〜エピローグ〜これで、俺達の物語は結末まで一つ進んでいった

 桜学祭も何の問題もなく終わり、現在放課後。外では名残惜しそうに出店の片付けをしている生徒が見受けられる。


 本来であれば俺も自分のクラスの後片付けをするべく教室にいるはずなのだが――――


「……おい、なぜ俺はこんな時まで仕事をしなきゃならんのだ」


 俺は生徒会室で今回の桜学祭の後始末をさせられていた。


「始めに言ったじゃありませんか、生徒会と実行委員の両方をしてもらう、と」


 生徒会室には俺以外に、ミスコン三位の西条院がいた。

 西条院も本来の生徒会長としての仕事が残っているので、こうして一緒に放課後に仕事をしている。


「けどさ、何も今日しなくてもよくない? もうちょっと桜学祭の余韻に浸らせてくれるとかさ……」


「終わったものは終わったのですよ。こういう時は切り替えが大事です」


 西条院は俺と話している間も手を動かし、淡々と仕事をこなしていた。


 いや、切り替えが大事って……俺達まだ高校生ですよ?

 そういう気持ちは社畜になった時に身につけるから今は良くない?


「といっても、早くしないと打ち上げ始まっちゃうんですけど? これ絶対に今日までに終わらないですよね〜ぇ? 西条院様〜?」


 俺は机の上に置いてある紙束を見てそう愚痴る。

 その枚数ざっと百枚以上。

 これを分かりやすくシートに打ち込んでいかなくてはならないなんて、途方も無い作業……。


「そう思うのであれば手を動かしてください。でないと終わるものも終わらないですよ?」


「はぁ、本当に残業代出ないかね……」


 俺は小さく愚痴を零しながらも、この後に控えてあるクラスの打ち上げに参加するべく、悲しく辛い仕事を再開した。


「……なんだかんだ言って、ちゃんとやってくれますね」


 最後に西条院のそんな呟きが聞こえたが、俺は黙々とパソコンに文字を打ち込んでいく。



♦♦♦



 あれから三十分後。

 俺と西条院はお互いに会話もないまま、黙々と仕事ここなしていく。


 しかし、時間が経てば集中力も切れてくる。

 だから俺は仕事を一旦止め、背伸びをしながら西条院に声をかけた。


「なぁ、西条院」


「……なんですか?」


 西条院は仕事を一旦止めて、俺の方を向いて返事をする。


「桜学祭は楽しかったか?」


 俺は短く、端的に今回の桜学祭の事を聞いた。

 西条院にとっては色々な出来事があり、桜学祭は特別なものだったはずだ。


「……そうですね、色々なことがありましたが楽しかったですよ」


 彼女は自分の席を立ち、俺の近くの席に座る。

 ……ちょっと待って、なぜに近づいた? 自分の席で話せるくない?


「お父様に喜んで欲しくて頑張って、桜学祭一日目で倒れてしまいましたね」


「……本当にあの時は焦ったぞ」


 西条院は今までを振り返るように俺に向けて語る。

 俺は、少し彼女から視線を外し同じように思い返した。


「そういえば、時森さんは私の家に不法侵入しましたよね?」


「お前、あの状況でそれ言ったら終わりだって分からないか?」


「ふふっ、冗談ですよ」


 西条院は楽しそうに手を口に当てて微笑んだ。

 俺はその顔を見て、何故か顔が赤くなってきているのを感じる。


 ……いや、別にドキッとしたわけじゃないから!


 これはあれですよ! 暑くなってきたんですよ! 秋ですけど!

 決して西条院が可愛いからドキッとしたわけじゃないんですからね!?

 確かにめちゃくちゃ可愛いけど! 読者の皆さんは勘違いしないように!


「あの時は本当にご迷惑をおかけしました……」


「それは気にすんなって言っただろ?」


「で、ですが……」


 まだ引き下がらない様子を見て、俺は西条院のサラサラな金髪の頭を優しく撫でた。


「ッ!?」


「困った時はお互い様。それに、俺もお前が無理して頑張っていることに気づかなかったんだから、あれぐらい友達として当然だろ?」


「……」


 西条院は俺が頭を撫でると少し驚いたが、すぐにされるがままに頭を任せる。


 あの時の俺は、彼女が頑張りすぎていることに気づかず、違和感を感じながらも現実から目を逸らしていた。

 その所為で、彼女が倒れるまで気づかなかったんだ。

 だから俺にも責任がある……看病をするなんて当たり前のことだ。


「それに――――」


「頑張っているやつが報われないのはおかしい、ですか?」


「お、よく覚えてるじゃねぇか」


 そうだ、頑張っているやつが報われないなんておかしいんだ。

 あのまま西条院が倒れたままで、桜学祭が終わっていたら西条院が報われなさすぎる。

 だから俺は手助けをしたんだ。


「……だから、時森さんはお父様を連れてきてくれたんですね」


「な、何の事か分からないですね〜!」


「大丈夫ですよ、ちゃんとお父様に聞きましたから」


 あのクソ親父……あれだけ言うなって言ったのに――――今度会ったら覚えてろ。


「……どうして、そこまで私の為に動いてくれたのですか?」


 西条院顔をグッと近づけて、俺の顔を覗き込んでくる。


 ちょ!? 近いですってお嬢さん!


