祝!メイド喫茶!……けど何かがおかしい!
そして待ちに待った帰りにホームルーム。
先生は黒板に『桜学祭実行委員』と『出し物』のふたつを書いた。
————ついにッ、ついにこの時が来た!
「えー……じゃあ、実行委員を決めるぞー。やりたい人は挙手」
先生はかったるそうに呼びかける。
本来、実行委員は男女それぞれ1名。
つまり、このクラスの男子共は全て敵! えきゅすきゃりばーで蹴散らしてやるぜ!
しかし、敵意は密かに燃やし闘志は心の中で、俺は静かに手を挙げる。
……そう、何事もスマートに、紳士的にだ。
「はいっ! はいはいはーーーーい! 俺めっちゃやりたいです!」
────俺は勢いよく席を立ち何度も手を挙げてアピールした。
いかん、どうしても己が欲望を抑えきれんかった。
「んじゃぁ、男子は時森でいいな。出来れば女子にはしっかりしたやつが来て欲しいものだ」
先生、それは俺が頼りないから出た発言ですか?
もしそうだったらなんて失礼な先生なんだ。
しかし、そんな呼び掛けにも関わらず、周りを見渡すと誰も手を挙げていなかった。
ライバルがいないっていうのは嬉しい事なんだが……非リアにとっては「えー、あいつがやるんだったら一緒にしたくなーい」なんて被害妄想をしてしまう……そんなことないよな?
「はいっ! わ、私やります!」
すると、上擦った声で神楽坂が思いっきり手を挙げた。
……良かった、俺の被害妄想で間違いなかったようだ。
それにしても神楽坂……そんなに実行委員がしたかったのかな?
すごい目をキラキラさせているが、あいつそんなに桜学祭好きだったの?
「それじゃ決まったことだし、二人とも出し物を決めて後で先生のところまで言いにくるように」
そう言って、先生は教室から去っていった。
────さぁ、本番はここからだ!
先生が消えた事を確認すると、俺は席を立ち皆の前へと移動する。それを見て、神楽坂も後に着いてきた。
「早速だが、文化祭の出し物を決めようと思う。各々意見を出し合って多数決にしようと思うが────皆は構わないか?」
俺は皆に向かってそう問いかける。
西条院の方をちらりと見ると、真面目にやっているのが意外なのか目を見開いて驚いていた。
おいこら、俺が真面目にやっていたらおかしいか。
「別に問題ないんじゃない?」
クラスの一人がそう言ってきたので俺は安心する。
これで……俺は勝ったも同然だ!
くふ……くふふふふふふっ。
だが、いかん。ここはしっかりやっている風を見せないとバレてしまうからな。平常心平常心。
「よし決まりだな。神楽坂くん、悪いが黒板にみんなの意見をまとめてくれたまへ」
「う、うん」
神楽坂はちょっとキャラが変わった俺に驚いたのか、戸惑いつつもチョークを持った。
「それではこれから意見を聞こうと思うが、その前に………今回、男子達の意見は一切受け付けない」
俺がそう言うと、クラスの男子の連中が一斉に立ち上がった。
「おい、ふざけるなよ!」
「俺達にも意見を言わせやがれ! やりたいことがあるんだぞ!」
「そもそもお前が実行委員をやるって言い出した時からおかしいと思ったんだ!」
そして一斉に俺に向かって文句を言ってくる。
……まったく、我がクラスの男子たちは頭が回らないのかね?
「シャラップ!!!」
俺が声を張り上げると男子達は一斉に静かになった。
俺があまりに真剣に言うものだから怯んでしまったのだろう。
「で、でもよ時森。流石に意見言わせないとか暴君極まれりだぜ」
「待ちたまえ須田くん。俺は男子達の意見は受け付けないと入ったが男子達の願いを叶えないとは言っていない」
「???」
須田くんはまだ理解していないようだ。
まったく、バカは困っちゃうぜ……。
「そう、俺は男子達を代表して申し上げる! 俺達、男子が文化祭の出し物に希望するのは―――――『メイド喫茶』だッ!!!」
クラスに静寂が響き渡る。
しかし、それも一瞬のこと。
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」
男子達から一斉に歓声が上がる。
「流石は我がリーダー! よく分かっていらっしゃる!」
「俺らの心の声を代弁するなんて!」
「男子の欲望を一番理解してる時森さんマジぱねぇっす!」
おいおいよせやい、照れるじゃないか。
……しかし、これで勝った。このクラスは男子の割合が多い。多数決をとれば男子が全員味方になった今、メイド喫茶は揺るがないだろう。
「というわけで、女性陣諸君。男子がこちらについた今、メイド喫茶は確定だがよろしいかね? うぅん?」
もちろん、女性陣はきっと嫌がるだろう……。
だがしかし! それでも俺は我が野望を押し通す! 己が為にも、そして男子達の為にも!
「いいんじゃない?」
「ねー、面白そうだしね」
すると、女性陣達から前向きな賛同の声が聞こえてきた。
ん? 嫌がると思っていたのに思ったのとは違う反応だな?
ちょっと拍子抜けである。
ちらりと神楽坂を見ると────
「うん! 絶対面白いよ! やろうやろう!」
と手をぱちぱちして喜んでいた。
—————おかしい。
ここまでスムーズに決まるなんてなにか違和感を感じる。
だから俺は違和感の正体を探るべく辺りを見渡してみる。
すると、唐突に西条院が口を開いた。
「いいですね。ではメイド喫茶にしましょう」
「そ、そうか……西条院が賛成してくれるとは思わなかったぞ」
更におかしい……あの西条院が賛成するなんて。
西条院のことだから「そんな服来て接客なんて却下です!」とか言い出しそうだったのに……。
「いえ、だって面白そうじゃありませんか―――――」
西条院が言葉を続ける。
―――――やばい、何か嫌な予感がするッ!
嫌な気配を感じたのか、男子たちの間に不穏な空気が流れ始めた。
「―――――ここにいる全員がメイド服を着るなんて」
「「「「「…………おっふ」」」」」
俺達男子は、世の中そんなに甘くないということを改めて認識させられました。
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