女心はやっぱり分からない
視聴覚室の席には各クラスの実行委員が座り始め、しばらくして西条院達も悠々と視聴覚室に現れた。
「遅れてしまって申し訳ございません」
そう言って、西条院は教室の真ん中奥に腰をかけた。それに続いて先輩と麻耶ねぇも西条院の隣に座る。
「それでは、実行委員会を始めたいと思います」
西条院は教室を見渡し、各クラスの実行委員が揃っていることを確認すると、開始の宣言をした。
流石は西条院。この教室には三年生もいるのに、一年生でありながら一歩も気後れしている様子がない。そこは隣でぶすーっと頬を膨らませてる不機嫌な神楽坂にも見習って欲しいものである。
……というかまだ不機嫌なの?
「それでは鷺森さんお願いします」
「おっけー♪」
西条院が麻耶ねぇに声をかけると、麻耶ねぇがプリントをファイルから取り出す。
———しかし、こうして見ると麻耶ねぇと西条院はやっぱり大きさが違うなぁ。
西条院は神楽坂程じゃないにしろ小柄な体型で、引き締まるところはしっかり引き締まっている。
それがなんと残酷なことか。
周りを見ると、男達は麻耶ねぇのとある一部分を凝視、もしくはチラ見している。
もう、麻耶ねぇの富士山には引き締まりすぎた西条院の砂山は勝てないのだ。
横に並ぶとそれが明確に分かってしまう。
……うぅ、西条院、頑張れよ!俺はお前を応援し──
ドサッ!
「すみません、この教室に不埒な虫がいたもので」
俺はちらりと横を見ると、何故か刺さるはずもないシャーペンが壁に刺さっていた。
後数mm横にズレていたら俺は串刺しの公の被害者になっていたかもしれない……こっわ! エスパーこっわ!
教室にいる人全員の視線が俺と西条院に集まる。
皆さん、僕は悪いことしてませんよ〜!
「望くんも今はしっかり集中してね〜」
麻耶ねぇがおっとりとした声音で俺に注意する。
俺だって集中していたのに……主に胸に。
西条院の隣で先輩が口元に手を当てて笑いを堪えていた。
こっちは全然面白くないんですけど、先輩。
「とりあえず、注意事項から説明させていただきます〜」
気を取り直して、麻耶ねぇはプリントを読みながら桜学祭の注意事項を説明した。
……そういえば、麻耶ねぇが真面目になっているところを久しぶりに見るな。ちょっと感心してしまう。
おっと、いかん。俺も真面目に聞かなければ。
……ふむふむ、神楽坂がまともに機能するか分からないので、しっかりとメモをしておこう。
①出し物はしっかり衛生面を配慮すること
②出し物は飲食、展示問わないが予算内で行うこと
③隣のクラスの女の子が可愛かった
④桜学祭は3日間行われるため、各々時間配分をしっかりすること。
⑤やっぱり、麻耶ねぇ以上に胸が大きい人は存在しないのだろうか?
⑥ステージの有志は誰でも行うことが出来るが、予め生徒会に提出すること
⑦サッカー部の先輩の隣に座っている人がめちゃくちゃ可愛い
よし、簡単にまとめたがこんなところだろう。
……あれ? なんか変な事が混ざってしまっている。神楽坂に見せる前に綺麗に消さなきゃ。
というわけだから神楽坂よ、見せてもないのに覗き込むんじゃない。消してないんだから。
神楽坂は見終わると可愛らしい頬を余計に膨らませてそっぽ向いて俺の太ももをつねった。
コラコラ、少し痛いじゃないか。
「何か質問はありますか?」
麻耶ねぇが言い終わると、西条院がみんなに向けて問いかける。
「すまない、一ついいだろうか?」
「大丈夫ですよ」
そこで、一人だけ手を挙げたのがサッカー部の先輩。
それに対し、西条院は視線を先輩に向ける。
「このステージでの有志なんだが、何をしてもいいのだろうか? 部活の連中と一緒にクラブ紹介をするとか」
「そこは本当にどのようなものでも大丈夫です。部活の紹介をしようがダンスを踊っても歌を歌っても構いません……まぁ、あくまで常識の範囲で、ですが」
おいこら西条院。何故俺の方を見る。俺は常識の範囲から超えそうってか? うぅん?
