麻耶ねぇ、登場!

「の・ぞ・む・くーーーーん!!! お姉ちゃん会いたかったよ〜!!!」


「ぐへぇ!!!」


 生徒会室のドアを開けた途端、突っ込んでくる人影。

 そのおかげで、俺は腹にタックルをくらい倒れ込んでしまった。


「おい麻耶ねぇ、いきなりタックルしてくるのはやめてくれ!」


「タックルじゃないよぉ〜、抱きついているだけだよ〜」


「猛烈に突進してきて、腹部に直撃させるのは抱きつくとは言わんわ!」


 タックルしてきたのは少し身長が高いく、甘栗色の髪を腰まで伸ばしている少女。

 見た目はとても綺麗で、整った顔立ちはもちろんのこと、特にすごいのはなんと言っても胸だ。

 制服からでもわかる! もうばいんばいんなのだ。今でも腹部にむにゅっとした感触が伝わってくる。


 あぁ〜柔らかけぇ〜。

 はい、ばいんばいん! そぉれ、ばいんばいん────


「……ばいんばいんじゃない! いい加減離れろ!」


「いいじゃん、最近会ってなくて望くん成分が足りてないんだよ〜」


「そんな成分は存在してないから! 」


「時森くんが押されているところ初めて見たよ」


「えぇ、貴重なシーンですね」


「そこ、見てないで助けんかい!」


 くそ、見事に傍観者しやがって!俺がこんなに困っているというのに!

 ドアの傍で突っ立っているあの子たちは本当に使えない。


「申し訳ございません、鷺森さん。ちょっとだけ離れて貰っていですか」


「もぅ〜しょうがないなぁ〜」


 西条院が麻耶ねぇに言うと、仕方ないと離れる。

 ふぅ、とりあえず離れてくれたか。

 そして俺はゆっくりと起き上がる。


「しかし、お二人はお知り合いだったのですね」


 西条院がそう訪ねてくる。


「そうだよ! 将来結婚を約束した仲なんだよ!」


「け、結婚……!?」


 神楽坂は頬を染めて、俺と麻耶ねぇを交互に見る。


「違うぞ神楽坂。俺と麻耶ねぇはご近所さんの幼なじみなだけで、結婚の約束なんてしてない」


 そう、俺と麻耶ねぇは幼なじみなのだ。

 紹介が遅れたが、麻耶ねぇこと鷺森麻耶さぎもり まやは俺とご近所さんで一つ上の幼なじみである。

 昔から一緒にいるせいか、何かある度に俺にタックルしてきたりスキンシップしてきたり甘やかしてきたりと、何故か俺を溺愛している。


 昔は大丈夫だったんだが、最近はスキンシップが激しくかなり困っている。

 もう、胸がね? 胸が当たってしょうがないんですよ。

 俺だって思春期の少年な訳ですから、あんなに大きな胸を当てられたら興奮しちゃうんですよ。

 その大きさは西条院と比べてみると一目瞭然!

 絶壁と山ですよ!すごくな―――――


「ぐふっ!」


 すると西条院が俺の腹部にフックを入れてきた。


「すみません、蚊が」


「……お、おたくでは蚊はグーで倒すものなのですか?」


 西条院は何事もないように呆気からんとしている。

 こいつ、俺が考えてること分かりすぎだろ。

 主に胸部関係の事は。


「酷いよ、望くん! 昔約束したじゃない!」


 麻耶ねぇが目尻に涙を浮かべて詰め寄ってくる。

 だが、俺は麻耶ねぇからそっと目を逸らした。


「すまない、麻耶ねぇ。俺には他に好きな人ができたんだ」


「そんな! じゃああの時の言葉は嘘だったというの!?」


「麻耶ねぇ……ごめん」


 そう言って、涙を浮かべる麻耶ねぇに背を向けて俺は生徒会室を去る。

 ごめんな、麻耶ねぇ。あんたと過ごした時間は、嫌いじゃなかったよ……。


「なんか青春ドラマが始まっちゃったよ……」


「さりげなく逃げようたってそうはいきませんよ」


 くそッ!こっそりここから出て帰ろうと思ったのに、西条院に腕を掴まれてしまった。


 ――――なんて日だ!


「ハハッ、これまた面白い人が入ってきたね」


 そう言って、面白そうに笑う茶髪のイケメンが、生徒会室の奥から姿を現す。


「俺は結城陽介ゆうき ようすけだ。君達の一学年上の二年で、ここにいる麻耶と同じ副会長だ。これからよろしく」


 イケメン先輩は手を前に出してきて握手を求める。

 だが、俺はその手を握らなかった。


「すみません、俺イケメンと握手するとアレルギーが出るので」


「イケメン妬んじゃダメだよ、時森くん! 先輩だから失礼な態度とらないの!」


「仕方ないじゃないか! イケメン嫌いなんだから!」


「ハハッ! 正直ものだなぁ〜」


 イケメン嫌い! 大っ嫌い!

 だって俺に持ってないもの全部もってるんだよ!

 そこにいるだけで女の子にモテてしまう宇宙人なんだよ!?

 ほら見ろ、先輩が笑っただけで並の女の子はコロッと堕ちてしまう破壊力—————羨ましい!


「それにしても、どうだい時森少年。この状況は」


「……この状況とは?」


 先輩は近づき、腕を俺の肩に回して小声で話しかけてくる。


「学園三大美少女が勢揃いしているんだ。とても素晴らしい光景ではないと思わないかな?」


「ふむ、確かに素晴らしい」


 俺達がヒソヒソと話している間 、三人は楽しそうに笑顔を見せながら談笑していた。

 その光景は素晴らしいもので、是非ともカメラに収めたいものだ。


 いやぁ〜眼福眼福。


「少年、君かなりいける口だね。今度一緒に合コンなんてどうかな?」


「先輩、不束者ですが一生ついて行きます!」


 このイケメンはいい人だ!

 この人は嫌いじゃない。むしろ男の中の男だ。嫌いだなんて思っていた俺を殴ってやりたい!


 生徒会に入るの、案外悪くないかもしれないな。


 そう言って、俺たちは熱い握手を交わした。


 そして、その光景を見ていた女性陣は────


「向こうも仲良くなったみたいだね!」


「いいなぁ〜、望くんと握手……」


「いえ、あれはくだらない友情が芽生えただけだと思いますが……」


 なんてことを言っていたが気にしない!


 俺は先輩について行くんだ!

 今思えば美少女達と一緒の空間で過ぎせるし、先輩といれば俺はリア充街道を歩めるし、素晴らしい環境なのでは?



 まぁ、麻耶ねぇだけが懸念点ではあるんだけども。


 俺は、この状況をかなり喜んでしまったのであった。

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