そして俺はチャイナ服を見ることができた。

 というわけで、俺達は先輩達がいるクラス————二年二組の教室の前までやってきた。

 だが、教室の前では案の定行列ができており、すぐには入れなさそうだ。


 しかぁすぃ〜!

 俺にはこんな行列にも屈しない、とっておきの方法があるのだ!


「いでよ! サッカー部の先輩ぃぃぃぃぃぃっ!!!」


「お、時森じゃないか」


 俺は教室の前で、廊下中に響き渡るほど大きな声で先輩を呼ぶ。

 すると、俺の思いが届いたのか先輩は教室の入口からひょこっと顔を出した。


「あの、結構恥ずかしいのですが……」


 西条院は恥ずかしそうに俯きながら、俺の裾を引っ張る。


 え? 恥ずかしいって?

 馬鹿野郎。チャイナ服を見るために羞恥心もくそもへったくれないだろう?


 俺は周囲の注目を浴びながらも、サッカー部の先輩に案内され、美少女二人と一緒に『中華喫茶』に入る。


 中に入ると、いくつかのアラウンドテーブルがあり、内装も中華喫茶そのものだった。


「結構本格的なんだねー」


「そうですね、見たところ料理も全て中華のようですし……」


 神楽坂と西条院は内装や料理を中をマジマジと見ている。

 しかし、一方の俺は二人とは違うところをマジマジと見ていた。


「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぅっ!!!」


 俺は視界に入った光景があまりにも素晴らしく、思わず奇声をあげてしまう。

 周りや神楽坂と西条院からの驚きの視線を浴びてしまったが、俺にはそんな事は気にしない。


 だって、仕方ないじゃん!

 目の前にはチャイナ服を着た女子生徒がいるんだよ!


 しかも、目に入れても毒でしかない男子の女装姿はなく、本当に女子だけがチャイナ服を身に纏っているんだ!


 そして、大胆としか言いようのないスリットから覗く太ももは、それはもうイヤらしく、男のロマンを物語っている。


 ……あぁ、生きててよかったぁ。


 俺はメイド服とチャイナ服を見れた今日この日、人生で一番歓喜に震えていると思う。

 ありがとうお父さんお母さん! 俺を産んでくれてありがとう!


「……ちょっと、ジロジロ見すぎだと思う」


「神楽坂さんや、急に俺の足を踏まないでくれ」


 俺が歓喜に震えていると、神楽坂は不機嫌そうに小さく呟き、俺の足をぐりぐりと踏んできた。


 ……俺、喜んだだけじゃん。


「の・ぞ・む・くーーーーん!!!」


「緊急回避っ!」


 俺は、突如後ろから聞きなれた声が聞こえると、モ〇ハンさながらのようにに真横に緊急回避する。

 すると、俺が立っていたところを見知った顔が猛烈な勢いで横切った。


「もう、なんで避けるの〜!?」


「いや、猛烈な勢いで突っ込んできたら避けない理由がないでしょ」


 そしてチャイナ服を着た見知った顔―――――麻耶ねぇは不満げな顔で近づいてくる。


 いや、まともにタックルされたら嫌でしょ普通?

 何故、麻耶ねぇはそれが分からないんだろう?


「それよりどうかな望くん〜。お姉ちゃんのチャイナ服?」


 ……ふむ。

 俺は麻耶ねぇのチャイナ服姿をマジマジと見る。


 胸元からは麻耶ねぇの豊満な胸が覗いており、そして締まるところはしっかり締まっていて、スリットから覗くムチムチの太ももは男の性欲をくすぐりまくっていた。


「素晴らしいボディをお持ちのようで―――――100点満点!」


「やった!」


 俺は麻耶ねぇに向かってサムズアップする。

 それを見て小さく麻耶ねぇはガッツポーズをした。


「やはり男の子は胸なんでしょうか……」


「麻耶先輩みたいにスラッとした身体の方がいいのかな……」


 俺達のやり取りを見て西条院は胸を、神楽坂はウエストをぺたぺたと触っていた。


 大丈夫だ二人とも。

 どっちもしっかり需要あるから!


「やぁ少年、来たね」


 俺たちの声が聞こえたのか、奥のキッチンから先輩が顔を出した。


「はい、先輩! チャイナ服を見に来ました!」


 俺は、先輩が現れるとビシッと敬礼をした。


「君なら男のロマンを追い求めてここに来ると信じていたよ。早速席に案内しよう」


 やっぱり先輩は男というものをよく分かっていらっしゃる!

 きっとこの中華喫茶も先輩が立案したのだろう。

 ありがとう先輩! 一生ついて行きます!


 俺達は先輩に促されて、端っこの席へと座る。


「みんな、注文は何にする?」


 麻耶ねぇはメニュー表を神楽坂と西条院に渡す。


「へぇー、結構色んな料理があるんですね!」


「麻婆豆腐に回鍋肉、八宝菜なんてものもありますね」


 神楽坂と西条院はメニュー表見て感心する。


 ……よかった。

 どことは言わないが、さっきはメニュー表があってもメニューが一つしかなかったからなぁ。


 俺はきっちりメニューがあることに少し安心する。


「はい、望くんも!」


「ありがとう麻耶ねぇ」


 俺は麻耶ねぇからメニュー表をもらう。

 どれどれ、他にはどんな中華料理があるのかね?


