変わるココロ

「えっ……」

「超能力事件はおこすは! あたしのギガまで無理矢理乗って! ほんと、マーブルの言う通り! あんた、死ぬとこだったじゃない!」

「だ、だって、アスカ、熱、あったし、それを、大人たちが、みんな、よってたかって起こそうとするから……」

「いーい?! あたしのは仕事なの! 熱くらいあったっておちゃのこさいさいよっ!」

「だって、熱ださせちゃったの……私、だし……」

「そ、それは、あたしが、す、好きで、あんたに自分を任せた結果なんだから……! だーかーらーってー! 今日みたいなことが許されるなんてことにならないのっ! いーい? あんた、今、学生だから許されてんのよ?! ほんとなら軍規違反でえっらいことになってんだから!」


 柄にもなくしどろもどろとなった黒い制服を前に、赤い髪留めも取り戻した仁王立ちでそれを見下ろす剣幕は止まらない。ただ、そこまで一気に言いかけたところで、「うっ……」などと、軍人乙女は額に手をやり、よろめいた。


「アスカ、大丈夫?」

「うん、平気。ともかく起きて、今日の惨状きいたら、ベッドでなんて寝てらんないわよっ。マーブルもテトも、このバカと付き合ってくれてありがとね」


 そして、すっかり打ち解けた笑顔が、マーブルたちに振り向くころ、「助けたい、って、思ったんだよ……」と、ポツリと呟くのはマガネで、今度は、マーブルもともに、声なる方に皆で視線を移せば、黒い制服は俯いているのである。


「な、なによっ」

「……私、マーブルにだって見せたことない肌、こんな醜いカラダ、誰にも見せたくなかったんだよ……キミが全部、受け止めてくれた時さ、こんなインパクトあること、人生でたった二度目だったんだ……」

「……あー、はじめては、もしかして、あのおっぱい大きかったお姉さん? あたし、そんな大したことかしら?」


 アスカとマガネは何を語りだしたというのだろう。とりあえずマーブルたちはせいぜい瞬きをしていると、


「大したことだよっ!」


 アスカの怪力をもろに受けた頬を腫らしながら、やがて見上げたマガネは、柄にもなくきっぱりと言い切るではないか。


「……そっ」


 パワーをもろに受けた痛み故か。ましてや、アスカを真っ直ぐに見つめるマガネの視線が潤んでいれば、先程までの剣幕はどこへやら、軍服の乙女の視線のほうがついそれて、泳ぎがちとなってしまう。


「ほんとは、どの女の子の体も、どっか、憎らしかったんだ……こんな気持ちで女の子の体に向き合えるのも、多分、はじめてさ」

「……随分な言いかたねー」

「だから、私、もう、覚悟決めてるんだよ? 絶対、帰らないし、帰れない……! 私、アスカのこと、全力で……!」

「あー、もーう。わかったわかった!」

(…………!!)


 今や、口をへの字に瞳に瞼を貯めるようにして見上げるマガネに、とうとうアスカは観念すると抱き寄せるようにしてしまった。


 とりあえず、マーブルにとってみれば、友のこんなしおらしい姿を見たこともない。


「社会人のなかでも、一番、厳しい世界かもしれないわよ?」

「……うん」

 そして優しく自らの胸のなかに招き入れながらも、静かに諭すアスカの口調を前に、グスリグスリとやるマガネは、更にしおらしくしている。


 アスカは一度、肩をすくめると、ため息のひとつもつき、青い瞳もクルリとしたが、「……これじゃ、ゴツゴツして痛いわね」などとも自らの胸元に向かって見下ろした後は、


「じゃあ、あたしたち、帰るわね」

「え、あ、うん」

 そして、どちらが年上なのかもわからなくなった二人連れは、マーブルたちの元を去ろうとしたのだが、アスカはもう一度、マーブルに振り向くと、

「あ、マーブル、バカマガネがいったことは気にしないでねっ。うちらとしてはレシピもらえるだけで、大感謝だし、どーせ、ずぶの素人の皮算用なんだしさー」

「うん……」


 こうして、今宵も互いの二人の世界となっていくなか、

「……マガネ、ナイテタ」

「うん……」


 人造人間にとっても衝撃的だったのだろう、それには、発明者としても頷くほかできなかったのである。ただ、ここまで作業をしてきたPC画面を、ふと、眺めると、マーブルにも思うことはあり、ひとつ、深く、ため息をつくほかなかった。

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