彼女は好きな人が出来た。それを俺は嬉しく思う。

 会場の熱気は徐々に上がっていき、十人の参加者を終えて残すとこ三人となった。


「そして皆さんお待ちかね! エントリーNo.11、学園三大美少女の一人! 皆のお姉さん、鷺森 麻耶の登場です!」


「はろはろー♪」


 俺が声高らかに言うと、麻耶ねぇはステージ裾から手を振りながら出てきた。


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


 すると、観客席から今日一番の歓声……もとい、雄叫びが上がる。

 気持ちはわかるぞ、皆の衆。


「麻耶はよく分かっているね。しっかりチャイナ服で登場するなんて」


「だって、望くんが喜ぶからね」


 そう言いながら麻耶ねぇはその場でくるりと一回転した。

 その姿を見て、俺や観客席にいた男達は思わず鼻を手で押える。


 ……やばい、思わず鼻血が出そうになった。


「と、とにかく……まずは自己紹介をお願いします……」


 俺は鼻血が出そうなのを必死に抑え、麻耶ねぇにマイクを向ける。


「二年二組の鷺森麻耶だよ〜! 私は望くんの幼なじみで、将来を誓い合った仲で〜す!」


「「「あぁぁんっ!?」」」


「会場の皆さん落ち着いてください、これは麻耶ねぇの嘘です。だから皆さん鈍器を下ろしてください、周りの人の迷惑になりますので」


 俺はマイクを使って、殺気立ってる男子連中を宥める。


 ……どうして、うちの学園の連中はすぐに鈍器を取り出すのだろうか?


 寿命が縮むから本当にやめて欲しい。


「……とりあえず、アピールをどうぞ」


 俺は男子連中の殺気を浴びながらも、再び麻耶ねぇにマイクを向ける。


 ……さっさと麻耶ねぇの出番を終わらせないと、俺の命が再び危険に晒されるかもしれない。


「……うーん、特にあまり言うことないけど、みんな投票よろしくね〜♪」


「「「は〜い!!!」」」


 ここはアイドルのライブ会場かな?


 麻耶ねぇが手を振りながら簡潔な自己PRを言い終えると、観客席(※男共)から黄色い歓声が上がった。


 ……麻耶ねぇ人気は凄いものだな。


 俺は改めてそのことをステージの上で実感しました。


「はい、ということでエントリーNo.11、麻耶ねぇでした!」


 俺がその場を締めると、麻耶ねぇは「またね〜」と言いながらステージ袖に戻った。

 観客席(※男共)からは残念そうな声が聞こえたが、俺からしたら命の危険が去ったからか安心感しかない。


「それにしても麻耶は男心をしっかり理解しているね。男がどうやったら喜ぶかを完璧に把握している」


 どうやら、解説の先輩からはかなりの高評価のようだ。


 ……確かに、麻耶ねぇの発言や行動は男心をくすぐるものばかりだった。

 司会としても、そこに関してはとても喜ばしいものである。


「まだまだ、いきます! 続いてエントリーNo.12、またしても学園三大美少女の一人! 白銀の天使、神楽坂アリスの登場です!」


「「「きたぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」


 俺がそう宣言すると、観客席からまたしても雄叫びが上がる。

 それはそうだろう、何故なら学園三大美少女が立て続けに登場してきたのだから。


「ちょっと恥ずかしいんだけど……」


 神楽坂は恥ずかしいのか、頬を赤く染めておずおずとステージに上がってきた。


「これまた素晴らしいね。メイド服で登場とは……今日は男にとってとても嬉しい日になりそうだ」


 俺もそう思いますよ先輩。

 俺は今日、この日の出来事を一生忘れることは無いだろう。

 そう思えるほどに、メイド服とチャイナ服は男として素晴らしいものだった。


 しかも、メイド服を着て皆の前に出るのが恥ずかしいのか、神楽坂は頬を赤く染めメイド服の裾をつまみながら俯いている。


 それがまた素晴らしい!

 神楽坂は完璧に恥じらいメイドをしている!

 全国の男子よ、刮目せよ! これが完璧な恥じらいメイドだ!


「では神楽坂さん、ミスコンに対する意気込みを……」


「意気込みも何も、時森くんがどうしても出て欲しいって言ったから出てきただけなんだけど……」


「そういう裏事情は話しちゃいけませんよ。観客の皆様にバレちゃうでしょう?」


「そ、そんな事言われても……」


 神楽坂は俺の質問に答えれず戸惑っている。

 ……うぅむ、戸惑っている姿も可愛くてずっと見ていたいのだが、一向に話が進まないので、質問を変えるしかないようだ。


「では上から順にスリーサイズを―――」


「言えるわけないじゃん!?」


 おかしいな?

