俺と彼女達は相性を聞きたい!

 西条院のお父さんが帰ってからしばらくして。

 俺達は客足が落ち着くまで働き続け、何とかお昼休憩を手に入れることができた。


 というわけで俺は今、神楽坂と西条院と一緒に桜学祭を回っている。


「ねぇ、あそこにヨーヨーすくいがあるよ!」


 俺達は校庭にある出店を見ていて、神楽坂ははしゃいでいるのか、俺の袖を引っ張りながら出店を指さしていた。


 けど、ヨーヨーすくいって……夏祭りっぽい出店もあるんだな。


「確かに面白いですね――――あ、あそこに金魚すくいがあります」


 ここは夏祭りかな?


「こっちには浴衣の試着コーナーがあるよ!」


 だから夏祭りかな?


 しかも、浴衣なんて季節外れにも程があるだろうに……。


「お前ら、楽しむのはいいけどもうちょっとテンション落としてくれない?」


「どうしてですか? せっかくなんですし、別に問題はないのでは?」


 出店に目が惹かれていた西条院は、俺の方を向いて不思議そうに言った。


 いやね、別に俺とて二人には楽しんで欲しいですよ?

 せっかくの桜学祭ですし、今まで頑張ってきたんですから羽目を外すのはいいと思うんです。


 けどさ――――


「お前ら、めちゃくちゃ注目浴びてるの分かってる? そして、一緒にいる俺の気持ちも分かってます?」


 そうなんですよ。

 もうね、彼女たちは目立ちまくるんです。


 分かります?

 人が通り過ぎる度、こっちに振り向いたりしてるし、男連中に至っては呆然と見蕩れている人ばかりなんですよ。


 あ、すみません。一部ハンカチを噛み締めながら殺意を向けてくる男子達がいました。

 ……目を合わせないようにしなきゃ。


 しかも、神楽坂のサラリとした銀髪と西条院の艶のある金髪は余計に目立ってしまう。

 ちょっとはしゃいでいる声が聞こえたら一発でこっちにいるって分かってしまうんだよね。


 俺としては、気まずい気持ちになりますし、殺意から目を逸らしているだけなんで、後で殺されないか心配で仕方ないんです……。


「……けど、注目を浴びるのにも慣れてもらわないと困るよ」


「え? なんで?」


「……だって、これからずっといるかもしれないじゃん」


 神楽坂は頬を赤くして小さく呟いたのだが、この賑わっている場所のおかげで上手く聞き取れなかった。


「え、何て言った? 声が小さくて聞こえなかったんだが」


「う、ううん! 何でもないよ!」


 神楽坂は頬を若干赤くして、手を横に振りながらそう言う。

 ……ふむ、何を言っているか分からなかったが、多分こういう事を言っていたのだろう。


 『彼女が出来たら男子達から殺気という注目を浴びるから慣れておけ!』


 確かに、俺もいつか普通に可愛い彼女ができるはず!

 そうしたら、モテない我がクラスの男子達は勿論、他クラスの男子達からも妬み恨みの視線を向けられるであろう。


 きっと神楽坂はそのことを忠告してくれたんだ。


 しかし、それは彼女と甘々でイチャイチャな生活を送るためには必ず通らなければならない道。


 俺はきっと乗り越えてみせる!

 頑張れ俺! 応援してるぞ俺!


「ちょっとしか理解されていないような気が……」


「なるほど、時森さんはストレートに言わないと上手く伝わらないのですね……」


「……ひぃちゃんも気をつけてね、時森くんはこういう人だから」


「な、何を言っているんですかアリス!?」


 後ろで神楽坂と西条院が話していたが、またしても桜学祭の活気の所為で聞こえなかった。


 ……まぁ、いいだろう。


 さぁ 、もっと俺に注目を!

 彼女できた時のために慣れておくんだ!


「あ! あそこに『占いの館』っていうのがあるよ!」


 俺がそんなことを考えていると、西条院と話していた神楽坂は、校庭の隅っこにぽつんとある出店を指さした。

 それは黒い天幕に覆われ、見るからに怪しい。


「面白そうですね、行ってみましょうか」


「さんせーい!」


「まぁ、俺もいいけどさ」


 満場一致ということで、俺達は人混みをかき分け、その怪しげな『占いの館』に向かう。


「……いらっしゃい」


 天幕の中に入ると、そこには机の上に水晶が一つと、黒いベールを被った女子生徒がおり、いかにも占いのお店っていう感じの雰囲気が漂よっていた。


 ……へぇ、結構中は本格的に作られてるんだな。


「えーっと、占いをしに来たのですが……」


「はい、どの占いにしますか?」


 そう言って、女子生徒は横に架かっているメニュー表を指さした。

 そこには


『相性占い』


 ……しか書かれてなかった。


「どれにするって一つしかねぇじゃねぇか!?」


「私、それしか出来ませんので」


 ……じゃあなんで置いてあるんだよ。

 メニュー表の意味を為してないじゃん。


「じゃあ相性占いでお願いします!」


 神楽坂は元気な声でそう言った。


「相性占い……いいですね」


 西条院は相性占いが気に入ったのか、文句は無いようだ。


「……じゃあ、それでいいよ」


 俺だけだろうか? こんなにも釈然としないのは?


「分かりました。では、どなたから誰の相性を占いますか?」


「じゃあ、私と時森くんで!」


 え、俺でいいの?

 こういうのって好きな人との相性を占ってもらうんじゃないの?


