〜閑話〜そうだ、合コンに行こう!(1)

 桜学祭も終わり、俺は楽しみもひとつ減り、教室でぐったりしていた。


「あぁー、やる気出ないわー」


「おい、時森。授業中にそんなことを言うなんていい度胸じゃないか」


 祭りの後はどうしてもやる気が出なくなってしまう。

 みなさんも感じたことは無いだろうか?


 それがたとえ授業中であっても。


「違うんですよ先生、俺は授業に対してそんなことを言っているのではありません」


「ほほう、では何に対して言ったんだ?」


「ただ俺は先生と話す事にやる気出ないだけで……」


「お前は後で生徒指導室に来い。反省文を書かせてやる」


 おっと、素直に答えただけなのに反省文を書かされてしまうとは。

 世の中理不尽にできたものだなぁ……。


「先生、俺に対して言うのもいいのですが、他の奴らはどうなるんですか?」


俺がそう言うと、先生は教室を見渡す。

そこには、俺と一緒で机の上でぐったりしている男子連中がいた。


「大丈夫だ、こいつらも一緒に反省文を書かせてやるから」


「ちょっと待ってくださいよ先生!」


「そうです!反省文を書かせるなら時森だけにして下さい!」


「そうだそうだ!」


 クラスの男子たちは一斉に反省文を書かされることに抗議していた。

 全く、俺は良いクラスメイトを持ったものだ。

 一人反省文を書かせる訳にはいかないから一緒に書いてくれるだなんて。


 思わず涙が出てしまいそうだよ……。


「といっても、お前らは俺の授業がつまらないからぐったりしてるんだろ?」


 先生は男子たちに向かってそう聞く。


「確かにつまらないですけど、ぐったりしてるのはそんな理由じゃないですよ!」


「先生の授業がつまらなくても、俺ら毎日頑張ってるじゃないですか!」


「ただメイド服が見られなくなってぐったりしてるだけなんです!先生の授業がつまらないなんていつものことじゃないですか!」


 これぞ火に油。

 よくもまぁ、真正面から教師に喧嘩を売れるものだ。


「よく言ったお前ら。お前らは必ず生徒指導室に来い」


「「「そんなッ!?」」」


 やっぱりうちのクラスは馬鹿ばっかりだなぁ……。


 俺はそんなことを思いつつも、再び机の上でぐったりした。



♦♦♦



「どうしたんですか時森さん?朝からずっとぐったりしているじゃないですか?」


「時森くん、どこか体調でも悪いの?」


 そんなことがありながらも昼休憩。

 俺は西条院と神楽坂、そして一輝と席を囲んで現在お昼ご飯を食べていた。


「いや、望はそんな理由でぐったりしているんじゃないよ」


「では何でそんなにぐったりしているのでしょうか?」


「あれだよ、もうメイド服が見られないからやる気が出てないだけなんだよ」


 流石だ我が親友。よく俺の事をわかっている。

 そうなのだよ、今までメイド服の為に頑張ってきたというのに、目標を失った今、俺はやる気がすこぶるでない。

 まぁ、ちゃんとメイド服とチャイナ服の写真は2万円で落札したので、見れないことは無いのだが………。


「じゃ、じゃあ……私が今度メイド服着たら…やる気、出してくれる…?この前約束したし…」


「ホンマでっか!?」


 神楽坂は少し恥ずかしがりながらそんなことを言ってくれる。

 俺は神楽坂の発言を聞いて勢いよく顔を上げる。


 マジで!?着てくれるの!?

 正直、あの時は冗談だと思ってたんだけど!


 俺にやる気を出させるために、我が身を犠牲にしてくれるなんて————神楽坂は天使だなぁ。


「ダメですよアリス。そんなことさせたら時森さんが調子に乗ってしまうでは無いですか」


「で、でも………」


 おいこら、なんてことを言い出すんだ西条院。俺が調子乗るわけないだろう。

 俺はこんなに紳士なのに。


「確かに、望だったら「お願いします!もう1回!もう1回おなしゃす!」って言ってお願いしそうだもんね」


「一輝、お前余計なことを言うんじゃないよ。せっかく神楽坂が俺にためにメイド服を着て膝枕をしてくれるって言ってくれたのに」


「そこまで言ってないよ!?」


 くそッ!

 なんでこいつらは俺のやる気を無くすような発言ばかりするんだ……。


 あぁー、やっぱりやる気出ないわー。

 ご飯食べるやる気も出ないわー。


「まぁまぁ、元気だしてください時森さん。ほら、あーん♪」


「……ふぁっ!?」


「ちょ、ちょっと何してるのひいちゃん!?」


 いきなり西条院が、俺に向かって自分のおかずを向けてくる。


 こ、これはっ!?

