この結果は俺のおかげじゃない。頑張った彼女が作った結果だ。
我慢できずコメディ入れてしまいました…
真面目なお話にするつもりが…
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桜学祭二日目。
一日目は西条院の看病をしていて見れなかった為、俺にとっては初めての桜学祭となる。
もう楽しみも楽しみ!
昨日はなんだかんだ家に帰るのが遅くなってしまってすっかり寝不足なんだが、それでも俺は朝しっかり起きたんだ! メイド服を見るために!
そして俺は早朝の生徒会の仕事を終えて、二日目の準備をしている我が教室で―――――歓喜に震えていた。
「お、おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉう!!!」
「ちょ、入ってくるなりなんなの!?」
俺の謎の叫びに、クラスの女子が驚きの声を上げた。
だって……だって仕方ないじゃないかッ!?
俺は顔を上げる。
そして、俺の目に移った光景には——――メイド服を着たクラスの女子達がいるのだ。
これを喜ばすにいられるか!?
我が悲願が、今ここで! この瞬間に、叶ったというのだぞ!
見たかセイバー! これが聖杯で願いを叶えた瞬間だぞ!
「お、俺……生きてて良かった……」
「え、マジ泣き!?……本当にメイド服見たかったんだ」
俺が歓喜の涙を流していると、クラスの女の子はかなり引いてしまった。
え、そんなに気持ち悪いかな?
そんなことないよね? だって、教室の隅っこで男子達がうんうんと頷いているんだから。
「それより時森くん、早くしないと桜学祭始まっちゃうよ!」
「そうです、早く準備してください」
振り返ると、昨日風邪で倒れてしまっていた西条院と看病を引き継いでくれた神楽坂の姿があった。
しかも、俺と一緒に来たはずなのにもうメイド服を着ていた。
そんなにメイド服着たかったのかね?
あんなに嫌々言っていたのに素直じゃないヤツらめ。
「二人とも、やっぱり似合っているな!」
「………」
「あ、ありがとうございます……」
俺がメイド服を褒めると何故か二人は俯いてしまった。
ふむ、顔が赤い事を見ると、まだメイド服を着ることに恥ずかしさを覚えているんだろう。
でも、恥じらいメイド……素晴らしい!
「引き続きその表情で頑張ってくれ!」
「待って、何か勘違いしてない?」
何を言う? 俺は人一番察しがいいことで評判なんだぞ?
ラノベの主人公みたいに鈍感なんてことは無いはずだ。
その証拠にほら……二人が後ろに隠しているメイド服が誰の為にあるか――――察しているんだもん。
「さて、俺も厨房の準備でもしようかな〜」
「ちょっと待ってよ!(ガシッ)」
「察しのいい時森さんなら分かってますよね?(ガシッ)」
「ハ、ハハハッ」
厨房へと逃げる俺の両肩を二人が一斉に掴んでくる。
あぁ、分かっているさ………分かっているとも。
古今東西、人は何かを叶えるためには何かを失わなければならなかった。
それは俺とて例外ではない。
メイド服という願望が叶えられた今、きっと俺は何かを失う番なのだろう。
例えばそう―――――男の尊厳とか……かな?
俺は二人に連行され、更衣室へと移動した。
待って、一緒に来なくてもいいんだよ? 俺の着替え覗く気?
♦♦♦
「………おっふ」
「時森、お前似合ってるじゃねえか!」
「流石我がクラスのリーダー! メイド服も可愛いぜ!」
「あーはっははー!!!」
西条院と神楽坂にメイド服を着替えさせられ、戻ってくると俺は絶賛クラスの男子達に笑われていた。
「時森の気持ち悪さはこのクラス一だな!」
イラッ。
とりあえず俺はバカにしてくるクラスの連中がムカついたので、近くにある鏡を持ってきた。
「ほれ」
「「「……おえぇ」」」
そして、クラスの男子達に己の姿を見せてやろうと思い、鏡でその自らのメイド服を見せてやる。
どうだ? お前らも自分の姿を見て吐くくらい気持ち悪いだろ?
「しかし……」
俺は鏡を見て今の自分の姿を確認する。
うぅむ……やはり似合っていないな。
まぁ、男がメイド服似合っているのもそれはそれでおかしな話なんだが。
「時森くんって意外に女装似合うのかな? 今も結構似合ってて可愛いし」
「えぇ、他にもうちょっと着させてあげたくなりますね」
聞こえない! 俺が似合うなんて話は一切聞こえないからね!
