俺、合コンに行きたいために勝負するんじゃないですからね!

「でも、望が来るのも珍しいけど、二人も一緒にいるなんて更に珍しいね」


「おい、俺が美少女といたらおかしいみたいな言い方に聞こえるぞ」


「あはは」


「こいつッ!」


 会って早々ムカつくやつだな、我が親友は。

 ほら見ろ、何が面白いのか、二人とも頬を赤らめて俯いてるじゃないか。

 こらこら、笑いを堪えるんじゃないよ。


「ごめんね二人とも。望はすぐこういう事言っちゃうから」


「だ、大丈夫だよ! もう慣れたかもだから!」


「私は未だに慣れません……」


 こいつらは一体何を言ってるのだろうか?


「それより、三人して今日はどうしたの?」


「あぁ、今日はサッカー部を見学しに来たんだ」


「ふぅーん……という事はやっとサッカー部入る気になったんだ」


「んなわけないだろ。こいつらが見たいんだよ」


 本当はお前と話に来たのだが。


「そうなんです。少しの間見学させていただいてもよろしいでしょうか?」


「それは別に構わないよ。あ、でも今休憩中なんだよね」


 馬鹿野郎。休憩中なんだからいいんだろうが。

 一輝が練習に行ったら話せなくなっちゃうだろ。


「大丈夫だ佐藤、お前は生徒会長達の相手をしてやってくれ」


 そこへ、見るからにガタイの良さそうな先輩が割り込んできた。筋肉質な体が目に悪いけどナイスです先輩!


「俺達はこのまま、時森と練習始めるからよ」


「ちょっと待ってください先輩。せっかくいいプレーしたのに今のでエラーですよ」


 なんで俺もやることになってんだコラ。


「ん? お前はサッカーをしに来たのではないのか?」


「違いますよ。サッカーの見学に来ただけであってサッカーをやりに来た訳ではありません」


「と言ってもうちの連中がなぁ……」


 そう言って、先輩が指を指した先には他の先輩や同級生達が何やら気合を入れてストレッチをしていた。


「おっしゃ、時森がキーパーしてくれるんだったらシュート練習し放題だぜ」


「佐藤でさえ、こいつに止められちまうんだ。今日ここで時森に勝てば俺がエースだ!」


「今まで屈辱……ここで晴らしてみせる!」


「えぇ……なんでみんなやる気出してんの……」


 そんなに気合い入れられても俺困る。

 本当に今はサッカーしたくないんだよ……制服だし、汚れるし、疲れるし。


 あと、最後に喋った人、俺は何かあなたにしましたか?


「というわけで望、キーパーしてくれ」


「いやです」


「どうしてもか?」


「どうしてもです」


「そうか……」


 そう言って、ガタイのいい先輩は、ムチムチの腕を組みながら考えるような仕草をする。


 いや、いくら考えても俺は絶対にしないからね?


「……よし、じゃあこうしよう」


 そうして何か閃いたのか、先輩は俺に提案しようとしてくる。


「いや、だからやりませんって言って「こいつらのシュートを全て止めれたら、今度合コンを組んでやろう」しゃぁぁぁぁぁ!!! 先輩方、俺から点数決めれると思うなよ!」


「上等だコラ!」


「お前の天下もここまでじゃ!」


「今日こそ……今日こそ勝って由奈ちゃんに告白するんだ!」


 俺は気合を入れてストレッチを始める。


 ……違うよ? 合コンに行きたいからするんじゃなくて、先輩がどうしてもって言うから、仕方なくだよ? 下心とかないよ、ほんとだよ?


 っていうか、最後の人……俺に勝たなくても告白しろよ……お前にとって俺はなんなんだよ。


「さっさと行くぞ時森! 時間が持ったいねぇ!」


「上等ですよ! あ、西条院に神楽坂! 今日のミッション忘れんなよ! お膳立てはしたからな!」


 そう、神楽坂と西条院に言い残し、俺はサッカーグラウンドに向かった。



 ――――待ってろよ合コン!



 ♦♦♦


(※柊夜視点)


「上等ですよ! あ、西条院に神楽坂! 今日のミッション忘れんなよ! お膳立てはしたからな!」


 そう彼は言い残し、彼は去って行きました。

 確かに、佐藤さんと話すという状況はしっかり作ってくれましたし、後は私達がすべき事……なのですが。


「どう考えても私達のことではなく、完全に合コンのためですね……」


 私、西条院柊夜は小さくため息をつきます。

 そんなに私達より合コンの方が大事なのでしょうか?

 普段はサラリと美少女美少女と言ってくるのに、全然私達に興味を持ってくれません……。


 き、興味を持って欲しいとかじゃ、ありませんけどもっ!


「行っちゃったね。佐藤くんは行かなくていいの?」


 アリスは時森さんの考えが分かっていないようですね……。

 私達の目的は彼と話して実際に彼氏候補として挙げるのか見極めなければいけないというのに。


「うん、僕はいいかな。どうせ今やっても望には勝てないし」


 佐藤さんは苦笑しながらそう言います。


「佐藤くんよりも時森くんは上手なの?」


「上手いよ、ほんとにね……。今まで僕は望から点をとったことないんだ」


「そこまでお上手なんですね……」


 私達の学園のサッカー部は県予選は必ず突破するほどの県ではかなりの有名校です。

 そこで、1年生ながらエースをつとめているだけで、彼の実力がすごいと分かります。


 しかし、そんな彼にここまで言わせる時森さんは……一体何者なんでしょう?


「時森さんと佐藤さんは中学では同じサッカー部だったのですか?」


「違うよ。僕はサッカー部だけど、望は帰宅部」


「へぇ〜、なのにサッカー上手いんだね!」


「しかも望は『サッカーが上手いやつはモテるらしいな!』という事を聞いて始めたんだよ」


「動機が不純すぎるよ……」


 またですか!?

 彼は根拠の無いソースのために練習して上手くなったというのですか!


 ほら、アリスも呆れているではありませんか。


「ほんとにね……望を見てたら今までの僕の頑張りはなんだったのかって思う時があったよ」


 そう言って佐藤さんはグラウンドを見ました。

 そこにはサッカー部の方々とPK戦をしている彼の姿があります。


 それを見ている佐藤くんの横顔には陰りがあるように見えました。


「けど、望は彼女を作るために色んな努力を本気でしてきたんだ。……そんな姿を見ると、嫉妬ではなく僕も頑張らなきゃって思うようになったんだよね」


「そうなんだね……」


 アリスは真剣な表情で佐藤さんの話を聞いています。


 確かに、動機はちょっとアレですが……彼の目標のために努力する姿は素直にすごいと思います。


「だから、僕は望を友達としても尊敬してるし、望の事は好きなんだよね。だから、これからも望と仲良くしてくれたら嬉しいな」


「えぇ」


「任せてよ!」


 もちろんです。

 これから彼には協力してもらわなければいけませんし……彼はどう思っているかはわかりませんが、私は彼ともっと仲良くなりたいとも思っていますから。



 こんな話をしつつも、私達はそれからしばらくの時間を雑談して過ごしました。


 その間に


「これで、あと三人! これで合コンは手に入ったも同然だ!」


「馬鹿野郎! まだ、俺達がいるだろうが!」


「簡単に合コンに行けると思うなよ!」


「由奈ちゃん、待っててね……今から告白しに行くから!」


「かかってこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 こんなやり取りがサッカーグラウンドでは行われていました。



 ……はぁ、どうしてそこまで合コンに行きたいんでしょう?



 この喧騒を聞きながら、少しだけモヤッとした気持ちになりましたが────気のせいですよね。

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