俺と彼女達は現実から目を逸らしていた
最近、西条院の様子がおかしい。
桜学祭の準備もある程度終わったというのに、細かなところを直そうとしていたり、まだ始まってもいないのに異様に張り切っていたり、とにかく頑張りまくっていた。
西条院はクラスの出し物の準備が終わっても、生徒会としての仕事を毎日遅くまでやっている。
流石に、女の子1人を遅くまで残すのは気が引けるので、俺もここ毎日はサービス残業である。
……残業代でないかなぁー。
それに、今の西条院の仕事は絶対に一人の作業量ではない。
俺も西条院の仕事を手伝ってはいるが、なかなか捌ききれる量ではなかった。
先輩も麻耶ねぇも神楽坂も手伝うとは言っていたのだが、西条院が頑なに断っていたのだが、俺は無理やり押し切った。
やはり、なにか理由でもあるのだろうか?
個人的な事情に首を突っ込むのはマナー違反なのは知っているのだが、流石に今の西条院を見るとどうしても気になってしまう。
しかし、どんな理由であれ張り切っているのはいいことである。
俺としても桜学祭がいいものになるのであればいくらでも協力しよう。
————何故ならメイド服とチャイナ服が俺を待っているからな!
俺はメイド服とチャイナ服のため、西条院と一緒に夜遅くまで仕事をこなしていった。
しかし、その時の俺は目先に欲望に目がくらんでいたのだろう。
目の前の異変に注意を向けようとせず、自分のことしか考えていなかった。
それが、とても大事なことであったにもかかわらず―――――
♦♦♦
(※アリス視点)
最近、ひいちゃんの様子がおかしい。
よく分からないけどいつも以上に頑張っている気がする。
始めは、「ひいちゃんは桜学祭を良いものにしたくて頑張っている」って思って私も負けないように頑張った。
けど、しばらくしてそれだけじゃないような気がした。
なんて言うのかぁ〜、自分の為でもあるけど違う誰かの為に頑張っている気がする。
別にそれは悪いことじゃないと思う。
誰かの為に頑張るのはいい事だと思う。私も最近は……と、時森くんの為に頑張っている節があるから……。
でも、それでもひいちゃんの様子はおかしい。
流石に無理し過ぎなように感じる。
あれから毎日、クラスの出し物以外にも生徒会の仕事を遅くまでやっているのだ。
時森くんが一緒に残っているので安心はしているけど、体の方にも気をつけて欲しいと思う。
だから私はひいちゃんに聞いたことがあった。
「ひいちゃん、最近遅くまで頑張ってるけど大丈夫?」
「えぇ、心配してくれてありがとうございます。でも私は大丈夫ですよ」
と言ってひいちゃんは私を安心させるように微笑んだ。
その時の笑みは、私達がよくする外面の表情だった。
きっと、あまり聞いて欲しくないのだなと思って、私はそれ以上は聞かなかったけど……。
若干不安は残っているけど、ひいちゃんなら大丈夫だよね。
今まで一緒にいて、西条院柊夜という人物がどれだけ強いか知っている。
……私も頑張らなくちゃ!
桜学祭の準備もそうだが、私はこの桜学祭で時森くんと仲を深めるんだ!
そのためには、時森くんと一緒に桜学祭を回りたいな……。
いつ誘おうか悩みながらも、私は桜学祭の準備へと戻った。
私はこの時、どこかで現実から目を逸らしていたんだと思う。
自分のことだけを考えて、周りのことを楽観的に見ていて自分の中で勝手に結論を出していた。
だからこそ、私は気づけなかったんだと思う――――
♦♦♦
(※柊夜視点)
クラスの出し物の準備が終わっても、生徒会としての仕事は残っています。
当日の来賓の方々のスケジュールの把握だったり、外部から招くスタッフの調整、警備員の配置……他にもやることは山ほどあります。
本当はここまでの仕事はしなくてもいい部類だ。
本来であればとっくに仕事も終わっていて、今頃ゆっくり桜学祭のことを考え自宅で楽しみにしてるでしょう。
けど、私は今以上により良い桜学祭にしたい。
お父様がもしかしたら来てくれるかもしれない。私の頑張っている姿を見て褒めてくれるかもしれない。
そして、お父様に喜んでもらいたい。この学園はこんなにもいいものなのだと。
たとえ来なかったとしても、今していることは無駄ではないと信じて。
だから、もう少し頑張りましょう。
そんなことを考えながら、静まり返った生徒会室で仕事をこなしていく。
外を見ると、既に日が沈んでいて学校に残っている生徒はもういません。
この学校にいるのは先生方と私、そして時森さんだけでしょう。
────時森さんには本当に感謝しています。
今の仕事は完全に我儘で始めたことです。
本当なら私一人で片付けなければいけない。
しかし理由も聞かず、ただ私の仕事を手伝ってくれています。
「さすがの俺でも女の子一人遅くまで残せるわけがないだろ」
あの時の彼の言葉は心に響くほど嬉しかった。
————だからこそ、
「私はもっと頑張らなくてはいけない」
見に来てくれるかもしれないお父様や、一緒に残って頑張ってくれてる時森さんのためにも、もっと頑張らなくてはいけません。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと―――――
♦♦♦
そして、迎えた桜学祭当日。
俺は朝からウキウキだった。
何故なら、今日からメイド服とチャイナ服が見られるんだから!
俺達もメイド服を着なければならないが、そんなことは今の俺にはどうでも良くなるほど浮かれていた。
朝五時に起きて顔を洗って学校に行く支度をする。
俺の愛用の一眼レフは取り上げられてしまったが、新たに買い直した一眼レフver2を忘れないようにしっかりとカバンに入れる。
そして、しっかりと支度をした俺は六時半に家を出る。
本当はこんなに早く登校しなくてもいいのだが、気持ちが昂っていたのと生徒会の仕事が朝からあるため、この時間に家を出る。
「メイドっ服〜、チャイナ服〜♪」
俺は通学路を鼻歌交じりに歩く。
ジョギングしていたお兄さんに変な目で見られたがそんなことはお構い無しだ。
今の俺にはどんな視線も無意味。
何故なら、メイド服とチャイナ服が俺を待っているからな!
結局、学校に着くまで八人くらいの人に変な目で見られてしまったが、無事学校に到着。
かなり早めに着いてしまったため、学校には誰もいなかった。
「まぁいいや、生徒会室で一眼レフの手入れでもしておこーっと!」
俺は静かな学校に廊下をスキップしながら歩く。
もちろん先生は来ていたのだが、生徒会室は職員室とは真反対。
だから誰ともすれ違うことは無かった。
そして、生徒会室の前まで到着。
俺は予め西条院から貰っていた生徒会室の鍵を使って扉を開けようとする。
だが、鍵が開いていたのか、ドアノブを捻っても鍵が閉まってしまった。
「あれ? 開いてんのか?」
誰か先に来ているのだろうか?
もしかしたら、先生が先に開けておいたのかもしれない。
そう思い、俺は生徒会室の扉を開いた。
この時、俺は今まで目を逸らしていた現実に向き合うことなるとは思わなかった。
俺も、神楽坂も、先輩や麻耶ねぇにクラスメイト達も、どこかで彼女なら大丈夫だと勝手に決めつけていたんだと思う。
それは俺達の勝手な思い込みで、現実は自分達が思ってることとは違うとも気づかずに。
俺は、その事を生徒会室に入って気づかされる。
そこには、力なく床に倒れている西条院の姿があったのだ。
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