「時森さん可愛いですね」
「時森くん、似合ってるよ!」
「嬉しくないわ!」
神楽坂と西条院は俺を褒めてくれるが、全くもって嬉しくない。
……褒めているのか?
「まぁ、二人とも褒めてくれるんだしいいじゃないか」
そう言いながら俺に近づいてきた我がクラスのイケメン。
………ふむ。
「お、一輝も似合ってるじゃないか?(パシャリ)」
「待って、その写真をどうするつもり?」
「ん? クラスの女子に売りさばくためだが?」
「肖像権は!?」
イケメンに肖像権なんてあるわけないだろう?
パシャ。
何を馬鹿なことを言ってるのかね我が親友は?
パシャ。
「くっ! あの当たり前みたいな顔がすごい腹立つなぁ!?」
パシャ。
一輝は拳を震わしながら怒りをこらえていた。
パシャ。
「うるさいな、お前の女装写真は一部の女子には絶大なる人気が―――――」
パシャ。
………。
「待て神楽坂! お前は何で俺の写真を何枚も撮っている!?」
さっきからシャッター音がなっていると思ったら、神楽坂が俺の姿をカメラに収めていた。
「え、えっと……私と麻耶先輩用に……」
「何に使う気!?」
え、待って二人して俺の写真が必要になる事ってあるの?
……もしかして、売りさばく気か!?
後で神楽坂のカメラを没収しよう。
学園中に俺の女装写真が広まる前に。
俺はひっそりと決意した。
♦♦♦
「いらっしゃいませご主人様♪」
「いらっしゃいませご主人様……」
桜学祭二日目が始まり、開始早々俺たちのクラスのメイド喫茶は大忙しだった。
それはそうだろう。
何故なら学園屈指の美少女が二人もメイド服で接客してくれるんだからな。
それはもう客がわんさか来るよね。
「こちらの席にどうぞ!」
「荷物はこちらに置いてください…」
しかし何故だろう?男子達はメイド服が見れて心の底から嬉しいはずなのに、あからさまにテンションが低い。
その代わり、お客は「やばい、めっちゃ可愛い!」や「お前、女装とかマジでウケるわ!」など、高評価のようだ。
……一部バカにしているヤツもいるが。
一方、俺は――――
「待って、めっちゃ可愛いんですけどー!」
「え、これ時森くんなの!? 私より可愛くない!?」
「きゃー!!! 佐藤くん! こっち向いて!」
――――何故か一輝と一緒に写真を撮られまくっていました。
「あ、いや……」
「すんません、写真は控えていただけないでしょうか……」
おかしい!?
普段はこれだけの女子に囲まれて嬉しいはずなのに、全然嬉しくないし恥ずかしい!
っていうか、俺似合ってないし!? 女の子の服なんか似合わないし! 男物の方が似合ってるし!
一輝も戸惑っているのか、うまく女子をあしらえなくなってきている。
「はい、申し訳ございません。写真は控えていただけないでしょうか」
「ごめんね! 今は接客中だから!」
そこへ、神楽坂と西条院がやってきて、写真を撮りまくっている女子達を追い返してくれる。
……あぁ、救世主よ。
「ごめん、ありがとう……」
「本当に助かったわ……」
「大丈夫だよ!」
「早くこの行列を何とかしないと、お昼から一緒に回れませんよ?」
神楽坂と西条院は気にしないでと言ってくれた。
なんて可愛らしいメイド達なんだ。
後で飴ちゃんあげよう。
俺は、賑わっているクラスの外を見る。
そこには大盛況と言わんばかりの行列が続いていた。
……確かに 、これは早く捌かないとなぁ。
俺達のメイド喫茶のシフトは朝と昼で別れている。
俺と西条院と神楽坂は朝のシフトで、昼になったら一緒に桜学祭を回る約束をしていた。
一輝も誘ったのだが、「二人に申し訳ないよ」と言いながら断った。
……何が申し訳ないのだろうか?
出来れば一緒に来て欲しかった。
一輝は西条院と神楽坂の彼氏候補なのだ。一緒に回って親睦を深めてもらいたかったところなんだが……。
しかし、この行列を捌けないと昼も働かなくてはいけなくなるかもしれない。
それだけは絶対にダメだ。
何故なら俺は中華喫茶に行かなければならんからな!
「じゃあ、さっさと終わらせますかね!」
「うん!」
神楽坂が元気のいい返事をしたところで、俺達は接客へと戻る。
すると、ドアが開く音がしてまた一人客が現れた。
「おかえりなさいませご主人……様……」
「やぁ、柊夜。久しぶりだね」
西条院が明るく客を迎えたかと思うと、最後は驚くような声に変わった。
そこには、見るからに高そうなスーツを着た壮年の男の姿が。
……どうしてか、昨日見たような顔ですね?