 いわゆる彼氏彼女がよくやる伝説の「あーん♪」ではないか!?


 今は空想上の産物として思っていたが、まさか実在していたなんて!

 しかも、お相手はなんと美少女の西条院!

 こんなチャンスはもう無いかもしれない!


「あ、あーん」


 俺は西条院に出されたおかずをパクッと食べる。

 あぁ、なんて幸せなんだ!

 恥ずかしさと、嬉しさが相まって俺は幸せな気持ちになる。


「ずるいよひいちゃん!—————だ、だったら私も!ど、どうぞ時森くん……あ、あーん!」


「あーん」


 神楽坂は何を焦っているのか分からないが、俺はまたしても美味しくいただく。

 うーむ、恥ずかしがりながら食べさせてくれる神楽坂、最高だね!


 というやり取りを何回か繰り返す。

 あぁ、美少女2人から食べさせてもらえるなんて、俺は幸せ者だな!


「………望、ちょっといい?」


「なんだ一輝よ。俺は今至福の時間を味わっているんだが?」


「……(くいくい)」


一輝は首を教室の端に向けた。

俺はその方向を見ると


「おい、コンクリに埋める準備はできたか?」


「いや、コンクリに埋める前にある程度骨を折っておこうぜ」


「ふふふ………殺っちゃうよ〜思いっきり殺っちゃうんだからね〜」



 ………おっふ。


 俺はその光景を見て命の危機を察した。

 多分今回のターゲットは一輝ではなく俺だろう。


 きっと、この俺の至福の光景を見て嫉妬に狂い、襲いかかってくるに違いない。


「すまない二人とも、ちょっと席を外すわ」


「「………?」」


 俺は真面目な顔付きでそう言うと、二人は頭にはてなマークを浮かべた。


「さてと、ちょっと御手洗に行きますかね〜」


 俺はさりげなく、自然に教室から出ようとする。


「(ガシッ)おいおい、どこに行くんだよ時森ぃ?」


「(ボキッ)俺たちお話しようぜぇ」


「(パキャ)ねぇねぇいいでしょ〜」


 すると、クラスの男子たちが俺を引き止めるためてきた。

 しかし何故だろう?手の間接が外れる音と骨が折れる音が聞こえてきたんだけど?


 彼らはなんで普通に引き止めることが出来ないのでしょうか?


「ごめん、俺お花摘みに行きたいんだ!」


 俺は男子たちから距離を取り、必死に訴える。


「そんなの後でいいじゃねぇか!」


「俺らと遊ぼうぜぇ〜」


「いいねぇいいねぇ!もっと抵抗してよ〜」


 ダメだ!話が通じない!


 俺は辺りを見渡す。

 くそッ!逃走経路が見つからない!

 

「「「さぁ、お前の罪を数えろ!」」」


 某仮面ライダーの決めゼリフっぽい事を言いながら彼らはジリジリと近づいてくる。

 どうすればいい!一体どうやったら俺はこの危機から逃げれるんだ!?


 俺は命の危機から逃れようと考えていると、突然ポケットにある携帯が震えた。


「ちょっと待ったぁ!」


 俺が片手で待ったをかけると、男子達は一斉に止まった。

 ……こういうところは律儀なんだけどなぁ。


 俺は携帯を取りだし、画面を見る。

 どうやらサッカー部の先輩から電話がかかってきたみたいだ。


「もしもし」


『あぁ、時森か。今大丈夫か?』


「大丈夫のようで大丈夫じゃないですが、どうしたんですか?」


 はて、何か用事でもあっただろうか?


『あぁ、明日は駅前に10時に集合ということを伝えたくてな』


 明日?

 明日は土曜のはずなんだが、俺サッカー部の先輩と遊ぶ約束なんかしてたっけ?


『明日は前に約束してた合コンがあるだろう?忘れてたのか?』


「そうだったぁぁぁぁぁっ!!!」


 そうだ、桜学祭があって忘れていたけど、明日は合コンじゃないか!

 俺はPK戦で勝った時のご褒美で約束していた合コンのことを思い出した。


『というわけだ、あの銀髪の嬢ちゃんにも伝えといてくれ』


「わっかりました!」


 俺は電話を切る。

 俺は一気にテンションが上がる。


 やった!明日合コン!

 これで俺は女の子とイチャイチャできるし彼女だって作るのも夢じゃない!


 あぁ、明日が楽しみだなぁ!


「もういいか、時森ぃ」


「流石に電話中は失礼だからなぁー」


「もう殺っちゃおうよ〜待ちきれないよ〜」





 ………やべ、忘れてた。

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