ミニスカメイド服の為だったら俺はなんでもできる

「ということがあったんですよ先輩」


「相変わらず、君は面白いね〜」


 放課後、俺は生徒会室で先輩に今日あった出来事を愚痴っていた。


 あの後、男子達は必死に女装について抗議したものの、女子達の「私達だけ恥ずかしい格好するのなんて理不尽じゃない」という正論をぶつけられ、結局男女混合のメイド喫茶をすることになった。


「いや、俺もメイド服が見られるなら土下座だって靴を舐めたりする覚悟はあったんです! ……それなのに代償が女装だなんて……ッ!」


「逆に反対されないだけいいじゃないか、時森少年よ。君達の犠牲のおかげで君たちのクラス以外の男子はエデンが見られるんだからさ! もっと誇りたまえ!」


「先輩……ッ! 確かに、先輩の言う通りかもしれません……我らのクラスの犠牲で学園屈指の美少女二人達のメイド服が見られるんですから!」


 そうさ! 落ち込む必要なんてない!

 確かに女装なんて人生一回するかしないかの屈辱ではあるが、その分我が野望……いや男達の夢を叶えたんだ!

 よくやった俺! 頑張ったぞ俺!


「でも、よく女子達は男子の女装でメイド喫茶を許可したね」


「それについては昼休みに女子全員こっそり話し合っていたんですよ結城さん」


 先輩が疑問を口にすると、自分の机で書類の処理をしていた西条院が代わりに答えた。


 ん……話し合っていた……だと?


「えぇ、明らかに時森さんの態度がおかしかったので佐藤さんに問いただしたところ、思いのほかあっさりと話してくれましたので────昼休みに女子生徒と話し合って『どうせメイド喫茶やるなら男子達もさせよう』ということになったんです」


 おい一輝、お前はいつもいつも情報を吐きまくるな。

 いつかお前の口をミシンで縫いつけてやる。


「でも、みんなでメイド喫茶を拒否しようっていう話にはならなかったのかい?」


「いえ、どうせ時森さんなら男子全員を味方に回して、多数決でメイド喫茶にするだろうというのは分かっていたので諦めました」


「時森少年、君は一生西条院ちゃんには勝てないんじゃないかな」


「くそぅ!」


 俺は悔しくて机を思いっきり叩いてしまう。


 俺の考えが全部筒抜けだと!?

 じゃあ、俺はこいつの手のひらでずっと踊らされていたというのか!

 ……な、なんて野郎だ西条院柊夜ォ!

 


「それに、男子の女装姿を見たいという生徒もいましたし」


「ごめん、西条院。それに関しては誰に需要があるかさっぱり分からんのだが?」


 誰得だよ、男子の女装姿を見て喜ぶ奴。


「はいは〜い!私は望くんのメイド服姿見たい〜」


 —————ここにいたわ。


「麻耶ねぇ、話に混ざってくるのはいいけど、わざわざ後ろから抱きつく必要なくない? もう、思春期男子にとって凶器というか核兵器なんだよ?何がとは言わないけど」


「え〜、やだ〜」


 突然、麻耶ねぇが会話に混ざるってくるや、いきなり俺の後ろに回りこみ思いっきり抱きついてきた。

 背中からはふくよかな感触がふにっと背中から伝わってくる。


 静まれ我が半身よ! 理性を総動員して守るんだ!ミ サイル発射を食い止めろ!

 ……くそぅ! 一向に静まる気配がない……ッ!


 こういう時は西条院を見て落ち着かなければ!

 そう思い、俺は西条院の方を見る。そして視線は顔よりちょっと下に。


 —————あぁ、落ち着くわ〜。


 やっぱり山より海の方が落ち着くよね。富士山を見るより先の見えない水平線。西条院を見ていると発射数秒前だったミサイルもどんどん静まっていく。


「いやぁ〜、西条院見てるとやっぱり落ち着くわ〜」


 すると、西条院は何故か俺の胸ぐらを掴んだ。


「結城先輩、すみませんが窓開けてくれませんか?」


「了解」


「捨てる気!? ここ三階なのに窓から俺を捨てる気!?」


 西条院は額に青筋を浮かべながら俺を掴んだまま窓まで引きずっていく。

 なんてことをしようとするんだ!?

 待て待て待て!洒落にならんぞ!


「待て、西条院! 誤解なんだ!」


「人の胸を見て落ち着くと言った人に誤解なんてあるのですか? 後、私は水平線ではありません。頑張ったらBくらいはあります」


「いつもながら俺の思考を読んでいることには驚かなくなったが、最後のBの情報はいるか?」


 幸い他の人は聞こえてないみたいだが、何故わざわざ自分から暴露しにいった?

