〜閑話〜そうだ、合コンに行こう!(3)

 俺達はその後、カラオケをみんなで回しながら歌っていた。

 先程の空気とは違い、俺らの部屋はかなりの盛り上がりだった。


 女子達は今話題の韓国グループの曲を歌ったり、先輩達は間にアニソンを入れて場を盛り上げていた。


 俺も先輩達から遅れをとる訳にはいかない。

 だって、元を辿れば俺の為に開催した合コンなのだから!


「次は俺です「お、次は俺か」ね………」


 宮下先輩は俺が入れた曲が始まると『演奏中止』のボタンを押す。


「今度こそ俺の「あ、神楽坂さん、一緒に歌おうよ!」番………」


 山吹さんは俺が入れた曲が始まると『演奏中止』のボタンを押す。


「西条院、俺と一緒に「西条院さん、どうか一緒に歌ってください!」「すみません、私この曲知らないです」「………俺歌いまーす」………」


 ………しくしく。


 俺って、何のためにここに来たのかな?

 何で歌わせてくれないの?ここカラオケだよね?俺全然盛り上がれないんだけど?1人だけテンション上がらないんですけど?


 ……あぁ、みんな楽しそうだなー。


 これぞ合コンって感じだよな……俺は違うけど。

 いいもん、おじゃま虫は隅っこで大人しくしてますよ……。

 みんなは青春の一時を過してくださいな。遊んでいられるのは若いうちだからね。


「すみません、時森くんがいじけちゃったので、そろそろ終わりませんか?」


「そうだな、流石に隅っこで体育座りをされてしまうと気になって仕方がないからな」


「時森さん、カラオケ一旦終わりにしますので帰ってきてください」


 西条院が隅っこで体育座りをしている俺に声をかける。


「……もう終わっちゃうの?」


「……何故でしょう?時森さんが可愛く見えてしまいました」


 何のことを言っているんだろうか?

 西条院は頬を赤らめて目を逸らしているが、何が可愛いのか全く分からない。


「ごめんね時森くん〜、あんなに歌が上手い時森くんが歌っちゃったら次が歌いずらくなっちゃったから」


「どうしても、時森くんは歌って欲しくなかったんだよ」


 そういうことなら許してやろう。

 俺の歌唱力に恐れおののいてたとなれば致し方ない。


「仕方ないですね……許してあげましょう!」


 俺は一気に立ち上がりみんなの元に向かう。

 まったく〜、本当にしょうがないんだから〜。

 さぁて、ここからが本番——————楽しい合コンを始めようじゃないか!


「……すぐ立ち直っちゃうんだね」


「ただ単に時森さんをからかって楽しんでいただけですのに……」


 西条院と神楽坂が何か呟いていたが、生憎声が遠くて聞き取れなかった。

 ……まぁ、大したことではないだろう。


「じゃあさ、次は王様ゲームでもやらね?」


 サッカー部の先輩が突然カバンから何本かの割り箸を取りだした。

 先っぽには赤色で塗られたものと番号が書かれているものがあった。


 ………これはこれは。


「先輩、これってもちろん—————」


「……あぁ、王様の命令は絶対のやつだ」


「「いぃやっほうぅぅぅぅぅぅぅ!!!」」


 俺と二人から歓声が上がる。


 だってそうでしょ!?王様ゲームだよ?なーんでも命令できちゃうんだよ?

 これってあれだよね!女の子にあんなことやこんな事も命令してもいいんだよね!?


「ちょっと待って望、女子たちが引いてるから」


 俺は女子たちの方を向くと、冷めた目でこちらを見ている女子たちの姿があった。

 どうやら、彼女達は俺たちの反応に身の危険を感じたようだ。


「でも、そんなのは関係ないさ!だって—————」


「「「王様の命令は絶対なんだから!!!」」」


「王様ゲームはやめましょう、宮下先輩。望たちが何をするか分かりませんので。——————みんなもそれでいいよね?」


 一輝は女子達に向かってそう訴える。

 何を馬鹿なことを言うんだ!そんなの、合コンでしてはいけない行為なんだぞ!?


「私はいいですよ」


「……私も別にしていいかな」


 しかし、一輝の思いとは裏腹に西条院と神楽坂は賛成の意を唱えた。

 ……流石だ二人とも、よく分かっているじゃないか。


「わ、私も、よく考えたら佐藤くんにして欲しいことあったし……」


「私も賛成です!望にナース服着てもらいたいから!」


「……どうしよう、僕、身の危険を感じたよ」


「奇遇だな一輝、俺もさっきまで浮かれていたのに一気に気持ちが急降下したわ」


 ………ねぇ、この子達ちょっと肉食過ぎない?


