美少女と2人っきりですが、何か起きる訳―――――起きましたね、はい。

 先生からのお叱りを受けた後、西条院から甘い言葉をいただき俺は復活した。

 なんとあの西条院が「元気だしてくれたら後でご褒美あげますから、ね♪」なんて言ってきたのだぞ!

 もう、そりゃ元気にもなるよね! 一体なんだろう? 西条院グループの力を使って何か素晴らしいものをくれるのだろうか?そ れとも西条院自ら何かしてくれるのだろうか? ……いやそれよりもはやくあの動画消して欲しい、切実に。


 というわけで、俺は神楽坂と一緒に実行委員会のしおりを配りに回っていた。

 結局、埒が明かないので俺が一緒でいいと言ったら麻耶ねぇが悔しがり、神楽坂が喜んであの場は収束した。ほんと、なんでだろうね?


「とりあえず三年は全部回りきったな」


「そ、そうだね! け、結構人残ってたね!」


 後ろを歩く神楽坂に声をかけたが返、ってきたのは上擦った声だった。


「そういえば、西条院から頼まれた仕事っていうのは何だったんだ?」


「う、うん……何か数字がびっしり書かれている紙を「先生に渡してください。渡すだけでいいですから」って言われて、職員室まで持って行ってきただけだよ」


「……そうか」


 西条院、お前二回…も念を押さなくてもいいじゃないか。

 流石に神楽坂もそれぐらいはできるだろうに…。


「と、時森くん!」


 神楽坂は急に立ちどまりスカートの裾を握って声をかけてきた。


「……ん、どうした?」


 お手洗いだろうか?


「あ、改めてあの時助けてくれてありがとうってお礼を言いたくて……」


 どうやら違ったようだ。


「別にいいよ。あの時も言ったが俺が好きでやった事だし、今更気にするな」


「で、でも……」


 俯いて声が小さくなってきた神楽坂に俺は近づいて、そのサラサラな銀髪の頭を撫でた。


「ッ!?」


 思わず、神楽坂がビクッと震えたが俺はお構い無しに頭を撫でる。


「いいんだよ別に。確かにお前にも非はあったかもしれないが、お前はどっちかというと被害者だ。気にしてもしょうがないよ」


「……う、うんっ!」


 その言葉で元気になったのか、神楽坂は顔を上げ、明るい笑顔俺に向けてきた。

 その姿に思わずドキッとしてしまうが、それは仕方がないだろう。

 ……だって、夕日が差し込んだオレンジ色の廊下と神楽坂があまりにも輝いていたんだから。


「と、とにかく! 早く行こうぜ!」


「ち、ちょっと待ってよ!」


 恥ずかしくなって早歩きになってしまった俺を神楽坂が裾を引っ張って止める。


「やっぱり、今度お礼をさせてくれないかな……? 助けてくれたのは事実なんだし」


「じゃあ、西条院に言ってあの動画を消してくれ」


 俺は即答で神楽坂に伝える。

 美少女からのお礼をいただくよりもあの動画を消して欲しいという気持ちが圧倒的に勝っている。

 でないと枕を高くして寝ることもできやしない。


「そ、それは難しいかもだけど……今度別の形でお礼するから!」


「そうか……ん、まぁ楽しみにしてるわ」


 少し……いやかなり残念だが仕方ない。前向きに考えよう。

 今日は西条院と神楽坂という美少女からご褒美とお礼をしてくれるっていう約束をしたんだ。男として素直に喜んでおこう。



 そんなやり取りをしつつ、俺達は引き続き各クラスにプリントを配りに回った。



 ♦♦♦



「後は二年生のクラスだけだな」


「そ、そうだね」


「改めて考えるとうちって結構なマンモス校だよなー」


「そ、そうだね」


「まぁ、さっさと終わらせようぜ」


「そ、そうだね」


 さっきから神楽坂が同じ返答しかしない。

 ……何故に緊張しているの? 一緒に行きたかったんじゃないの?


「神楽坂、何でお前そんなに緊張してるんだ?」


「べ、別に緊張してないよ!」


 神楽坂は手と首をブンブンと横に振って否定する。

 もうね、その仕草で緊張しているのが丸分かりなんだよなー。


「いや、緊張しているじゃ――――あぁ、なるほど」


「え、どうしたの? も、もしかして……」


「あぁ、お前が緊張している理由がわかった」


 俺は辺りを見回す。

 まぁそうだよな。この状況なら緊張するよな。


「い、いや……分かったって……そんな、まだ心に準備が出来てないのにっ!?」


「ごめんな、今まで気づかなくて」


「そんなっ! 違うよ、私の勇気が足りなかっただけだから!」


 いや、お前のせいじゃないさ。

 確かに神楽坂にも要因はあるのだろうが、これは俺の所為でもある。


「神楽坂……」


「と、時森くん……あ、あのね! 私、時森くんのことが―――――「お前は俺がいつ殺されないか心配で緊張してるんだろ?ごめんな、心配かけて」―――――す……はい?」


 俺が謝ると何故か神楽坂は素っ頓狂な声をあげる。

 どうしたのだろうか? だって、お前が緊張しているのはコレの所為だろ?


 再度辺りを見回す。


 そこには今までにプリントを渡してきたクラスの男子達が俺達の後ろにぞろぞろとついてきているのだ。

 しかもご丁寧なことに釘バットやらメリケンサックなどの凶器をご持参して。


 これでは神楽坂が俺の身を心配して緊張するのも無理はない。

 俺が注意を怠ってせいだ。責任はしっかりとらないとな。


「大丈夫だ神楽坂。お前に迷惑はかけないから」


「???」


 疑問符を浮かべる神楽坂を他所に、俺は振り返って今でも襲いかかってきそうな男達に向かって声を張り上げた。


「かかってこいやあァァァァァァァァァッ!!!」


「「「「「上等だゴラァァァァァァァ!!!」」」」」


 俺はプリントを神楽坂に渡し、勢いよく振り返りダッシュで逃げる。

 そして、俺に襲うべく男子達も一斉に追いかけてきた。


「我が学園のアイドルとイチャイチャしやがって!」


「羨ましい! 万死に値する!」


「殺しちゃうよぉ〜、骨も残さず殺っちゃうよ〜」


「捕まってたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 まだ、西条院と神楽坂からご褒美とお礼をしてもらってないんだ! まだ俺は死ぬ訳には行かないジョセフ!


 俺は神楽坂を置き去りにして、男共から必死に逃げるべく廊下を必死に走る。

 後ろは絶対に振り返らない……だって怖いんだもん。


「もう……せっかく二人っきりになれたのになぁ……」


 俺たちが居なくなって静かになった廊下でそんな声が響いたが、俺には聞こえなかった。





 そして、その後俺は男達ではなく教師に捕まり何故か反省文を書かされたのであった。



 ————毎度思うけど俺悪いことしてなくない?


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