 〜メニュー表〜


『お姉ちゃんとのラブラブポッキーゲーム』


『スキンシップ盛り合わせ』


『チャイナの御奉仕〜お姉ちゃんのハグを添えて〜』


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 …………。


「これがメニュー表?」


「そうだよ〜♪ 望くんは何にするの?」


 ということはこの中から注文しなければならないのだろう。


 ……ふむ。


「じゃあ、『チャイナの御奉仕〜お姉ちゃんハグを添えて〜』で」


「何を言ってるの時森くん!?」


「だ、ダメですよ!? 流石にそれは良くないと思います!」


 そう言って、神楽坂は慌ててメニュー表を取り上げ、西条院は慌てて関節をキメた。


 ……何で顔を赤くしながら関節をキメるのよ西条院?

 恥ずかしくてそうしてるの? そろそろ俺の関節も外れちゃうよ?


「ダメです! このようなハレンチなメニューはダメです!」


「えぇ〜!」


 麻耶ねぇは残念そうに声を漏らした。

 ……俺も少し残念です。

 チャイナの御奉仕されてみたかったです。


「じゃあ、俺は麻婆豆腐で」


「私は青椒肉絲!」


「私も青椒肉絲でお願いします」


 俺達は気を取り直して注文をした。


「分かった〜! 待っててね〜」


 麻耶ねぇはちょっと小走りで、キッチンの方へと向かっていく。

 その後ろ姿は実に素晴らしいもので、思わず一眼レフにその光景を残そうとしてしまいそうだった。


 え? 別に残せばいいだろうって?

 ははっ、何を言ってるんだい君は?


「……余計なことしちゃダメだからね」


「カメラで撮ろうなんて馬鹿な真似は許しませんよ?」


 ……この二人がいる時に撮れるわけないじゃないか。


 俺、何で二人に監視されなきゃいけないんだろう?

 別に撮っても良くない?


 そんな疑問も抱きつつも、彼女達のただならぬ雰囲気に飲まれ、遂ぞ口に出す事は出来なかった。


 ――――だって、言ったら怒られそうなんだもん。


 そして結局俺は、ただ美味しい中華料理を食べ、美少女2人連れ出されるがまま中華喫茶を後にしたのであった。


 ……その時、俺ができる精一杯のことは目の前に広がる楽園をしっかり目に焼きつけることだけだった。


 うぅ……後でクラスメイトからチャイナ写真買わなきゃ。



 ♦♦♦



(※柊夜視点)



 桜学祭二日目も終わり、放課後の生徒会室で私は一人仕事をしています。


 時森さんや他の生徒会メンバーは、桜学祭最終日に向けて教室で最後の準備をしていて、私は倒れた時の分の仕事が残っていたので、一人生徒会室でお仕事です。


 あ、といっても今日は早く帰りますよ?

 時森さんアリスから口を酸っぱくして言われましたからね。


 生徒会室から聞こえる音は、桜学祭の賑やかさとは裏腹に静かなものです。

 ……けど、こんな時間も嫌ではないですね。


「これも、今日はいいことがあったからでしょうか……」


 今日は本当に色々なことがありました。

 お父様が桜学祭に来てくれて色んなお話ができたし、更にはアリスと時森さんと一緒に桜学祭を楽しむことが出来ました。


 食べ歩きもしましたし、射的やヨーヨーすくいなどの出店も回った。

 そして、占いの館では相性占いもしてもらい、どれもこれも本当に楽しいものばかりでした。


 けど、こんなに楽しく思えたのも全て時森さんのおかげなのでしょう。

 彼がいなければ、私はどこか寂しい思いをしながら今日という日を迎えていたのだと思う。


 そして彼がいた今日、私は自分の恋心に気づきました。


「本当に色々なことがありましたね……」


 私は今日という日を振り返りながら、仕事を一旦止めて日が沈みかけている外を窓から呆然と眺めた。


 しかし、いいことがあったにもかかわらず、私には少し不安があります。


「素直な気持ちで一歩前に進むと人一倍親密な関係になれる……ですか」


 それは、今日の占いの舘で言われたこと。

 勿論、占いなんて信じるに足りないのですが、時森さんとの相性占いのことなので気になってしまいます。


 しかし、私は素直になることはできるのでしょうか?


 彼に対する恋心は自覚しても、それをいざ行動で示そうとしたら恥ずかしくてすぐに誤魔化してしまいます。

 ……まぁ、最近誤魔化しかたが関節をキメることになっているのは治さなくてはいけないと思いますが。


「何かきっかけでもあれば変われるとは思うのですが……」


 何か素直になれるきっかけがあり、そこで素直になれればあの鈍感な彼でも少しでも私の好意に気づいてくれるのではないでしょうか?


 しかし、その『きっかけ』が思いつきません。

 出来れば、アリスに先を越される前に気づいてもらいたいところなのですが……。


 すると、私は机に置いてある一枚の紙が目に入った。


「ふふっ、これだったらいいかもしれませんね……」


 私はその紙に目を通すと、思わず少し笑ってしまいます。


『桜学祭最終日

 有志者︰時森 望

 有志内容︰学園ミスコンテスト』


 これで、少し素直になってみましょう。

 ここで素直になれれば、彼もきっと気づいてくれる……といいですね。


「ちょうどいいきっかけが見つかりました……」


 ……明日が少し楽しみです。


 私はその紙を置き、明日のことを考えつつも、早く帰るために再び仕事に戻った。




 覚悟しておいて下さい、時森さん。

 私も少し素直になって、鈍感なあなたに私の好意を伝えてみせますから。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ※あとがき


 ここ読んでいただきありがとうございます!

 書いていて何か桜学祭編が長くなってしまったような気がします……。


 けど、それも後2話で終わり!

 引き続き頑張って投稿するので、引き続きよろしくお願いいたします!

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