〜閑話〜俺と美少女とババ抜きと!(1)
「なぁ、お前らババ抜きしないか?」
それはとある日の放課後、俺は机の周りで固まって話していた西条院と神楽坂、一輝に声をかける。
「どうしたんですか急に?」
「いや何、ちょうどトランプを持ってきてしまってな、良ければ一緒にどうかなーっと」
西条院がちょっと不思議そうにするが俺はあくまで偶然を装う。
そう、あくまで偶然に、だ!
「僕は今日は部活がないからいいよ」
「私も久しぶりにやってみたいかなー」
一輝と神楽坂から同意を得る。
よし、後は西条院だけだ!
「まぁ、私も本日は予定もないことですし、やりましょうか」
「フォォォォ!」
いかんいかん。西条院が同意してくれたことに喜んで変な声が出てしまった。自重自重。
「どうせならひとつ罰ゲームを加えてみないか?」
そして、俺はここで提案をする。
俺はどっちかというとこれが本命!ここでしくじれば俺の明日はないだろう。
「罰ゲーム?」
「そうだ。どうせなら『一番最初にカードがなくなったやつがビリに何でもひとつお願いができる』って言うのはどうだ?」
しかし、あくまで自然に。こちらの狙いには気づかれてはいけないんだ。
「露骨に怪しくなってきましたね…」
西条院が俺の提案に対して探るような視線を送ってくる。
チッ! やはり西条院がネックか…!
「僕は別に構わないよ」
「お、一輝が真っ先に賛成するなんて思わなかったぞ」
「うん、ちょうど『盾』が欲しかったところなんだ」
「ん?盾ってなんだ?」
俺が聞くと一輝は教室のドアの方を指さした。そこには今でも雪崩こみそうな勢いで男共が見ている。
しかも全員揃って血走った目で武器を構えている。
……なるほど肉『盾』が欲しかったということか。
「うん…俺お前にだけには絶対負けたくないわ」
肉盾になってたまるかってんだ。
「わ、私も罰ゲームやりたい!」
神楽坂が手を挙げて賛成してくる。
お前はきっとやってくれるって信じていたぞ!
「了解だ。どうする西条院?お前はやるか?」
神楽坂までもが賛成したところで残るは西条院一人。
さぁ、人数的にこちらが有利なんだ!その可愛い顔を縦に振ったらどうかねマドマーゼル?
「はぁ、怪しいのには変わりありませんがやりましょう。ちょうどお願いしたいことがありましたしね」
西条院が溜息をつきながらも賛成した。
しかし、何故「お願いしたいことがありました」の時に俺を見る?
最近、お前のお願いは脅迫になってきているから嫌なんだけど。
「んじゃ、早速やりますか!」
「「「おー」」」
俺達は机を引っ付けババ抜きがしやすい状態を作る。
ふっふっふ……これで準備は整った。
後はこのババ抜きで1位になることだけ!俺は己が明日の為には勝たなければいけないんだ!
————そう、俺がなんで急に罰ゲーム付きのババ抜きを提案したのかというと今日の朝のホームルームまで遡る。
♦♦♦
「これより、裁判を開始する」
俺は何故か木製の十字架に磔になっていた。
というのも登校してきた瞬間、何者かがスタンガンで俺の意識を奪い、何者かがこの教室まで運び、何者かが俺を十字架に磔にしたんだ。
————まぁ、犯人はこいつらなんだが。
「山田くん、彼の罪状を」
「ハッ!」
そう言うと隣の山田が懐に忍ばせていた紙を取りだし読み上げる。
「被告、時森望は放課後、生徒会室で我がクラスの天使、神楽坂さんとそして我がクラスの女神である西条院さんと仲良くしており、更には学園のお姉さんとも呼ばれる鷺森先輩からは過度なスキンシップを受け、毎日あのふくよかな胸を堪能しておりました!…ゔ、ゔらやましいです!……裁判長、以上です!」
泣きながら言い終わると、山田は懐に紙をしまう。
毎度思うけど、あれにいちいち罪状書くの面倒くさくない?
「うむ、分かった。被告、何か間違ったことはあるかね?」
「あぁ、俺は「判決、死刑!」って待てやッ!?最後まで言わせんかい!魔女裁判さながらじゃないか!?」
「何を言う時森よ。これはお前からの教えなんだぞ?」
「俺からの教え?」
「「「殺意が湧いた瞬間には断罪せよ」」」
「過去の俺を殴りたいッ!」
確かに言ったけどさ!
そりゃいつもはそっち側だったもん!今となってこんな理不尽だとは思わなかったさ!
「被告、何か言い残すことは?」
「いや、だから誤解「死刑執行!」だから最後まで言わせろやーーーー!!!」
俺の叫びも聞き入れないまま、鈍器を持った男子達が一斉ににじりよってくる。
まずいまずいッ!何とかしてこの場を回避しなければ、俺は殺されちゃう!
しかし、俺の手足はきちんと十字架に固定されており動けない。
何か、何かこの状況を打破するアイデアはないかッ!
俺が惨劇回避を考えている間にも鈍器を持った男子たちは近ずいてくる。
すると、俺はふとあることを思いついてしまった。
「ちょっと待てお前ら!」
俺は声を張り上げて制止するよう呼びかける。
「今更命乞いなど…」
「どうせ死ぬんだし無意味じゃない?」
「殺っちゃえ殺っちゃえ♪」
なんでお前らはそんなに物騒なんだよ…。
そんな気軽に「殺っちゃえ♪」なんて言われたら本気でゾッとするわ。
「いや、お前らは俺を殺すことはできない…」
「何を馬鹿なことを」
俺はにじりよってくる殺意のプレッシャーを浴びつつも大きく深呼吸。
そして、苦し紛れの言い訳をここで放つ!
「神楽坂と西条院に頼んで合コン組んでやるよ――――!!!」
すると、男子達は一斉に鈍器を捨て
「「「俺達親友だ―――――!!!」」」
♦♦♦
ということもあり、俺はこの勝負負ける訳にはいかないッ!
机のセッティングが完了して俺はトランプを配る。
「準備もできた事だし早速やるか!」
「そうだね!久しぶりだからちょっと楽しみだな〜」
「私もちょっとワクワクしてきました」
「僕は勝たないと命が危ないからハラハラしてるんだけど…」
大丈夫だ一輝。俺も命の危険がすぐそこまで迫ってきているからな。
……全く、男子達の嫉妬には困ったものだぜ。
誰だよ、こんな奴らばかりうちのクラスに入れたヤツ。
————しかし、こんな悠長なことを考えている余裕はない。
俺には己が明日の為、絶対に1位をとって西条院か神楽坂に合コンを組んでもらわなければならないのだ。
もし、失敗したら俺はすぐにでも男子たちに粛清されるだろう。
————だから。
「さぁ!始めようか、命懸けのババ抜きを!」
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