校内美少女三人衆の内二名、ここに現る!

 何故、数学の時間はこんなにも俺を微睡みへといざなってしまうのだろうか?

 無駄に並んでいる数式を前にして、俺はウトウトしてしまう。


「ここ、西条院解いてみろ」


「はい」


 指名された西条院は前に出て難なく問題を解いていった。


「流石だ西条院」


「いえ、先生の授業がわかりやすいからですよ」


 そう言って彼女は席へ戻っていく。

 周囲では「流石、西条院様!」「自らの知力を謙遜なんてすごいですわ!」と言った声が聞こえてくる。

 ………どこぞの貴族のとりまきかな?


 時は過ぎ、古文では。


「ここの文章を—————神楽坂 さん、読んでください」


「わかりました!」


 先生に当てられ、元気よく席を立ち 、神楽坂が読み上げる。


「はい、ありがとうございます」


「神楽坂ちゃんいい声だったよ!」「アンコール! アンコール!」なんて声が聞こえてくる。


 ………どこかのアイドルグループかな?


 と言った感じでうちのクラスの授業は進んでいく。



 ♦♦♦



「あー、やっと終わったー」


「お疲れ様。今日はいつになく静かだったね」


 めんどくさい授業も終わり、時は放課後。

 クラスの連中も帰るやつもいれば、談笑していたりしていた。


「まぁな、これから我が野望に向けての計画を考えていたんだ」


「なるほどね。だからやけに静かだったのか」


「その通りだ」


「で、これからどう動いていくの?」


 一輝は、話をじっくり聞こうと俺の正面の席に座る。


「あぁ、まずはすぐに告白をするんじゃなくて徐々に好感度をあげていこうと思っている」


「今までなぜそうしてこなかったのか不思議だね……。それが当たり前だと言うのにさ」


「うるさい! イケメンだからそんなこと言えるんだよ!」


「いや、一般的にも出会い頭に告白する方がおかしいと思うよ」


 ―————それはさっき気づきました。


「とにかく、まずは周囲の評価を上げていくとこから始めようと思うんだ」


「確かに、今クラスの女子からの評価はお世辞にも酷いからね」


「お前、国語の先生に国語教えて貰ってこい。全然お世辞になってない」


 —————そうか、俺はクラスの女子の評価低かったのか……。

 今までは可愛い子を見つけたら猪突猛進してたから周囲の評価なんて気づかなかったわ。

 ……これ意外にショック。


「とにかく、俺は周囲の評価をあげるために行動に移していこうと思う」


「まぁ、僕としてもあれだけ彼女を作るために努力してきた望には是非とも彼女を作って欲しいね」


「一輝……お前っ! ありがとう、俺頑張る!」


 そうさ! 俺は彼女を作ると決意した日からほぼ毎日、自分という男を磨き続けてきたんだ!

 強い男はモテるという話を聞きボクシングジムに通い続けたり、料理ができる男はモテるという話を聞いてお料理教室に通ったりもした。


 今までの努力は一重に彼女作るため!

 努力は決して裏切らない!


 俺は席を立ち、応援してくれた親友と熱い握手を交わした。


「それで、今日もやるのかい?」


「ん? あぁ、やめようと思ったんだがどうにも日課になってしまってな」


「まぁ、いいけど。他の人に見られてしまったらやばいよ?」


「今まで誰にも気付かれなかったんだ。大丈夫だろ」


「そうかな? じゃあ僕は部活があるから」


 そう言って、一輝は部活に行くためにカバンをとって席を立つ。


 一輝が所属しているのはサッカー部である。


 聞いてくれよ。こいつ一年生なのにエースなんだぜ?

 こいつは昔から運動神経がいいとは思っていたがエースになるとは思わなかった。


 イケメンで運動神経いいとか、どんなラノベ主人公だ————死ねばいいのに。


「おう、また明日な」


 そう言うと、一輝は部活に行くべく教室を去っていった。


「さて、俺も行きますかな」


 俺も教室を出るためにカバンに教科書を入れ、席を立つ。


 俺は部活には入っていないので本来であればここで帰るのだが、俺には習慣……というか日課がある。


 教室を出て、階段を上がり、3階の空き教室に向かう。

 ここの教室は本来化学準備室なのだが、滅多に使わないため、今は空き教室になっている。

 しかも、ここの周りには誰も来ないため日課をするにはちょうどいいのだ。


 俺は化学準備室に入ると、カバンを置き、深呼吸をする。


「好きです! 付き合って下さい!」


 そう、俺の日課はここで告白の練習をしているのだ。


 事の発端は初めてめちゃくちゃ可愛い子に告白した時


『す、好きです! つ、付き合ってくだちゃい!』


 と思いっきり噛んでしまったのが発端。

 おかげで、本気の告白を笑われてしまったのだ。


 それ以来「スムーズにかっこよく告白すればOKもらえる!」と思い、ここでほぼ毎日練習しているのだ。


「初めて見た時惚れてしまいました! 付き合って下さい!」


 しかし一輝の言う通りこの現場を見られたら、俺は学校で生きてはいけないだろう。


 クラスの男共ならまだしも、ほかのクラスの連中や特に女子に見られなんかでもしたら「え? あいつ告白の練習なんかしてんの? 本気でキモいし、ひくわー」って思われるだろう。

 そしてたちまちSNSで拡散され、瞬く間に学園中に広がっていき—————そんなことになったら転校してやる。


 そうなれば俺は一生この学園では彼女は作れないだろう。


 だからこそ、俺は慎重に行動している。

 しっかりドアには鍵をかけ、発声練習の合間に必ず足音がしないか確認している。


 だからよっぽどの事がない限りバレることは無いだろう。


 よし、足音無し。

  最後に1回やって帰るか。


「あなたの優しいところが好きです! 付き合—————」


 ガラガラガラ。


 発声練習をしていると、不意にドアが開く音がした。


 ………おかしいッ! 俺は鍵はしっかりかけたし、足音もしなかった……では、一体何故ドアが開く音がした!?


 いや、そんなことよりもッ!


  俺はドアが開いた方へと振り返る。

 お願いします、気の所為でありますように気の所為でありますように気の所為でありますように!


 勘違いであって欲しいと振り返った先には―――――


 落ち着いた笑みを浮かべていた西条院、苦笑している神楽坂がそこにいた。


 ―—―――あ、俺終わったわ。

 よりによっても見られたのが校内美少女3人衆だなんて…。


 ……帰ったらお父さんとお母さんに転校の話しなきゃ。


  俺は悲しくもそんなことを思うのだった。

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