感謝の気持ちと好きという気持ち
(※柊夜視点)
正直、私には今過ごしている時間が夢のように感じました。
決してお父さんっ子では無いと思うのですが、今こうしてお父様と過ごしている時間はとても楽しいものです。
皆さんが働いている中、一人だけ休んで会話に花が咲いていると思うと、少し申し訳なさが出てきます。
……後で皆さんにはお礼をしなくてはいけませんね。
とにかく、今私は教室の端の席でお父様と久しぶりにお話しています。
学園でのことや、友達の事、家でちゃんと過ごせているのかなど、本当にたわいもない話ですが、私のことをお父様に知っていただけるというのは嬉しいものです。
「なるほど……じゃあ、この学園では楽しくやっていけてるのだね」
「はい、始めはいろいろとありましたが、今はとても楽しいです」
私の話を聞けて嬉しいのか、お父様は口元を綻ばせました。
「ところで……」
すると、突然お父様は入口でお客を案内している彼の方を向く。
「あの少年とはどういった関係なんだい?」
「ど、どう……とは?」
私は誰のことを言っているのか分かると少し慌ててしまいました。
……最近、彼には私の恥ずかしいところを見せしてしまった為、どうにも慌ててしまいます。
「いや……ね。正直、彼には柊夜のことでいつかお礼を言わなくてはいけないと思ってな」
「お、お礼ですか……?」
彼が何かしたのでしょうか?
正直、入口でのやり取りからお父様がここにいることと関係していることは何となく察しているのですが……。
お父様は私の方に向き直り、愉快そうに話を切り出しました。
「彼はね、昨日突然私に電話をかけてきたんだ。個人の携帯にではなく会社の電話にね」
何をしているんですか時森さんは……。
多分、西条院グループの本社にかけたのでしょうけど、一般人が急に話なんて通せるわけがありません。しかも、グループのトップであれば尚更に。
「もちろん、本当なら受付で断るのだが……娘の件でと言われてしまえば私とて繋げない訳にはいかなかったんだ」
「そうですか……」
仕事中でも私に何かあれば気にしてくれるということを聞いて、私は少し嬉しく感じました。
「そして電話に出ると「今から会いに行くからそこで待ってろ」って言ってきたんだ。会社の社長に言うのもそうだが、大人に対しての敬意がないやつだなって思ったさ」
「……はぁ」
私は思わず額に手を当ててため息が出ます。
……本当に何をやっているんですか。
「すぐにあの少年はやってきて、私は少し説教してやろうと思ったんだ。多分柊夜の同級生だとは思っていたが、それでも目上の人に対する敬意を教えてやろうと思ったからね」
……当たり前です。怒ってください。
時森さんはいつも無茶ばかりするので、思いっきり説教してあげて下さい。
「けどね、驚くことに少年は私の部屋に入ると真っ先に床に頭を付けてお願いしてきたんだ────「お願いします。明日の桜学祭に顔を出して下さい」ってね」
「……」
その言葉に、私は言葉が上手く出なかった。
私は、時森さんお父様に会いに行っていたことにも驚いたが、そんなことをしていたと知ってさらに驚いてしまったからです。
何故彼はそんなことをしたのでしょう?
私の中ではそんな疑問が湧いてきます。
「始めはやんわり断ったんだけど、柊夜が倒れるまで頑張ったっていう話を聞かされて、少し迷ったんだ。娘が頑張っているのに私は行かなくてもいいのか……と。けど、やはりどうしても明日は外せない予定があった。だから私は少年にも柊夜にも申し訳ないが、やっぱり行けない……そう、断った」
「……」
分かっていました。
お父様は今では大きな会社までになった西条院グループのトップ。
その予定をキャンセルすることによってどれだけの損失がでるかなんて想像がつきます。
頭では分かっていても、少し悲しい気分になってしまったのは……ダメですね、私。
「しかし、少年はそれでも引き下がらなかった。柊夜はこんなに頑張っているんだ、頑張ったやつが報われないなんておかしい、って言いながら私に詰め寄ってきて、最後にこう言われたんだ」
『何であんたは誰にでも出来ないことが出来るのに、父親なら誰にでもできることをしてあげねぇんだ!!!』
「………」
「私は鈍器で頭を殴られた気分だったよ……いつから娘より仕事の方が大事になったんだとね」
その時森さん言葉はお父様どれだけの影響を与えたのか。
それは、今ここにいる時点で分かっている。
私は、お父様が私の事を大事に思ってくれたことが嬉しかった。
けど――――
時森さんが私の為にそこまでしてくれたことが、何より嬉しかった。
「だから私はこれからは娘のために頑張ろうって思って、今日ここに来たんだ。そう思わせてくれた少年には感謝しているよ」
お父様は優しい声音でそう呟いた。
お父様を見ていると本当に時森さんに感謝しているんだというのが伝わってくる。
「っと、もうそろそろ時間だね――――そこの女装が似合う少年!」
お父様は話を切り上げると、入口にいた時森さん大声で呼んだ。
きっと、時計を見ていたことから、もう行かなければならないのだろう。
……本当に、楽しい時間はあっという間ですね。
「おいコラ、誰が女装が似合うって?」
時森さんは、私たちの方に来るとお父様に向かって忌々しげに話しかけました。
「そう言いながらもしっかり来るってことは自覚があるんじゃないのかい?」
「うるせぇわ!」
いつの間にか仲良くなったのでしょうか?