 しかも頑張ったらって……しくしく、可愛そうになってくるぜ。今度から優しく接してやろう。


「違うんだ西条院。俺はお前を見て落ち着くと言ったのは気のおけない奴っていう意味だ。決して胸のことなんて考えてない!」


 俺は必死に西条院に訴える。

 でないと三階はまじで洒落にならん!しかも、こいつの目は結構本気だ。

 本気で窓から俺を捨てようとしてるっ!


「そうでしたか……時森さんに気のおけない相手って言われるのは少し嬉しいですね」


「分かってくれたか」


「えぇ、もちろん―――――で本音は?」


「お前の胸を見ても一切興奮しないから落ち着くなーっと」


「はい、では行ってらっしゃい」


「ごめん、本当にごめんなさい。だからその手を離さないで、本当に落ちちゃう」


 怖いよ、本気で怖い。

 もうね、西条院が手を離しちゃうと窓から落ちちゃうんだよ。俺普通に入院しちゃうよ。

 お尻が窓の外に出ちゃってるんですよ。お尻が風でスースーするんです。


「はぁ……気をつけてください。私も女の子なんですから傷つきますから」


「はい……ごめんなさい」


 西条院は俺を窓から引っ張り硬い床へと立たせてくれる。

 本当にこいつを怒らせたら怖いな。

 ……今日なんか『怖い』連発してない?


「あ、おかえり時森少年。今日は一段とレベルが違ったね」


 そんなこんなで俺達は先輩たちの所へ戻ると、傍から見ていた先輩が面白そうに声をかけてきた。

 ……見てないで助けて欲しかったっす。


「えぇ、日に日に西条院のおしおきレベルが上がっているように感じます」


 ゆくゆくは人を殺してしまうんではなかろうか?

 そう考えた途端、軽く身震いをしてしまった。


 ……今度からあまり西条院を怒らせないようにしよう。


「それで、望くんのメイド服はいつ見られるの〜?」


「桜学祭の時ですよ。それまで楽しみにしててください」


「でも、望くんがメイド服作るんでしょ? 試着したら見せて〜!」


「見せないから」


 誰が好き好んで女装姿を見せなきゃならんのだ。

 例え麻耶ねぇでも断固拒否する。


「あら? 時森さんが作るのですか?」


「あぁ、1一着目は俺が作ろうと思っている。そうしたら参考があってみんな作りやすいだろ?」


「というより、服作れるのですか? メイド服って結構難しいと思うのですが……」


「作れるぞー」


 信じられないと言った瞳で西条院がマジマジと見てくる。全く、失礼なやつだな。


「裁縫が得意なやつはモテるっていう話を聞いたからな。めちゃくちゃ頑張った。今でもたまに自分の作った服をネットオークションにかけて売っているぞ」


 そう言って、俺はスマホでオークション画面を開いて西条院に見せる。

 これでも毎月作ってはお小遣い程度だが十数万は稼いでいるのだ。


「結構可愛いらしい服ですね……時森さんはモテるために色んなことを極めすぎではないですか?」


 西条院は感心しているのか呆れているのか小さく息を吐いた。

 おいおい、褒めるならしっかり褒めたまえ。


「望くんって結構ハイスペックだよね〜」


「ハイスペックの方がモテるだろ?」


 いつでもモテる主人公はハイスペックなのだ!

 ライトノベルでもよくそういう主人公が出ているから間違いない!


 ————でも、だったらなんで俺はモテないんだろう? ソースが間違ってるのかな?


「時森少年。分かっていると思うがメイド服は―――――」


「えぇ、ミニスカでしょう?」


「フッ、言う必要もなかったか……流石だ時森少年」


 分かっているに決まっているじゃありませんか先輩。

 メイド服はミニスカ!


 適度にエロく、ミニスカから覗く絶対領域こそメイド服の醍醐味!

 それが分からないほど、男は捨てちゃいませんぜ。


「ミニスカは却下です」


「「そんなっ……ッ!?」」


「ただでさえメイド服は恥ずかしいですのに、ミニスカートなんて論外です」


 俺と先輩はショックのあまり膝から崩れ落ちてしまう。


 馬鹿なッ!? ミニスカじゃないメイド服なんて生姜焼きに生姜のタレをつけていないようなものじゃないか!

 ……例えが分かりづらかったかな?


「そんなに悲しがるならお姉ちゃんがミニスカメイド服着てあげよっか?」


「麻耶ねぇ!」


「麻耶!」


 俺と先輩は嬉しさのあまり涙が零れる。


 流石だぜ麻耶ねぇ! 弟のためにミニスカになってくれるなんて……ッ!

 こんな姉をもって幸せものだよ俺は!


「ただし、望くんのメイド服も見せてね〜」


「いくらでも見せてさしあげましょう」


「全く……時森さんという人は……」


 西条院は額に手を当てて呆れたように呟く。

 フッ、なんとでも言いやがれ。



 俺はミニスカメイド服の為ならどんな事でもしてしんぜよう!


 例えそれが女装だったとしても!

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