どうやら、俺は彼女を作ってはいけないらしい

 その後、各々自己紹介を終えて、俺達は西条院から生徒会の説明を受けていた。


「生徒会の仕事があるのは水曜日と土日以外毎日です。基本的には日が暮れる前には解散をしていま―――――そこ、さっきから何をしているのですか?」


 西条院は話を途中で止め、俺の方へと顔を向ける。


「ん? 何をしているも何も、どこぞの姉の胸に顔を埋めているだけだが? ……全く、麻耶ねぇも困ったものだぜ」


「その割には嫌な素振りが見受けられないのですが……?」


「望くんはおっぱい大好きだもんね〜」


「否定はしない」


 現在俺は、西条院の話を聞きつつ麻耶ねぇの胸に顔を埋めていた。

 どうしてそうなっているのかと言うと、まず俺が説明を受けるために座る。そして、麻耶ねぇが続いて俺の横に座る。

 そのまま俺の頭は麻耶ねぇによってその巨大なばいんばいんに引き寄せられてしまったのだ。


 俺も必死に抵抗したんだよ? だから西条院よ、そんな呆れた目で俺を見るな。俺も好きでこうしている訳では無いんだぞ?


「まぁ、彼が胸に多大なる興味を持った変態というのは今更ですし」


「何を言う。俺は胸には興味があるが、大きな胸しか興味がないぞ。その証拠に西条院の胸には反応してないだろう?」


「テメェ、コロスぞ?」


 西条院が額に青筋を浮かべ、キレてしまった。

 やめてください、怖いから本当に。

 冗談です冗談!

 ……だからそんなに怒らないで。


「時森少年、それは失礼だ。柊夜ちゃんの胸は確かにまな板だけど、それでもちゃんとエロい目で見ないと彼女に失礼だろう!」


「ハッ! すみません先輩、俺が浅はかでした……ッ!」


 俺はなんて考え無しだったのだろう。

 確かに、胸のない人でも、女性らしい特徴は他にもある。

 太ももとかおしりとか、それもしっかり踏まえたうえで、エロいかどうか判断し、エロい目で見なければ!

 そこに気づかせてくれる先輩! まじリスペクトっす!


「ふふっ、結城先輩……それ以上喋ると殺しますよ?」


「……柊夜ちゃんはいつもこうなのかい?」


「えぇ、問答無用で胸の話をすると攻撃してきます」


「すごいな、殺しますよ? と聞いてきたにも関わらず、もう関節をきめているよ」


 西条院はいつの間にか先輩の背後に回りこみ、腕を掴んで関節をきめていた。

 流石先輩。関節をきめられているのに、その冷静な対応……まじリスペクトっす。


「望くんは大きいおっぱい好きだもんね〜」


「麻耶ねぇ、それ以上その発言をするんじゃない。被害がこっちにまで来てしまう」


 せっかく先輩が西条院の注意をひているというのに、俺まで巻き込まれたらたまったもんじゃない。


「話を戻しますけど、役割としては副会長は私の補佐及び私が不在の間の会長業務、書記は議事録及び書類の作成、会計は予算管理になります────というわけで時森さんには会計、書記の仕事をやってもらいます」


 西条院は先輩から離れ、話を戻した。

 先輩は余程痛かったのか、床でうずくまりながら腕を抑えている。


 すみません先輩! 俺は見ているだけしか出来ませんでした!


「え、結局そうなの!? 私は何をしたらいいの? 書記の仕事無かったら書記じゃないじゃん!」


 神楽坂が机を叩いて講義をする。

 しかし西条院の意志は固い。それに、先輩達も納得しているのか、うんうんと頷いている。

 諦めるんだ神楽坂、今更覆らないぞ。


「アリスはお手伝いです。じゃないと何かやらかしますから」


「やらかさないよ! 私をなんだと思っているの!?」


「ちょっと抜けている子ですかね」


「アホ」


「可愛いマスコット」


「望くんを誑かす女狐」


「待って、みんな酷くない!? っていうか麻耶先輩、発言が怖いです……」


 俺も隣の麻耶ねぇが怖かった。

 普段のおっとりとした雰囲気から180度変わって、声のトーンがマジに聞こえたよ。

 一体神楽坂は何をしたというのか……。


 ごめんね神楽坂、うちの麻耶ねぇがこんなんで……。



♦♦♦



 そして、しばらく西条院から説明を聞いて、大まかに生徒会の仕組みを理解することが出来た。


「まぁ、本日は顔合わせが目的でしたし、実際に始めてもらうのは明日からですね」


 ひとしきり説明も終わり、西条院が解散の合図を出す。


「おぉー、今日は仕事は無いのか! じゃあ帰ろう!」


 なんだ、早速仕事をさせられると思っていたが、今日は無いのか!


 やったね! じゃあ、久しぶりに一輝でも誘って遊ぼうかな!


「望少年、これから同学年の女の子とカラオケに行くのだが、来るかい?」


「ちょうど俺の美声を届けたかったところなんです。もちろん行きましょう」


 ごめん、一輝。俺は女の子と遊びに行くよ。また今度遊ぼうな!


「あ、私も行くよ〜」


 俺と先輩の話を聞いて、麻耶ねぇも参加したいと言った。


「え? 麻耶ねぇも来るの?」


 麻耶ねぇからこんなこと言うなんて珍しい。

 普段は家でゴロゴロしていて、こういう遊びは滅多にしないはずなのだが……。


「うん! 望くんが他の女の子とイチャイチャしないように監視しないとね〜!」


「ついに、俺は女の子ともイチャイチャしてはいけないのか……」


 こんなところまで監視の目がいくなんて……。

 俺はロクに彼女も作ってはいけないというのか!

 ……やっぱり、学校では麻耶ねぇとは関わってはいけなかったようだ。


「私はね望くん、別にイチャイチャしちゃダメとか彼女作ってはいけないとか言っているんじゃないよ」


「だったら監視する必要なくない?」


「ただ、その相手がお姉ちゃんじゃないといけないっていうだけでッ…!」


「それは遠回しに彼女を作るなと?」


 理不尽にも程がある。

 俺は麻耶ねぇ以外の彼女が作りたいだけなのに。


 いや、別に麻耶ねぇが嫌いとかタイプじゃないとかじゃないよ?

 どちらかと言えばすごいタイプ。胸も大きいし、髪も長いし、こう見えて意外と料理が上手いし、勉強もできるし、顔もすごく可愛いし……。


 けど、それ以上に姉としか見れなんだよなぁ。

 昔からずっと一緒にいるからだろうか?


「というわけで、望くんが行くなら私も行きます!」


「いや、来ないで! 俺は先輩と一緒に女の子とキャッキャウフフしたいんだから!」


「いーやー! 行くのー!」


「ええい、くっつくな麻耶ねぇ!? 離れろおんどりゃぁ!」




 結局、俺は麻耶ねぇの所為で先輩主催のカラオケには行けなかった。


 そして、その日は神楽坂と麻耶ねぇという美少女と一緒に帰ることになったのだが、周りの視線が怖くて全然嬉しくなかった。





―――――あぁ、カラオケ行きたかったなぁ…。

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