 俺が言うのもなんだけど、男子達の変なお願いに危険を感じて普通はやめようとか言うよね?

 なのに何で誘いに乗っちゃうの?しかも、一輝は分かるが山吹さん………俺、ナース服嫌だからね。絶対に着ないよ?どうして後ろにナース服が見えるの?


「ん、じゃあ早速やってみるか」


 そう言って、宮下先輩は割り箸をシャッフルさせ、番号が見えないように俺たちに差し出す。


「せーの」


「「「「「王様だーれだ!」」」」」


「あ、私ですね」


 どうやら始めは西条院のようだ。

 俺の番号は2番。………くそっ、外してしまったようだ。


 しかし、西条院はどんな命令をするのだろうか?


 俺被害が来なければいいな〜。


「ではそうですね、時森さ————2番の方に命令します」


「先輩、この割り箸細工されてませんか?」


「何を言っている時森、そんなわけがないだろう」


 ではどうして西条院は俺をドンピシャで当てることが出来るのか?


 たまたま指名されたならともかく、完全に『時森さん』って言いかけたよね?

 完全に分かった上で指名してきたよね!?


「ふふっ、偶然ですよ時森さん」


「今以上に偶然が似合わない発言を聞いたことがないわ」


 西条院は上品に笑っているが、俺としては全然笑えない。

 だって、今まで西条院が命令してきた時ってろくなことがないんだもの。


 ……お願いします、どうか優しいお願いでありますように!


「では2番の方はこの王様ゲームの間、ずっと私を膝の上に座らせてください」


「………は?」


「「「「「………え?」」」」」


 何を言っているのか分からなかった。

 え、ちょっと待って、俺の膝の上に乗ってくるの?西条院が?

 でもなんで、こんな公衆の場でそんなことを言い出すのだろうか?


 俺が西条院の発言に頭が真っ白になっている間、場の沈黙を無視して西条院は俺の膝の上に座った。


「ふふっ、意外と座り心地いいですね」


 ごめん、本当に待って欲しい。頭が現状に追いついていないんだけど!


 そして、膝の上から伝わる柔らかい感触や女の子のいい匂いなどが、俺の思考を奪っていく。

 腕を回しただけで西条院に抱きつけるほど、その距離は近かった。


 ……やばい、心臓がバクバク鳴ってるんですけど。


「どうしたんですか時森さん、顔が真っ赤ですよ?」


 西条院は顔を後ろに向けて、俺の顔を覗き込んでくる。


 近い近い!本当に近いって!

 何で西条院は堂々としていられるの!?あと少しでキスできちゃうほど近いんだよ!?


 俺の顔にどんどん血が上っていくのがわかる。

 多分、今までで一番顔が赤くなっていることだろう。


 だって、西条院の綺麗なまつ毛や透き通った瞳、桜色の唇が間近にあるんだから。


「ちょっとひぃちゃん!何やってるの!?」


 神楽坂が慌てて俺たちに駆け寄る。

 それ以外の人達はまだ目の前に起こっている現実を理解出来ないでいるようだった。


「あら、アリス。いいじゃないですか、王様の命令は絶対なんですから」


「だからといってこれは流石にダメだよ!?」


 神楽坂は必死に西条院をどかそうと説得している。

 しかし、俺は頭の中がパニックを起こしていて全く聞こえなかった。


 え、なんで西条院はまだ膝に上にいるの?何回も言うけど西条院のお尻の柔らかさとか女性の独特のいい香りとか、色々相まって—————


「………ふきゅぅ」


「ちょ、時森くん!?」


「望、大丈夫!?——————あ、ダメだ。完全に気を失っているよ」


 ……あぁ、女の子ってこんな感じなんだなぁ。

 我が楽園はこんなにも近くにあっただなんて。

 これは全国の男子が求めるのも無理がないような気がする。

 —————やっぱり、女の子っていいなぁ。


「……意外と時森さんって女の子に対する耐性がないんですね」


「まぁ、望は今まで女の子と触れ合う機会がなかったから」


「……でも、これはこれで可愛い姿が見れましたし良しとしましょう」


「……望は大変だねぇ」






 結局、その日の合コンは終了となった。

 なんでも、俺以外にも現実の残酷さを見てしまい気を失った人が二人も出たからだとか。


 そして俺は何故かその日の出来事を全く思い出せずにいた。

 どうして覚えていないのだろう?その日何かあったっけ?

 ものすごい楽園を見たような気はするのだが……。



 そして、合コンがあった日から二日後、何故か学校に行くと俺はサッカー部の先輩と同級生から文字通り袋叩きにされたのであった。


 ………だから俺何があったの?

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