第3章 クリスマス編

プロローグ

 桜学祭も終わり、12月も迫ってきたこの頃、私は一人ベットの上でくつろいでいた。


「ふふふ、何度見ても可愛いよね」


 私は写真立て着飾っている一枚の写真を手に取る。

 それは桜学祭が終わった後に撮ったクラスの集合写真。

 そこには私とひいちゃん、佐藤くんにクラスメイト—————そして、時森くんが写っていた。


「意外と、メイド服似合っていたもんね……」


 私は時森くんが写っているところを指でちょんとつついた。

 本当に、普段のおちゃらけた雰囲気から一転して、こんなに可愛くなるなんてずるいよね。

 こんなこと言ったら怒られちゃうかもしれないけど。


「あーあ、やっぱり好きだなぁ……」


 私は一人呟く。

 それは誰に対してなのか。答えはこの胸の高鳴りで分かるだろう。


 彼の姿を見てしまうとどうしてもドキドキしてしまったり、緊張してしまう。

 これも全部、あの日の放課後からだ。


 告白され、襲いかかられそうになった私を颯爽と駆けつけてくれた彼。

 その姿は、いつものふざけた姿とは裏腹に、真面目で逞しかった。


 今でも、その彼の姿は鮮明に覚えている。

 ………あの時は本当にかっこよかったなぁ。


 思い出すと、急に顔が熱くなるのを感じる。

 うぅ………時森くんのことを考えたらいつもこうなっちゃうよー!


「これも全部時森くんのせいなんだからね」


 私は写真に写っている時森くんを指で再びつつく。

 私が彼に対する反撃はこれくらいしか出来ないのだ。


「でも、本当にここ数ヶ月、色んなことがあったなぁ」


 生徒会に入ったり桜学祭の実行委員もして……ちょっと恥ずかしいメイド服も着た。

 今までの私だったらこんな事しなかっただろう。


 変わったきっかけは彼の告白の練習をしている場に出くわした事。

 そこで、時森くんに私達の彼氏を作る手伝いをお願いして、それからどんどん変わっていった。


 私達は今まで誰に対しても心を開いていなかった。

 それも全て、周りが私達個人で見てくれなかったからだ。


 けど、時森くんはそれに気づき、彼だけは下心もなく普通に私達個人として接してくれた。

 ……きっと、時森くんはその時の私がどれだけ嬉しかったか分かってないんだろうなぁ。


 彼のおかげもあって、私達も自分からみんなで本心で話すようになった。

 その結果、クラスメイトや先輩達も私個人として見てくれるようになって、学校生活も楽しくなった。


 それもこれもみんな時森くんのおかげ。

 本当に時森くんには感謝している。

 そして、そんな彼のことが———————


「…………好きだよ」


 私は写真を見ながらそう呟いた。


 この想いは日に日に増していくのが分かる。

 普段は女の子のことばっかり考えていて、私がさりげなくアピールしても気づいてくれない鈍感さん。


 本人は「俺は察しのいいやつだ!」なんてこと言っているけど、全然鋭くない。

 ……本当に何を根拠にそう言ってるんだろう?


 多分、時森くんのためにメイド服を着てあげるって言った時も「神楽坂は本当にいいやつだなぁ」っていう感じにしか思っていないはず。


 そんなわけないじゃん!

 それは時森くんの為であって、他の人のためなら絶対に着ないもん!


 って、本当は本人に直接言えたらいいんだけど、恥ずかしくてそんなこと言えない。

 ……うぅ、一歩踏み出せない私が恨めしいっ!


 といった感じで、彼には悪いところもあるけど、それ以上に素敵な部分が沢山ある。

 裁縫や運動もできたりと意外と何でもできるし、誰かが困っていたらちゃんと手を差し伸べてくれたり、人の努力はちゃんと見てくれるし、そして何より—————外見ではなく中身をしっかり見てくれる。


 だから私は彼の事を好きになってしまったんだと思う。


 けど、私以外にも絶対に時森くんのことが好きになる人はいるはず。


 現に、麻耶先輩や————多分ひぃちゃんも好きなんだと思う。

 麻耶先輩は昔からだと思うけど、ひぃちゃんはきっと桜学祭からだ。


 多分、今まで気づいていなかっただけで、ひぃちゃんは時森くんの魅力に惹かれていた。

 その気持ちを、桜学祭の出来事がきっかけで気づけたんだと思う。


 その時の話を後でひぃちゃんに聞いたんだけど………本当に時森くんはずるいと思う!

 だって、そんなことされたら、女の子は絶対に好きになっちゃうじゃん!


 私はその話を聞いた時、良かったね思った反面、羨ましいという気持ちになってしまった。

 ……私って嫌な女の子かなぁ?


 多分、これから私達以外にも彼の事を好きになっていく人は増えていくと思う。


 それぐらい、時森くんってかっこよくて頼りになるんだから!


 けど、それは彼の魅力を分かってもらえるのと同時にライバルが増えていくということ。


 うぅ……それは困っちゃうよ……。


 だって、今確定してるだけでも麻耶先輩とひぃちゃん。

 2人はとても魅力的で、勝負しても勝てるかどうか分からない。

 2人だけでも大変なのに、これ以上増えちゃったら本当に誰かに取られてしまう。


 それだけは絶対にやだ。


 だって、誰かに譲りたくないほど、私は彼の事が大好きなんだから。

 でも、結局誰と付き合うかは彼が決めること。


 私たちの中の誰かかもしれないし、それ以外の人達を選ぶかもしれない。

 そうならないように、私は彼にアピールして好きになってもらうしかない。


「けど、時森くんって誰が好きなんだろう……」


 それは本人しか分からないが、どうしても気になってしまう。

 ひぃちゃんかもしれないし、麻耶先輩かもしれない。

 もしかしたら……わ、私かもしれないしっ!


 しかし、彼に好きな人がいる素振りは見えない。

 多分、今はみんな同じ『友達』としての立ち位置なんだろう。


 けど、これも時間の問題。

 麻耶先輩はアピールしまくっているし、ひぃちゃんも最近は目に見えてアピールしている。……多分、他の人を牽制しているのも含めているんだと思う。


 ……それに比べて私は恥ずかしい思いもあって、緊張してアピールできていない。


 このままでは、どんどん差が広がってしまう。

 それだけは絶対にダメだ。これ以上差が広がったら、私は彼と結ばれることができない。


 私は壁にかかっているカレンダーを見る。

 そこには24日に赤丸がついていた。


 今月は幸いクリスマスがある。

 ここでしっかりアピールして、彼との距離を縮めなくてはいけない。


 —————それに、


「私には……もう時間が無いんだ」


 私は机に置いてある一枚の紙を拾った。


『12/24 19︰00 成田空港発→モスクワ着』


 だから私にとって今月は大きな勝負になる。

 ここでしっかり決めないと、私は彼と結ばれることはもう一生ないだろう。




 結果がどう転ぶか分からない。

 それでも、私は自分の想い人と結ばれるため、密かに決意するのであった。

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