これが俺、彼女達の物語
俺は今、かたーい床の上で正座させられている。
一方の西条院と神楽坂は、優雅に椅子に座って俺の事を見下ろしていた。
「さて、どういうつもりなのか聞かせてもらいましょうか?」
西条院は先程よりかは落ち着いてはいるものの、やはり怒っているようだった。
「いや、理由も何も、俺はお前らが彼氏が欲しいと言ったから秒で首を縦に振ってくれる人材を用意した訳だが?」
「こいつ「何かおかしなこと言った?」みたいな顔しやがって……」
あらやだお嬢様。口調がおかしくなっていますことよ。
「えぇッ!? 時森くんそういう事しようとしてたの!?」
どうやら神楽坂は今気づいたようだ。
もしかしたら、この子はアホの子の部類なのかもしれない。
「私達はただ彼氏が欲しいんじゃないよ! ちゃんと恋愛をした上で付き合いたいの!」
「私達は本気でちゃんと私達のことを理解して好きになってくれた人とお付き合いしたいのです。あなたと違って」
「あァ!? 俺だって本気だわ! めちゃくちゃ可愛い子がいたら本気で告白して、めちゃくちゃ可愛い子がいたら本気で告白して、めちゃくちゃ可愛い子がいたら本気で告白してきたんだぞ!」
「告白しかしてないじゃないですか……」
「よくそれで彼女欲しいと思ったよね……」
2人は何故か呆れた様子でこちらを見ている。
何がおかしいというのか。想いを伝えることはそんなにおかしいことだろうか? ただ、過程をすっ飛ばしているだけで、想いを伝えることは素晴らしいことだと思う。
――――しかし、最近になってその過程が重要なことを知った俺です、はい。
「っていうか、お前らのことを理解してくれる奴なんているのか?」
「……どういうことです?」
西条院は俺をキッっと睨んでくる。
やめて、そんなに見つめられると照れちゃうじゃないかー。
……やっぱり普通に怖いです。
「いや、だってよ。お前ら誰一人として表面上の自分でしか接してないじゃねぇか」
「「……」」
俺は、こいつらは表面上ではみんなにニコニコしていて「これが2人の理想像」っていう仮面を被っているように感じる。
だからって訳じゃないが、だから俺はこの半年、こいつら以外のかわい子ちゃんにアタックしてきたんだ。
さすがの俺でも可愛ければ誰でもいいという訳では無い。
きちんと一緒にいて楽しい人がいいし、優しい人がいいし、身長は俺よりちょっと低いぐらいがいいし、料理ができて、勉強ができて、美少女である人が好きなだけなんだ。
――――あれ? 俺注文多くない?
2人は何故か黙りこんでしまった。
……やばい、流石にちょっと言いすぎたか?
「ま、まぁ、でも俺の勘違いかもしれないしな!さすがにちょっと失れ——――」
「ふふっ」
「あははっ」
「――――いかも……どうしたんだ急に笑って?」
言いすぎたかと思い頑張ってフォローをしていた中、彼女達は徐に笑いだした。
そんなに面白いこと言っただろうか?
もしかしたら、俺が慌てふためく姿を見てバカにしていたのかもしれない。
なんて言うやつらだ。隙を見せた途端狙い撃ってくるなんて、新手のレスラーか!
「……いえ、やはりあなたにお願いして良かったです。やり方はアレでしたが」
「うん! やっぱりあの人の言う通りだね!」
あの人って誰だろうか?
まさか!? こいつらがここに来た理由もそいつから情報を入手していたからだと言うのか!?
……早く情報源を始末しなきゃ。
けど、ここに新しい情報源が増えたんだよなぁ……。
「っていうか、なんで彼氏が欲しいんだ? 理由を聞いていなんだけど」
「それについては、また追々お話させていただきます。」
なんだそれは、契約書の中身を確認せずにサインさせるようなものじゃないか。
こいつらは詐欺グループなのかな?
「なんで教えてくれないんだよ?協力するんだからそれを聞く権利ぐらいはあると思うんだが?」
「あなたはまだ信用に足る相手ではありませんので」
……はぁ、全く。
「器も胸も小さいヤツだな」
くぃ、ドンッ! ―――――グリグリグリ。
「何か言いましたか?」
「いいえ、なんでもありませんからお嬢さん、いきなり大外刈りで倒して頭を踏むのはやめていただけませんか?」
まるで反応できなかった。
西条院は流れるような動きで俺の懐に入り込み、気がついたら仰向けになっていた。
更にはお嬢様から踏まれるというオプション付き。
俺Mじゃないからね?
あと、さっきからチラチラとスカートの中が見えるんだよね!
もうちょい、もうちょいで男のロマンスがッ!
「はぁ、全く……女性に対して小さいとは酷いのではありませんか?」
「大外刈した挙句頭を踏むやつもどうかと思うが……」
「ごめんね。ひぃちゃんすぐに手が出てちゃうんだよ」
そう言って、西条院は俺の頭から足をどける。
神楽坂は手を合わせて謝ってくるが、手が出るとわかっているのであれば先に言って欲しかった。
俺は立ち上がると、二人に向かうように席に座る。
「とにかく、私達は恋愛した上で彼氏を作りたいのです」
「私もひぃちゃんと同じ。本気で付き合いたいの! だからお願い!」
本気……本気かぁ。
確かに俺も本気で彼女作りたいと思っているから気持ちは分かる。
だからなのだろうか。ちょっとは協力してあげたいと思ってしまうのは。
「……はぁ、わかったよ。どうせ俺には拒否権がないし、できる限りの事は協力する」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
俺は了承することにした。
仕方がないんだ。やつが人質に取られている以上、俺に拒否権はないし、まぁなんとかなるでしょう。
「言っとくけど、俺の彼女を作るための協力、忘れんなよ?」
「そこは大丈夫です。約束いたします」
「もちろんだよ!」
こうして、俺、彼女達は己が目的のため、お互いに協力することになったのだ。
これが 、俺と彼女たちの物語の始まり。
この日を境に、時森望の人生が大きく変わることになるとは、この時の俺は知る由もなかった。
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