麻耶ねぇVS神楽坂!

「ただいまー! ひいちゃん戻ったよー」


 俺達がミニスカメイド服に喜んでいた時、生徒会室のドアが開き、西条院から頼まれ事をされていた神楽坂が戻ってきた。


「お疲れ様です。それとありがとうございました」


「ううん、全然大丈夫だよ!」


 神楽坂はお礼を言われ、なんでもないよと、明るく手を振って言葉を返す。

 おー、なんてええ子なんや。うちの息子と結婚してくれないかなぁ。

 ……結婚してないけど。


「ところで、廊下まで時森くん達の声が聞こえてきたけど、何話してたの?」


「ん? ……あぁ、ミニスカメイド服について西条院と熱く語っていたんだ」


「え……ひぃちゃんミニスカメイド服好きなの……?」


「私は熱く語っていませんよ! しかもミニスカメイド服好きじゃありません!」


 若干神楽坂が引いていたが、西条院が慌てて否定する。

 え、好きじゃないの? あんなに魅力的なのに。


「今度望くんがミニスカメイド服を着るっていう話を熱く語っていただけだよ〜」


「麻耶ねぇ、違う。麻耶ねぇに見せるとは言ったが、その話は熱く語っていない」


 それで熱く語っていたらただの変態じゃないか。

 ……まったく、余計な事を言わないで欲しい。


「……それで、結局なんの話をしていたの?」


「私達のクラスの出し物の話をしていたんですよ」


「あぁ……なるほどね」


 神楽坂は納得したのかぽんっと手を叩く。


「そういえば、今回の実行委員会はいつする予定なの?」


「そうですね、早めに行いたいと思うので明後日の放課後ですかね」


 先輩がふと思い出したように西条院に尋ねる。

 あらいやだ、結構急にやるんだな。


「その言い方だと西条院も実行委員会出るのか?」


「えぇ、基本的に桜学祭は生徒会が主体として執り行い、私が委員長、副委員長は副会長のお二人にやっていただきますので参加しますよ」


 へぇ〜、生徒会も大変なんだな。

 そういや、最近西条院に桜学祭の予算をまとめさせられた記憶があったし、間違いじゃないんだろうが。


 ……ん? でも俺も生徒会なのに実行委員なっちゃったけどいいのか?


「けど、私達も生徒会メンバーなのに実行委員なっちゃっていいの?」


「うん、アリスちゃんは特に仕事してないから大丈夫だよ〜」


「仕事してますよ!?」


 神楽坂はちょっと怒ってるのか、頬を膨らませている。

 ……やばい、小動物みたいで可愛いんですけど。


「え、じゃあ俺は?」


「時森さんには生徒会として、そしてクラスの実行委員としても動いていただきます」


「待って、俺の作業量半端なくない?」


「大丈夫です。信じていますから」


「何を?」


 満面の笑みで西条院が微笑んでくる。

 いや、可愛いよ? 思わずドキッとさせられたけどさ……。

 ここはブラック企業かな? 何を信じて大丈夫だと言ったの? 耐えられないからね、俺。


「時森少年、これ書いておいたから各クラスに配ってきてくれないかな?」


 そう言って先輩から何枚もの紙を渡される。

 そこには実行委員会の日時と場所が書かれていた。しおりってやつだな。


「これを配ってくればいいんですね」


「あぁ、誰も教室にいなかったら教卓に置いておくだけでいいから」


「あ、だったら私も望くんと一緒に行く〜」


 そう言いながら麻耶ねぇは俺に抱きついてくる。

 あぁ〜柔らかい感触が! 男のロマンが背中越しに伝わってくるなー。


「ダメです。鷺森さんは今から私達と一緒に実行委員会の議事録を作るんですから」


「え〜、わかったよぅ……」


 麻耶ねぇは西条院に止められ肩をしょんぼりさせる。

 危ない……麻耶ねぇと二人っきりだと何が起こるか分からんからな。

 グッジョブだ西条院。


「じゃ、じゃあ私が一緒に行く!」


 すると、神楽坂がそんなことを言い出した。

 俺としてはどちらでもいいのだが……いや、やっぱり一人がいい。

 もし万が一、熱烈な神楽坂ファンが一緒に歩いているところを見たりでもしたら……俺は殺されるかもしれない!


