知り合いの告白現場に遭遇してしまった

 あれから生徒会に入って一週間が経った。

 仕事は思った以上に大変────ではなく、麻耶ねぇのスキンシップが激しかったり、西条院が胸のことで理不尽な暴力を振るったり、神楽坂が毎日お茶をこぼしたりしたぐらいだ。


 そして今日は水曜日!

 生徒会の仕事がない日である!


 今日は早く帰って、筋トレしてゲームして遊ぶんだ!

 溜まったゲームもあるし、俺の大胸筋も唸っている。


 さぁ帰らん、我が家へ!


 と、30分前の俺は思っていました。

 しかし、今は―――――


「なぁ、西条院。なんで俺、お前と一緒に誰かさんの告白現場を見なきゃならんのだ?」


「し、仕方ないじゃないですか!? 今ここから出たらアリス達バレてしまいますから!」


「いや、ごめんねーって言いながら出ればいいじゃん」


「そんなことしたら気まずいじゃないですか!」


「お前にも空気を読むってことできるんだな」


「あなたはちゃんと空気を読んでください!」


 そう、何故か俺は校舎裏の草陰に隠れて、神楽坂が告白されているところを西条院と一緒に見ています。



 ……本当になんでこうなった!?



 ♦♦♦



 ―――――30分前。


「ふっふふ〜ん〜♪」


「どうしたんだい望? 鼻歌なんて歌ちゃってさ」


 放課後、俺は早く帰れることにウキウキしながら、帰る支度をしていた。

 鼻歌を歌っていたからなのか、一輝以外から侮蔑が含まれている視線を受けてしまったが、今の俺には関係ない。


「いや、最近は濃い時間しか過してなくて忙しかったからさ、今日は早く帰れることに喜びを感じているんだ」


「確かに、最近の望は色んなことが起きまくってたからねー」


 原因の半分はお前の所為だからな?


「というわけで、俺はもう帰「時森さん、少しいいですか?」るからな! また明日!」


 俺が帰ろうとした矢先、後ろから西条院に声をかけられてしまった。

 ここ最近、西条院から声をかけられて面倒くさく無かったことがない。


 俺は早く家に帰ってゲームと筋トレをするんだ!


 だから俺は彼女の話を無視して、脱兎の如くカバンを持って教室を出ようとする。


「どうして逃げるのですか?」


「待て待て待て、人を引き止めるためにわざわざ関節をきめるな。君はまともに話が出来ないのか」


 すると西条院はいつものスピードで華麗に関節をきめてきた。


 ……そろそろ俺の関節外れるんじゃない?


「仕方ないじゃないですか……癖になってきてるんですから」


「関節きめることが!?」


 こいつ、まじで恐ろしいな……。

 近づかないようにしなきゃ。


「それで西条院さん。望に何か用があったんじゃないの?」


「そうでした────時森さんに来ていただきたい場所があるんです」


 一輝の言葉で思い出したのか、西条院が話を戻す。


「どうせ告白するために校舎裏に来て欲しいんだろ?」


 と、俺は冗談ぽく言った。

 まぁ、自分で言って悲しくなってくるが、こいつに限って告白なんてありえな――――


「はい、校舎裏に一緒に来て欲しいのです」


「————ふぁッ!?」


 え? まさか本当に告白なの!?

 この俺が? 今まで告白されなかったこの俺が! ついに告白されるの!?



 ♦♦♦



「————と舞い上がってしまった俺が恥ずかしいです」


「何を一人で言っているのですか?」


 俺は今、校舎裏の花壇の草むしりをしている。


 あの後 、西条院と一緒に校舎裏に来て「いつ告白されるのかな? かな?」って身構えていたら、渡されたのは軍手とスコップ。


 何でも、先生から花壇の清掃を頼まれてしまって、俺に手伝って欲しいとの事。


 ふわふわと舞い上がっていた俺の気持ちは急降下して煙を上げながら地面に激突してしまいました。


 今思えば、こいつから告白されるなんて天地がひっくりかえっても有り得ないことなのに、なぜ浮かれてしまったのだろう……恥ずかしいッ!


「もしかして、私から告白されると思っていたのですか?」


 そう、西条院はニヤニヤしながらからかってくる。


 ええい、うるさい!

 ニヤニヤするなよ、ウザいよ! 男心揺さぶってそんなに楽しいか!