 観客が喜びそうな質問に変えたはずなのに、どうやら答えれないようだ。


「「「Booooooooh!!!」」」


ほら、観客の皆さんも聞きたがってるじゃん。


「では、自己紹介とアピールのほどお願いします」


「そ、それだったら……」


 神楽坂はこの質問だったら答えれるのか、ゆっくりと俺からマイクをとり、緊張した様子で答えた。俺としても悲しい気持ちである。


「えーっと、一年二組の神楽坂アリスです。好きな物はディ〇ニーで、特技は裁縫をすることです! よ、よくわからないですけど、頑張りますのでよろしくお願いします!」


 彼女は何を頑張るというのか?


 恥じらいメイドが見れたからもう十分だよ! 頑張ったね、ありがとう!

 後でしっかり飴ちゃんあげるから!


「ありがとうございました! いやぁ〜、そのメイド姿はとても可愛らしいですね! 見ている俺も大変目の保養になりますよ」


「あ、ありがと……」


 俺がそう言うと神楽坂更に頬を赤く染めて、俯きながらはにかんだ。

 うーむ、やっぱり神楽坂は可愛いな!


「とにかく、今日はありがとうございました! 皆さん、恥じらいながら登場してくれた彼女に盛大な拍手を!」


 すると、観客席から盛大な拍手と歓声が聞こえてきた。


「ありがとう! 可愛いよ!」


「何でもするから彼女になってくれ!」


「おじさんがお小遣いあげるから、電話番号と住所を教えて欲しい!」


 時折変な声が聞こえてくるが、これは無視しよう。

 後、最後に聞こえてきたやつそれ犯罪だからな? お巡りさん呼ぶよ?


「次が最後になるのかい、少年?」


「えぇ、次が最後の参加者になります! それでは最後、いってみましょう!」


 そして、いよいよ最後の参加者になる。

 時刻は桜学祭終了一時間前になってしまい、もう終わってしまうのかという悲しさが湧き上がる。


 だが、観客席は初めに比べて多くの人が集まっていた。

 みんなも、ミスコン一位が誰になるのかが気になっているのだろう。


 それもこれも次で最後!

 さぁ、張り切っていきましょうかね!


「最後を飾るのはこの少女! 学園三大美少女が最後の一人! 生徒会長を務めているお嬢様、西条院 柊夜の登場です!」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


「「「きゃーーーーーー!!!」」」


「これまた素晴らしいね」


 会場から先程よりも溢れんばかりの歓声が上がった。

 男子だけではなく女子からも歓声が上がっていることを見ると、全生徒から人気があるのだと伺える。


 そんな人気者の西条院は優雅に、そしてお淑やかにメイド服を着てステージに上がった。


「すごい人気ですね西条院さん」


「ふふっ、ありがとうございます」


 俺がそう言うと、西条院は上品に小さく微笑んだ。

 先程の神楽坂とは違い、その佇まいには緊張の色が見えない。


 ……流石、西条院。みんなの前に出るのに慣れているな。


「では、自己紹介をお願いします!」


 俺は西条院に感心しつつも、司会を進行させるためマイクを彼女に向ける。


「はい、生徒会長を努めさせていただいてます西条院柊夜です。よろしくお願いします」


 西条院は淀みなく答えると、小さく一礼をした。

 それを聞いて、観客席からまたしても歓声が上がる。


 今までの中で一番の盛り上がりだな。

 ……これは西条院がミスコン一位になるのかもしれない。


「今回は何故ミスコンに参加されたのですか?」


「えぇ、友達から誘われたというのもありますけど、見ていただきたい人がいるからです」


 多分、誘った友達というのは俺のことだろう。

 昨日の放課後、西条院に思いっきり土下座をしてお願いしたからな。


 ……しかし、見ていただきたい人というのが分からない。

 西条院の父親なら今日は来ていないはずなんだが……。


「えーっと、その見ていただきたい人というのは、一体どんな人なんでしょうか?」


 きっと、観客席にいる人も同じ疑問を持っているだろう。

 だから俺はみんなを代表して西条院に聞いた。


 すると、何故か西条院は俺の方をちらりと見て、観客席に向かって口を開いた。


「私の好きな人です」


「「「…………」」」


 西条院の衝撃発言により、会場が静寂に包まれる。

 俺も、それを聞いて思わず頭がフリーズしてしまった。


 しかしそれも一瞬のこと。

 すぐにみんなが理解し始め、会場に驚愕の声が響き渡った。


「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 俺も思わずマイクを離して驚きの声をあげてしまう。


 だって、そんな話聞いてないし!?

 俺、こいつの彼氏作りを手伝っていたのに教えてもらってなんですけど!?