 という疑問を口にしようと思っていたが、神楽坂は目を思いっきり輝かせているので口に出せなかった。


 ……神楽坂は占いが好きなんだなぁ。


 きっと神楽坂は占いが楽しみで仕方がないのだろう。

 そこに水を差すのは辞めておいた方が良さそうだ。


「……では」


 ベールを被った女子生徒は水晶に手をかざし、じっと見つめる。

 少しの沈黙の後、女子生徒は水晶から手を離し口を開いた。


「あなた達は互いに気のおける相手として、これからもずっと深い仲でいられるでしょう」


「やった!」


 神楽坂は横で小さくガッツポーズをして喜んでいた。

 ……ふむ、深い仲か。


 親友ということだろうか?


「しかし、このまま過ごしていくと、朴念仁且つ鈍感で童貞な男の方はあなたの気持ちに気づかず、そこから何も進まないでしょう。これからは彼と過ごす時間に少し変化を与えてみるといいかもしれません」


「変化かぁ……確かに必要なのかもしれないよ……」


「待って、納得する前に俺に対する悪意ある発言には疑問を持たないの?」


 神楽坂はどこか納得しつつも、落ち込んでいる様子で呟いた。


 いや、納得すんなよ。

 俺、朴念仁でも鈍感でもないから……童貞はさ、認めるけどさ、俺に対しての発言酷くない? 悪意を感じるよ。


「じゃあ、次は私と時森さんですね」


「お前も俺とかよ……」


 ねぇ、こいつらは何で俺と相性占いしたがるの?

 彼氏候補の一輝いるじゃん、そっちで占ってもらえよ。


「えーっと、貴方とそこのクソ野郎との相性は……」


「おい、そろそろ表出ろや」


 そろそろ怒っちゃうよ?

 俺、何もしてないのに態度悪くない?

 麻耶ねぇが広めた悪評がまだ残っているのだろうか?


 女子生徒は俺に対する悪意マシマシ状態で再び水晶に手をかざす。


「あなたは、お淑やかでありながらも、すぐに暴力を振るい、その慎ましい胸部は変態である彼の好みから外れ、ソリが合わないことが時々あります」


「ふむ……素晴らしい的中率だ」


 確かに俺は大きな胸の子が好きだし、胸の事となるとすぐに暴力を振うからソリが合わないことが多々ある。


 ……もしかしたら、この占いはかなり的中率が高いのかもしれないな。


「おいコラ、どこが的中率高いって?」


「西条院さん、そういうところです。現在進行形で証明されてます」


 西条院は素晴らしい動きで俺の腕を後ろに回し、見事に関節をキメる。


 こういうところがソリが合わない原因じゃないかと思います。


「しかし、それは互いに気のおけない相手である証拠。貴方が素直な気持ちで一歩前に進めばこの童貞クソ野郎とも人一倍親密な関係になれるでしょう」


「そ、そうですか……」


 西条院は頬を赤く染め、嬉しそうに呟いた。

 いや、何で赤く染めているのか分からんけど、そろそろ手を離してくれませんかね?


 ……めちゃくちゃ痛いからねこれ?


「最後に、そこの豚野郎はどうしますか?」


「もう、お前の評価がかなり低いことは分かったよ……」


 この女子生徒、どれだけ俺の評価が低いのだろうか?

 さっきから俺の部分だけ棘出しまくりなんですけど。


「まぁ、いいや。じゃあ、俺は我がクラスの女子の宮永さんとの相性を――――」


「はい、占ってくれてありがとうございました」


「もう行くよ時森くん!」


「え、ちょっと待って! 俺、何も聞いてないんだけど!?」


 二人は不満げな顔をしながら、俺の腕を引っ張って、占いの館を出ようとする。


 待って、俺聞きたい!

 可愛い宮永さんとの相性聞きたい!


 そこの女子生徒さん、手を振って送り出さなくてもいいから、この二人を止めて! っていうか相性聞かせて!


「この流れで私達以外の人との相性を占いますか……」


「……ばかっ」


 二人はそんなことを呟きながら俺を引っ張りながら占いの館を出た。


 ……あぁ、宮永さんとの相性聞きたかったよぉ。



♦♦♦



「なぁ、俺ちょっと行きたいところがあるんだが行ってきてもいいか?」


 その後の俺達は、校庭での出店をある程度回り終え、校内の出店を回っていた。

 神楽坂は頭にお面をつけ、西条院は手にヨーヨーを持っている。


 ……これで浴衣だったら本当に夏祭りっぽいよな。


「どこに行くんですか?」


「ん? ちょっと、とある服が見れる喫茶店に…」


「……どこに行くんですか?」


「え、えーっと……」


 どうしてだろう?

 ただ普通にチャイナ服を見に先輩のクラスに行きたいだけなのに、西条院を見ると何故か寒気がして言葉に詰まってしまう。


 ……俺、何か悪いことでもした?


「……チャイナ服なんでしょ?」


 神楽坂は俺にぐっと近づき、小さく笑いながら的確に俺の目的を当ててきた。


 正解! って言いたいのだが、そう言ってしまったらいけない気がする……。


 だって神楽坂も西条院も、何故か目が全然笑ってないもの。


「い、いや……先輩のところにもそろそろ顔を出さないといけないなーって思ってだな!」


「なら、私達も顔を出しておいた方がいいよね?」


「そうですね、では一緒に行きましょうか」


 待って、俺一人で行きたいんだけど?

 一人で誰の目も気にせず、チャイナ服を眺めていたいんだけど?

 だから二人はここで待っててください!





 ―――――なんて事はもちろん二人には言えず、結局俺達は一緒に先輩のクラスの出店に向かったのでした。



 ……チャイナ服を女子と一緒に眺めに行くって、ちょっとおかしいと思うのは俺だけなのだろうか?

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