……まぁ、常識の範囲を超えるようなことはしないさ―――――有志には参加させてもらうが。
「分かった、ありがとう」
そう言って、サッカー部の先輩は席に座る。
「他に何かありませんか? ————無いようでしたら、本日はこれで終了とさせていただきます」
西条院は質問がないか確認すると、麻耶ねぇと先輩に目配せをして締めくくった。
「最後に、有志に出る際の用紙を各クラス持って行って欲しい。出口に置いてあるから忘れないようにお願いね」
最後に先輩がそう言うと、各クラスの人達がぞろぞろと席を立ち教室を出ていった。
……さぁて、俺もやること終わったし帰りましょうかね。
俺は席を立ち、教室を出ようとした。
「時森さんとアリスはちょっと残っていただけませんか」
すると、西条院が出ようとした俺に待ったをかける。
えぇー……まだなんかあるの?
♦♦♦
「どうだった望くん!? お姉ちゃん頑張ったでしょ〜」
「だからと言ってくっつくな! 鬱陶しい! 柔らかい! 離れて!」
皆が教室から出た瞬間、麻耶ねぇが俺に向かって思いっきり抱きついてきたので必死に抵抗。
えぇい、スキンシップが激しい! ちょっと真面目な姿を見て感心してたらすぐこれなのか!? 感心した俺の気持ちを返して欲しい。
麻耶ねぇは「褒めて褒めて!」と言わんばかりにこちらに頭を向ける。
しっぽと犬耳がついていたら思いっきりブンブンと振っていそうだ。
仕方がないので、俺は麻耶ねぇのフサフサの髪を優しく撫でる。
……全く、困った姉である。
「……時森さん」
西条院が俺達に近づいてきた。
すると何故か俺に向かって頭をぐっと近づけてくる。
なんだろうか……? 髪にゴミでもついていて取って欲しいのか?
「大丈夫だ西条院。髪にゴミはついてないから安心しろ」
俺はついてないことを報告すると、西条院は何故かブスーっと不機嫌ですと言わんばかりに頬を膨らませる。
……神楽坂と西条院の中では頬をを膨らませることでも流行っているのだろうか?
「違います……私も頑張りましたよ?」
西条院は更に俺に頭を近づけ、上目遣いでこちらを見る。
待って、その角度はやめて、思わずドキドキしちゃうから。
────しかし、本当に西条院も頭を撫でて欲しいのだろうか?
いや、けどなぁー。これで違ったら怒られそうな気がする。「何で頭を撫でるんですか!バカにしないでください!」って言いそうだしなぁ……。
仕方がない、間違ったら間違った時だ。
俺は空いている手で西条院の頭を撫でた。
「……案外、これも悪くありませんね」
西条院は気持ちよさそうに目を細めて小さく笑った。
――――よかった。正解だったようだ。
けど、急にどうしたんだ? 西条院はこんなこと言うやつじゃないと思っていたのだが……。
疲れでも溜まっていたの?
「うぅー……うぅー!」
「神楽坂ちゃん、落ち着いて。どうどう」
横では、先輩が悔しそうに唸っている神楽坂をなだめていた。
どうして神楽坂はそんなに悔しそうにしてるの?
……やっぱり女心は分からないなぁ。先輩に今度マンツーマンで教えてもらわないといけないのかもしれない。
その後、結局俺達は何の話をすることも無く解散した。
俺も麻耶ねぇに引きずられるがまま一緒に帰宅して、我が家のベッドでゆっくり就寝したのであった。
……待って、じゃあ何で俺は西条院に呼び止められたの?
〘あとがき〙
読んでくださりありがとうございます!
この作品も順調に評価も上がってきてくれて嬉しいです。
神楽坂と西条院のラブコメはこれからも続いていく予定です!
面白かったら星やレビューコメント下さい!
これからもよろしくお願いします。
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