「どういうことなんですか!?」


「好きな人って誰!?」


「あぁ…悪夢だぁ……」


 観客席からは疑問を口にする人や信じ難い現実に嘆いている人までいた。


 しかし先輩の方を見ると、驚いている表情はしておらず、頑張った子を見るような目をしている。


 ――――もしかして、先輩は西条院に好きな人がいることを知っていたのではないだろうか?


「……すみません、会場も俺も驚きを隠せないのですが、ちなみにお相手を聞いてもいいですか?」


「ふふっ、流石にそれは言えませんよ」


 西条院は上品に口に手を当てて微笑んだ。


 ……まぁ流石にここで言ってしまえば告白になるからな。

 言えないのも当たり前だろう。


「では、せめてどんな人か教えて貰ってもいいですか?」


少しだけでもという俺の言葉に、西条院は顎に手を当てて思考すると、ゆっくりとその口を開いた。


「そうですね……私が好きな人はいつもふざけていて、女の子のことしか考えていない変態さんですね」


 ……まともな男じゃなくクズ野郎?

 もしかして西条院は、ちょっと人とは違う好みをお持ちなのかな?


「ですが、誰に対しても外見ではなく中身を見てくれ、他人の行動を素直に評価してくださり、困った人がいれば助けてくれる―――――そんな人です。私はそんな彼に救われて、一緒にいる時間が楽しくて、その優しさに惹かれて……彼を好きになったんです」


「「「………」」」


 会場は再び静寂に包まれてしまう。

 西条院の発言に理解できないのではなく、彼女の姿を見て言葉が出なかったのだろう。


 それは、西条院が好きな人を語っている姿がとても綺麗で、本当に恋する乙女といった雰囲気が伝わってきたからだ。


 俺はそんな彼女の姿にを見て、思わず見蕩れてしまう。

 しかし、それと同時にふと疑問に思った。


(……あれ、ちょっと心当たりがあるんですけど?)


 始めは一輝かと思っていたのだが、一輝は部活もあってあまり西条院とは関わっていない。

 先輩なのかなと思ったりしたのだが、それだったら前々から好きになっていたと思う。


 そして、最後の神西条院のセリフ────


 『一緒にいる時間が楽しくて』


 その言葉はつい最近聞いた気がする。


 ……確か、西条院の家で看病した時に聞いた言葉だったはずだ。


(もしかして……俺?)


 俺はそんなことを思い、探るように西条院を見る。

 すると、彼女はこちらの視線に気づいたのか、イタズラっぽく小さく微笑んだ。


 その表情は「してやった」と言っているように見えてしまった。

 俺はその表情に少し意識してしまい、恥ずかしくなったので西条院から目を逸らす。


 そんな俺を見て面白かったのか、西条院は先程とは違い、こちらに向けて満足気な満面の笑みで微笑んだ。


 それを見て俺は、やっぱり俺の事なんじゃないかと再び意識してしまう。


 ……だが、俺は今までの彼女ができなかった男だ。

 そんな俺が誰かに好きになってもらうなんて想像がつかない。


 しかも、相手は超がつくほどの美少女だ。

 そんな相手が俺の事を好きだなんて考えられないが、心当たりがあるため俺という可能性が捨てきれない。


(あぁ、くそっ……何か振り回されている気がするなぁ……)


 俺は好きな人が自分なのか、他の人なのかが分からず、考えるのを止めた。

 どれだけ考えたって、結局本人に聞かなければ分からないのだから。




 しかし、モヤモヤした気持ちと同時に西条院の発言に嬉しくも思った。


 だってそうだろ?

 西条院は彼氏を作るという目標に、誰の手助けも借りず一歩前に進んだんだ。


 その事を、俺は素直に褒めてやりたい。

 西条院と神楽坂が彼氏を作るという目標に対して頑張っているのを俺は知っている。


 始めは誰からも彼女達個人としては接してくれず、自らも外面だけで接してきた。

 しかし、彼女達は前に進もうと本音で接してきたことによって、徐々に彼女達個人で接してくれる人が増えていった。


 そのおかげで、西条院は本音で語り合える人と出会い、ずっと居たいと思えるような人を見つけることが出来たのだ。


 その恋が実ることはなくても彼女にとって、その1一歩はいい方向に進んでいくはず。


 これからの生活は、きっと彼女にとって明るいものとなるだろう。

 

 だから俺はこう言ってあげたい。

 自らの足で一歩進んだ彼女に。







「……おめでとう、西条院」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

※追記


章完結に向けてラストスパートで書いていたら長くなっちゃいましたので2話に分けました!


次が桜学祭編最後になります!

引き続きよろしくお願いします!


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