 ————いや、うちのクラスの連中じゃない限りそれはないか。


「ちょっと待って、それはダメだよ〜!」


 突然、麻耶ねぇは俺と神楽坂一緒に行くことを声を荒あげて止めてくる。

 どうしたんだ麻耶ねぇは?もしかして俺が神楽坂ファンに殺されるかもと思って心配してくれているのだろうか?


「どうしたんだい麻耶? 別に神楽坂ちゃんと一緒でもいいじゃないか?」


「だって、アリスちゃんは私と同じ匂いがするんだもん! 二人っきりになったら絶対に何か起こるもん!」


「起きねぇよ」


 っていうかなんだよ同じ匂いって。同じシャンプーでも使っているの?


「なっ…!?  今は起こさないけど、起きて欲しいと思っています! 私はそれぐらい本気なんです!」


「え、神楽坂は何か起こって欲しいの?」


 もしかして俺が神楽坂ファンに襲われるのを期待してるんですか?


「私だって本気だよ! アリスちゃんみたいな人が現れないように、今までどれだけの女の子に望くんの悪いことを言いふらしてきたと思ってるの!」


「おい、麻耶ねぇ。なんてことをしていたんだ」


 だからか! 俺が女の子に話しかけた時に露骨に嫌な顔をされていたのは!?

 悪いことは言わないからさっさと悪評を消してきなさい。

 じゃないとお兄さん怒るよ?


「そんなことを…ッ! だから時森くんはこんなにも歪んでしまったんですね!」


「歪んだんじゃなくて元から歪んでたよ!」


「ねぇ、先輩。麻耶ねぇと神楽坂は俺のことが嫌いなんですか? 俺のメンタルはヒビが入るどころか爆弾投げられて粉々に砕け散ってるんですが」


「……時森少年。この話を聞いてその反応なら君はしばらく彼女はできないね」


「……そ、そんなッ!?」


 俺は先輩からの言葉にショックのあまり膝から崩れ落ちる。

 麻耶ねぇからの衝撃発言に加え、神楽坂からの暴言、更には先輩からの彼女できない宣言————もう、生きる気力がないや……ははっ。


 どうせ俺の人生は明るく輝くどころか、冷蔵庫の裏ぐらいの暗さなんだ。

 そうだ、素数でも数えておこう。こんなダメな俺にはピッタリじゃないか。

 2、3、5、7、11————


「柊夜ちゃん、時森少年が隅っこで素数を数え始めたんだが放っておいていいのかい?」


「まぁ、いいんじゃないでしょうか? そのうち甘い言葉で私が囁いてあげれば元気になるでしょうし」


「……もしかして、君もあっち側かい?」


「ふふっ、混ざってきましょうか?」


「全く……時森少年も幸せものだねぇ〜」


 あぁ、あっちは楽しそうだなー。

 俺なんてこんなに気持ちが下がっているというのに、誰も慰めてきてくれないし、所詮俺ってその程度の人間だったんだな……。


「私が行きます!」


「ダメったらダメなの!」


 未だに麻耶ねぇたちが言い争っているが、今の俺には全然聞こえない。


 あ、素数わかんなくなっちゃった。

 ……俺って素数も数えられないクソ野郎だったんだな。

 帰ってお勉強しよ。



 その後、しばらくは生徒会で言い争っていたり隅っこで膝を抱えていたり呑気にお茶をしている光景が繰り広げられていたが、途中先生が入ってきて俺達は少しお叱りを受けたのであった。

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