「……そんなこと思ってない」


 俺は少しばかり強がって否定する。

 本当はガッツリ思ってましたよ。


「そうですかっ♪」


 なんでこいつそんなに嬉しそうなんだよ。

 俺をからかって、いじめるのがそんなに楽しいですか。


「まぁ、でもなんだかんだ手伝ってくれてありがとうございます」


「別に……暇だったからな」


 嘘です、ここまで着いてきて帰るのが恥ずかしかっただけです。


「しかし、時森さんが告白だと勘違いするのも無理はありませんね。ここは告白スポットで有名ですから」


 西条院は草をむしりながらそんなことを言ってくる。


「……勘違いしてないし」


 こいつ、まだ話を引っ張るか!

 そろそろやめて! 俺のライフはもうゼロよ!


「現に私もここで何回も告白されましたしね」


 そいつは自慢か?

 モテない俺に対しての自慢なのだろうか? ……別に羨ましくないし! 思わず唇を噛み締めてしまったけど羨ましいと思ってないし!


 俺なんて校舎裏に来た時は告白される側じゃなくてする側だったさ!

 ……そして見事に玉砕————あれ、悲しくなってきたぞ。


「お前、そんなに告白されるんだったら、もう付き合っちゃえよ。彼氏できるぞ」


「ですから、私はちゃんと恋愛したいんですよ」


「そうだよなぁ〜、あの恋愛小説の影響を受けて「私も恋愛したい!」って思ったんだよなぁ〜」


「なっ!?  どこでそれを聞いたのですか!」


 西条院は珍しく顔を真っ赤にして狼狽えている。

 よし、会話のマウントを取ったぞ!

 俺もやられっぱなしじゃないんだ。やられたらやり返す、そういう男なんだ。俗に言う「半沢望」だ。


「神楽坂から聞いたぞ。何が「信用していませんので」だ。単に言うのが恥ずかしかっただけなくせに」


「わ・す・れ・な・さ・い!」


「分かったから! スコップを喉元に突きつけるのはやめろ! マジで危ないから!」


 西条院が俺に近づいてきて、喉元に持っていたスコップを突きつける。

 マジで危ないから! あと近い! 顔が近い!


 俺は西条院の顔から離れようと顔を逸らすが、西条院はそれでも顔を近づけてくる。

 俺は、海老反りの状態になってしまい、踏ん張る足もプルプル震えている。


 ほんとにやばい! 足が持たないって!?


「うわっ!」


「きゃっ!」


 ついに俺の足は限界を迎えてしまって、後ろに倒れてしまった。

 それに巻き込まれた西条院も一緒に前に倒れこんでしまった。


 ……そして、ここで問題発生。


「いつつ……すまん、西条院。怪我はないか?————ッ!?」


「い、いえ……大丈夫ですよ――――ッ!?」


 それは、倒れた拍子に西条院が俺に覆いかぶさっている状態になったからだ。


 顔を前に向けると、西条院の整った顔があり、ちょっと顔を上にあげただけでキスができてしまうほど近かった。


 やばい、この状況はまずい!


 何がまずいって、西条院の整った顔が目の前にあるという状況とこの体制。

 思春期真っ只中の男子にはこれは辛い!


 西条院が美少女なのは分かっていたが、改めてこうして近くで見ると余計に美少女なんだと認識させられてしまう。


 その状況に、思わずドキドキしてしまう。


 ――――というか西条院よ、早くどくんだ!

 何故顔を赤らめて動こうとしないの!?

 この状況を誰かに見られたら、俺嫉妬で、殺されちゃう!


「お、おい、西条院。そこをどいて――――」


「すまないな、放課後に」


「大丈夫ですよ! 今日は予定もなかったですし」


「「————ッッッ!!!」」


 すると、不意に誰かの話し声と足音がこちらに向かって聞こえてきた。


 やばい、誰か来るぜベイベッ!


 西条院は俺から咄嗟に離れ、息があったように一緒に近くの草陰へと身を隠した。


 それと同時に、校舎裏の角から人影が現れる。


 ――――危ない。さっきの状況を人に見られてしまうところだった……。

 でも────


「……おい西条院。ここに隠れてしまうと出ていきづらいのではないか?」


「し、仕方ないじゃないですかっ!? 咄嗟だったんですよ! あなたも一緒に隠れたじゃないですか!」


 それはそうなんだが……。

 まぁ、いい。どっかのタイミングで出れば問題ないだろ。


 すると、先程の人影は何故か俺たちの近くまで来て止まった。


 そこには見知らぬイケメンの男子生徒と、キラリとした銀髪が目立つ美少女が────

っていうか神楽坂じゃねぇか!?

 え、ちょっと待って……ここに神楽坂が男子と一緒に来たってことは――――


「ごめんね、こんなとこまで来てもらって。俺はどうしても君に伝えたいことがあるんだ」



 やっぱり告白じゃねぇか!?



 俺たちは、出るに出られず、何故か知り合いの告白現場を覗く羽目になったのでした。

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