葉をじっと聞いた。


「あ、あのね!私と一緒にクリスマ————」


「さらばッ!」


「「「待てや時森ぃぃぃぃぃぃ!!!」」」


 俺は、神楽坂が言い終わる前に、教室から一目散と逃げる。

 すると、男子達は俺の後を追って教室から出ていった。

 ご丁寧に鈍器とスタンガンを持参して。


「お前だけいい思いなのは不公平だよなぁ!」


「神楽坂さんと一緒に何だって!?」


「もうだめだよぉ~、殺るしかないよぉ~」


「ひぃぃぃぃぃ、殺されるぅぅぅぅぅ!」


 俺は、殺さんとばかりに迫ってくる男子達から逃れるべく、学園中を逃げ回った。


「神楽坂!発言には注意を払ってって言ったじゃないかぁぁぁぁぁぁぁ!」


 廊下には、俺の悲痛な叫びが響いたのであった。





 そして、男子達が一斉にいなくなった教室では先ほどとは違い、静寂に包まれる。


「あぁもう……どうしてこうなっちゃうかなぁ…」


 神楽坂は小さく残念そうにつぶやいていたが、当の本人は命のため、必死に逃げ回っていた。



 結局、今日も今日とて俺たちは先生につかまり、生徒指導室で説教された後、反省文を書かされたのであった。


 ……毎回思うけど、俺悪いことしてないのに何で怒られなきゃいけないの?

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