「い、いや……西条院の努力が報われて欲しくてだな……」


 俺は西条院から離れるべく、顔を大きく逸らす。

 本当に近いんですって! 顔を前に向けたら、桃色の唇やらなんやらが近くて意識してしまうんですよ!


「……本当にそれだけですか?」


 西条院はまだ引き下がらない。


 ……確かに、彼女の言う通りそれだけじゃない。


 けど、俺はまだその事は彼女に対しても誰に対してもまだ言えない。

 だって、これは俺の問題だから。


「そ、それよりミスコン三位は残念だったな!」


 だから俺は強引に話を逸らした。

 すると、西条院は小さくため息をついて俺から離れる。


 ……ふぅ、危なかった。


 まだ心臓がバクバク鳴ってるぞ。

 本当に彼女は美少女としての意識を持って欲しいものだ。


「別に、一位になることが目的ではありませんでしたので、それほど残念じゃないです」


「……それは好きな人に見て欲しかったっていうやつか?」


「えぇ、そうですよ」


 結局、ミスコンは麻耶ねぇが一位、神楽坂が二位、西条院が三位という結果になった。

 あの歓声を聞いていたら、てっきり西条院が一位になると予想していたのだが、どうやら彼女の衝撃発言によって順位が下がってしまったらしい。


 あれだ、多分アイドルが結婚して人気が下がるのと同じことだと思う。


「あの時は驚いたわ……俺、初めて知ったんだけど?」


「ふふっ、私も誰にも言ってませんから」


 西条院は小さく微笑んだ。


 あれ? 先輩には言ってなかったの?


 だったら何で、先輩は知っていそうな顔をしていたんだろう?


 ……いや、あの男の中の男である先輩のことだ、きっと西条院の様子を見て感ずいたのだろう。


 流石です、先輩。


「……教えてくれてもよかったのに」


「流石にあなたには言えませんよ────それに、最近好きだと自覚したのですから」


「……そうですかい」


 俺は彼女の表情を見て、これ以上追求するのを止める。


 これ以上はデリケートな部分になるし、彼女はこれから俺の手は借りず、自分で恋が実るように頑張っていくのだろう。


 ……一緒にいた身としては少し寂しい部分もあるがこればっかりは仕方がない。


 俺は彼女の恋が実るように応援しよう。


「────ですが、時森さんには協力してもらいましたから……特別にヒントを教えますね」


 彼女は席を立ち、両手を後ろに組んで満面の笑みで俺に向かって微笑んだ。

 一瞬、夕日が差し込んだ生徒会室にいる西条院が何故かキラキラと輝いているように感じた。


「これは私の初恋です。誰も私個人を見てくれなかった時に初めて私を見てくれた人。文句を言いながらも、彼氏が欲しい私に協力してくれた人。私が一人で頑張った時に、頑張ったねと言ってくれた人。努力が報われないのはおかしいと言って、私が報われるように行動してくれた人――――私の好きな彼はそんな人です」


 好きな人を語る彼女の姿はキラキラと輝いており、そして幻想的にも見えた。

 俺はそんな彼女を見て、思わずドキッとしてしまう。


 いや、それよりも―――――


「ちょ、それって……」


「ふふっ、それより早く仕事を終わらせて打ち上げに参加しましょう」


 西条院は俺に背を向けて、再び自分の席に戻っていった。


 俺はその姿を見てモヤモヤとした気持ちになってしまう。

 だって、彼女が言った言葉はどれも心当たりがあるものだったからだ。



「西条院好きな人って……俺?」


 面と向かって好きって言われた訳では無い。

 しかし、俺は彼女の発言からそう考えることしか出来なくなっていた。


 俺はその事を考えると顔が熱くなるのを感じてしまう。

 多分、今鏡を見たらトマトみたいに真っ赤になっていることだろう。


 自惚れかもしれない。

 それでも、俺は西条院を意識してしまうのだ。


「……はぁ、本当に誰なんだよ」


 俺は思わずため息が出る。

 結局、やっぱり本人に聞くまでは分からない。


 その間はきっと、俺は彼女の言葉を意識し続けるだろう。


「とりあえず、俺もさっさと終わらせますかね……」


 俺は一旦考えるのを止め、再び仕事に戻る。







 色々なことがありながらも、こうして俺達の桜学祭は幕を閉じていった。


 この桜学祭で彼女は大きく前に進んだ。


 これから、彼女はどのように目的に向かって進んでいくのか分からない。

 それでも、唯一分かることは――――





「あいつはこれで、目的に一歩近づいたっていうことだな」






 この物語は、結末に向かってまた一つ進んでいった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


桜学祭編もこれで終了!

今回は西条院のお話ということで、書いてきました。


思えば桜学祭編も長かったものです…

ですが、ここまで書いてこれたのも皆さんのおかげです!

ありがとうございました!


今度は新作と同時並行で書いていこうと思います!


これからもどうかよろしくお願いいたします!

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