彼女との距離が縮まった気がする

 日も落ちかけてきて、部活をしている生徒達もちらほら帰宅している。

 外の喧騒は嘘のように消え、室内の音がよく響く。


 そんな中、俺と西条院は生徒会室で顔を合わせていた。


「俺はさ、初めてお前を見た時……雷に打たれたような感覚だったんだ」


「雷……ですか?」


「……まぁ、あくまで比喩的表現なんだが「こんなに可愛くて綺麗な人がいるのか?」って」


「……ッ!?」


 俺の言葉に西条院が顔を赤らめる。


 西条院を初めて見たのは始業式の新入生代表の挨拶の時だ。

 壇上に上がった彼女を見た時は衝撃を受けた。

 サラリとした金髪はたちまち俺の視線を引き、その整いすぎた顔はより一層彼女から目が離せなくなってしまった。


 そんな西条院と同じクラスになれたと知った時は心の底から舞い上がったものだ。


「けど、同じクラスになってお前を見ていくうちに、どうして同じ顔しかしないのか違和感を覚えたんだ」


 案の定、西条院はクラスで人気者になり、彼女の周りにはいつも人だかりができていた。


 けど、そこにいる西条院は笑ってはいるものの、いつも同じ顔しかしなかった。


「それを見て俺は思ったんだーーーーあぁ、こいつは誰にも自分を見せてないんだなってさ」


「……」


「確かに、俺はこの学校で彼女を作りたくて、可愛い子がいたらすぐに告白していたさ。けど、それは決して見た目が可愛いからだけじゃない」


 俺は黙る西条院にそれでもしっかりと言葉を紡ぐ。


「例えば二年の山吹さんはいつも明るくてみんなを引っ張っていける人だし、三年の榊原さんは誰にでも優しくて困っている人を見かけたら放っておけない人だ。俺はそんな人達の中身も含めて好きになったから告白した」


 確かに周りからしたら見境のない男なのかもしれない。

 けど、俺は俺なりに彼女達の中身も見た上で好きになって告白していったんだ。

 その気持ちに嘘偽りなんてなくて、本気で。


「だけど、お前は中身が分からなかった。いつも、誰に対しても仮面を被っていて、どこか不気味だったんだ。俺は……そんな表面しか見えない人は好きになれなかった」


「……」


「だから俺はお前に何もしない。好きでもないし、興味もない。可愛いかもしれないけど、人と自ら距離を置いて行くようなやつはどうあっても心から仲良くなれないしなーーーーだから俺はお前に普通に接してるんだ」


 しかも、この前から普通の子の彼女するって決めたばかりなんだよなぁ……。

 それが話しかけられたからって揺るぐ? ははっ、ありえねぇ。


 ひとしきり喋り終わった俺は西条院を見る。

 すると、西条院は目を伏せて俯いていた。


 ……あれ、俺言い過ぎたか?


「ふふっ、やはり時森さんは他の人とは違いますね」


 小さく 、俯いたまま彼女は笑った。

 しかし、その笑みはいつもの張り付いた笑みではないようで、自然と彼女らしいもののように感じる。


「……他の人より魅力がないってことかよ」


「いえ、他の人がとう思っているのか分かりませんが、少なくとも私は今まで出会ってきた人よりも魅力があると思いますよ?」


 彼女は顔を上げて、かからうようにこちらを見て笑った。

 その表情を見て、俺は思わずドキッとしてしまう。


 くそ……顔が熱い。

 西条院がそんなことを言う所為で、今まで意識してなかったのに、顔を見るとどうしても恥ずかしくて目を逸らしてしまう。


 そうなってしまうほど、今の発言も含め 、今の西条院はいつもより可愛かったんだ。


「……今の私では、あなたと仲良くすることは出来ますか?」


 彼女は、少し恥ずかしそうに聞いてくる。

 そんなもの、今までは無理だと言えたはずなのに……今の西条院を見てしまうと否定できなかった。


「今の西条院とだったら仲良くなれる……と思う」


「……そうですか」


 俺の返答に満足したのか、嬉しそうに頬をほころばせ、再び自分の作業に戻った。


(……俺も作業に戻るか)


 今日は初めて西条院の顔を見れた気がする。

 自惚れでは無いと思いたいが、今の西条院は取り繕っていない彼女なんだと思う。


 初めは気まずかった沈黙も、今では心地よいものとなっていた。


 ーーーーこうして、俺たちは再び作業に没頭した。



 ♦️♦️♦️



 日もすっかり暮れて、時刻は20時前となっていた。


 俺は己の作業がやっと終わり、ぐっと背筋を伸ばす。

 ずっとパソコンを見ていたから目が異様に疲れた。

 明日はゆっくり休もう。遅刻してでも休もう。


(俺、よくこの時間で仕事終わらすことが出来たよなぁ……)


 机にズドン!と置いてある資料を見て思った。

 俺、結構頑張ったくね?自分で自分を褒めてやりたいくらいだわ。


「やっと終わりました!」


 そうやって背筋を伸ばして、西条院は疲れた体をほぐしていた。

 どうやら向こうも終わったみたいだ。


「お疲れ、案外時間がかかったな」


「いえ、これは結構早いと思いますよ。この仕事、生徒会メンバー八人分の作業量ですから」


「おいこら、割っても四人分の仕事量じゃねぇか。どおりで多いと思ったわ!?給料発生してもおかしくないぞ!? って言うかよこせコラァ!?」


「まぁ落ち着いて下さい時森さん。……こんな美少女と一緒にいられたんですから、給料は頂いたと思ってください」


 西条院が顔をぐっと近づけてくる。

 ……近い近い可愛い!


「自分で美少女とか言うか普通?」


 必死に赤くなった顔がバレないように顔を逸らす。


「あら、あなたが言ったのではないですか?」


「ぐっ……確かに言ったが……ッ!」


 こいつ、なんか今までより鬱陶しいぞ!

 いきなり距離が近くなってきた気がする!


「それより、時森さん生徒会に入りませんか?今日の作業スピードもそうですし、入ってくれると助かるのですが……」


「そこまで付き合ってやる義理はねぇよ」


「そうですか……時森さんが生徒会に入ってくれれば楽しいと思ったのですけど……」


 西条院はしょぼんと落ち込んで少し悲しそうな表情をする。


 えぇい、なんだその顔は!?

 そんな顔を見たら何故か俺が悪いことをしたみたいな気分になってしまうじゃないか!


 西条院柊夜……なんて恐ろしい子なの!?


「と、とにかくもう遅いから帰るぞ!」


「ふふっ、分かりました」


 ……あーもう、なんか調子狂うな。


 今日一日でなんかどっと疲れた気分だ。

 実際に作業していたのだから疲れたのは当たり前なのだが、なんかこう……精神的にも疲れた。


 しかし、今西条院との仲は深まったような気がする。


 まぁ、だからといってこれから特別何かが変わる訳では無いが……。


 けど、今日は何故か嫌いじゃない時間だった。

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