「え、お父様!? どうしてここに!?」
西条院は接客中ということも忘れて、父親が来店したことに驚く。
「本当は予定があったのだがね……どこかの少年が当たり前のことに気づかせてくれたんだ。少ししかここにいられないが、こうして娘に会いに来たんだよ」
そう言いながら、西条院の父親は俺の方に視線を向ける。
……やめろ、こっちを向くな。
「そ、それは……」
西条院も父親の視線を追って俺の方を向く。
……やめなさい、そんな目でこっちを見るんじゃありません。
「それにしても、この学園祭は柊夜が頑張ったのだろう? 素晴らしい学園祭じゃないか――――よく頑張ったね」
西条院の父親は、優しく声をかけながら西条院の頭を撫でた。
傍から見るとそれは娘を褒める父親の行動に他ならなかった。
「い、いえ……私は……」
西条院は、突然に褒められ戸惑っているのか、上手く言葉が出ていない。
それもそうだろう。
何しろ、一番この状況に驚いているのは西条院自身なのだから。
しかし、西条院も段々と今の現状を理解し始める。
すると、彼女の瞳から徐々に涙が零れていった。
「あ、あれ……? どうして…涙が……お、おかしい…ですね…」
西条院は溢れる涙を拭いながら毅然と振舞おうとする。
しかし西条院の行動とは裏腹に、溢れる涙は止まらなかった。
「……本当に、よく頑張ったね。流石は自慢の娘だ」
最後に、父親が誇らしげに優しく声をかける。それは本当によく頑張ったと娘を褒める光景。
その言葉は、今の西条院にどれだけ響いたのか。
すると、西条院は我慢の限界がきたのか、溢れる涙と共に、今まで溜まっていた気持ちを吐き出した。
「は、はい……わたし、頑張りましたっ! お父様に……よ、喜んで欲しくて……手伝ってもらいながらも…わたし…頑張りましたっ……!」
父親は西条院を慰めるように優しく抱きしめる。
教室にいるクラスの連中や客も、西条院の微笑ましい光景を黙って見守っていた。
……良かったな、西条院。
俺はその光景を見て素直にそう思った。
きっとそれは神楽坂も同じなのだろう。
しかし、いつまでも教室の入口で親子の時間をさせる訳にはいかない。
「はいはーい、ご主人様御来店〜」
「ほら、ひいちゃんもいらっしゃいませ!」
俺は神楽坂に視線で合図を送ると、二人で抱き合っている親子の背中を押してテーブルへと案内した。
「ちょ、ちょっとアリス!? わ、私はまだ接客中―――」
「いいからいいから!」
西条院は抵抗したものの、神楽坂に押されるがままテーブルに向かっていった。
そうだ、今は接客なんてしなくていいから、親子の少ない時間を楽しんでこい。
「……少年、本当にありがとう」
「……何の話か分からないっすね」
俺にぼそっと西条院パパが言ったようだが、俺は聞こえないフリをした。
こんな時にお礼なんか言ってんじゃねぇよ。
今、あんたが話さなきゃいけないのは―――――
「お、お父様……」
「まぁ、少年たちもこう言ってるんだし、久しぶりに話を聞かせてくれないか?」
「―――
―はいっ!」
――――お前の娘のはずだろ?
西条院達は席に座り、久しぶりに話せたのが嬉しいのか、会話に花が咲き始めた。
彼女のその表情は外見を取り繕うことのない、年相応の自然で可愛らしい笑顔だった。
それを見て、俺は何故か胸に込上げるものがある。
「良かったね、ひいちゃん……」
神楽坂も同じ気持ちなのか、優しい眼差しで西条院を見ていた。
あの顔を見ただけで、昨日桜学祭をサボったかいがあるってもんだ。
クラスの連中も空気を察してなのか、各々の仕事に戻っていく。
……さて、俺も溜まっている注文を作りますかね。
「時森くんがひいちゃんのお父さんを呼んできたの?」
「さぁな」
俺は神楽坂から背を向けて、キッチンへと向かう。
これ以上、俺達が関わることはないだろう。
後は当人たちが家族の時間を楽しんでこの話はおしまいだ。
「ありがとうね、時森くん……」
最後に神楽坂が感謝の言葉を呟いていたが、俺は聞こえてもスルーをする。
だってそうだろ?
今まで頑張ってきたのは西条院なんだから。
お礼を言われるのは筋違いってもんだぜ?
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