時森さんの方は少し邪険にしていますが、お父様の方はどこか楽しそうに見える。
……少し妬けてしまいますね。
「それより……もういいのか?」
時森さんは私とお父様に向かってそう聞いてきます。
それは、もうこの楽しい時間を終わらせてもいいのかという意味なんでしょう。
けど、お父様は予定があるみたいですし……私としても、とても満足しましたから。
「もう、大丈夫です」
「……そうか」
私は、満面の笑みでそう言うと、時森さんは恥ずかしくなったのか顔を逸らしてしまった。
若干耳が赤いですね……照れているのでしょうか?
「分かっていると思うけど、おっさん……」
「あぁ、分かっているさ。これからはなるべく娘に会いに行くよ」
……そんな話までしていたのですね。
確かに、私としてはお父様に会う頻度が多くなるのはとても嬉しいですし、こうして桜学祭連れてきて下さったことにも感謝しています。
……けど、時森さんは何故そこまでしてくれるんでしょう?
――――いえ、違いますね。
彼はそういう人でした。
私やアリスが困っていた時にはしっかり手を差し伸べてくれて、自分に強い芯を持っている。
そんな彼だからこそ、私のためにここまでしてくれたのでしょう。
「んじゃ、この後も仕事があるんだろ? 早く行きやがれ」
「ははっ、君は私に対して冷たいね」
「だから、うっせぇよ」
そう言いながら、時森さんは席を立つお父様を出口まで案内していく。
お父様は振り返り、「また近いうちに帰るよ」と言ってくれました。
私はその言葉が聞けただけで、今日まで頑張ってきた甲斐がありました。
けど、その言葉も今日の出来事も全て、私一人では絶対に叶えられなかった事。
しかし、こうして私の努力が報われたのも、全て時森さんのおかげです。
デリカシーもなく、欲望に忠実で、いつもふざけている彼。
けど、誰にでも優しく、誰にでも手を差し伸べてくれて、その行為は素晴らしいのだと、人の努力をしっかりと見てくれる。
私は未だ席から立ち上がらずに、お父様を見送っていた彼の姿を見ました。
その姿を見ると、どうしてか私の胸が高鳴ってしまいます。
今まで彼と過ごして、モヤっとした気持ちになることは何度かありました。
この気持ちは何なのか?
薄々と気づいてはいましたが、それは違うと、自分の中で否定してきました。
しかし、今日でしっかりと気づいてしまいました。
……私はもう、この気持ちを否定することができません。
「……はぁ、アリスとライバルですか」
私はこの先のことを考えてしまい、小さくため息が出ます。
お互いに彼氏を作りたいという目標があり、お互いに1歩前に進みました。
けど、このまま進めば最低でも一人は目標を叶えることはできません。
「なんとも、恋愛とは思うようにいきませんね……」
けど、例えアリスとライバルになってしまっても譲ろうとは思わないでしょう。
この気持ちは、誰にも譲りたくはないほど強いものになってしまったのですから。
「……本当に、大好きですよ時森さん」
私は彼の背中を見ながら、絶対に聞こえないようにそう呟きました。
これからはもっと彼氏を作るのは難しくなる。
だけど、私は不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
だって今の私は、彼に対する感謝の気持ちと、溢れんばかりの好きという気持ちしかないのですから。
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これで真面目なお話は終了!
コメディをやっと書けると思うと嬉しくなっちゃいますね!
ここまで読んでいただきありがとうございました!
これでちょうど本1冊分、文章力が拙いですが、これからも頑張って書いていきますのでよろしくお願いいたします!
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