セカンド・チャイルド
「ちょ、ちょっとー、なに言ってるのよ?!」
マーブルは驚きながらも、尚、テトが慣れたふうに引っ張る弄びのせいで、相手は自分が作り出した人造人間だというのに、それにすっかり調教すらさせられてしまった体は、無意識にも呼応すると、「あはーん」などと、刹那、天井など仰いでしまったが、
「テト、ストップ!」
「ガウッ」
流石に、顔も真っ赤に振り向いた青い瞳が一喝すれば、すぐさま人造人間は手を離し、おとなしく従うのも主従関係の一環である。
「……とに、エッチなんだからー。あーとーでっ! ねっ?!」
「ガウ~」
そして、ガウンにその豊かなバストをしまいながら、小言ながらも微笑みかけると、そんな乙女を前にして、金属と有機体が複雑に絡み合った生命体は、鼻の下でも伸ばしている様子である。
マガネはそんな二人の仲睦まじい姿に、フッと微笑んでみせたりはしたものの、
「言葉通りだよ。私、この星で、生きてくよ」
と、言ってみせては、マガネも一人の乙女であるように、自らの髪の切っ先などを気にする素振りをする。
「生きてくって……どうすんの?! 学校は?!」
「まあ、実はさー。ずっと、もう、やめたみたいなもんだったんだー」
「はあ?!」
「マーブルについてくって日にさ。私、かあちゃんに勘当されたんだよ。もち、勘当し返したけどね。こういう場合、なんて言うんだろうね」
「…………」
そういえば、出発時、黒い親友は、えらく頬を腫らした様子で、青い瞳の目の前に現れたものだ。
天才乙女が記憶をよみがえらせ見つめる先で、マガネは口にしつつも、クックックと肩で笑っている。
「で、でも、親子の喧嘩なんて、よくあることじゃなーい! わたしだってさー、かあさんとー……」
「普通じゃないんだよ」
それは友として自然なフォローといっていいだろう。ただ、言葉を選びながらの言い回しの前に、マガネにピシャリと言い切られてしまえば、刹那、マーブルは、言葉に詰まった。
「普通じゃないんだ……」
もう一度、マガネは呟くようにした。それから目の前のカップリングの姿などを、ユラリユラリと体などを揺らしながら眺めると、
「マーブルは、私があいつと、一度でも、そうしてるとこを見たことがあるかい?」
もはや、顔など、直角に近い傾け方をして話をつづけるマガネの姿は、いよいよ不気味さを帯びていく、というものだったが、その視線の先にあるのが、自然と握られたテトとマーブルの手の平同士であれば、長年の付き合いも相俟って、マーブルには続ける言葉がでてこない。
「で、でも!」
「私、アスカと一緒に戦おうと思う」
それでも食い下がろうとするのが親友というものだろう。ただ、ズバリと相手に言い切られた刹那には、「ガウ?!」と、テトまで驚き、マーブルの青い瞳もみるみる大きくなるしかなく、
「はあ?! あんた、なにいってんの?! ここで起きてんのは戦争なのよ?!」
「センソウ! ダメ!」
マーブルにテトまで畳みかけたのだが、マガネの反応は、相変わらず、自らの髪の毛先を指でいじりながら涼やかに、
「私さー、『セカンドチャイルド』なんだってさー」
「はあ⁈」
「あの優男くんが教えてくれたんだー。まー。ギガンティスが残ってれば、の話にもなるらしいけどー。で、例えば、新型ができれば、アスカは『ラストチャイルド』卒業ーっ。『ファーストチャイルド』で、私ががっちりサポートできるってわけー」
「あんた、なにを……」
「たとえば、テトくんみたいの作るとしてさー。おっきくはできないの?」
「……できなくは、ない、わよ」
ましてや、此処には、「ギガの墓場」がある。発明家の慧眼は、あれらが今だ扱える「素材」であることもとっくに見抜いていた。たとえばそれらの二次使用から生まれる「ギガンティス二号機」など、マーブルの理論も合致すれば造作もないことである。
ただ、友人として、マーブルはじっとマガネのことを見つめていたのだ。
「なら、テトくんの、弟?……私的には妹がいいけどー。そればかりに使者と戦わせるのも可哀想な話だしさー。いっそ、私と一緒に戦えるデザインにしてもらってー……」
「ダメよ! そんなの!」
そして、とうとう、案の定の話を切り出された刹那、青い瞳は表情も険しく、それを断固拒否したのである。
「あんた、たった一回の戦いで、こんな傷だらけになったのよ?! いつ死ぬかもわからない……兵器に乗るってそういうことなのよ?!」
「……じゃあ、誰がアスカを助けるって言うのさ」
「あの子は軍人でしょ?! プロなの! わたしたちは単なる学生! こんな勝手な世界からは、とっとと帰るの!」
「だーかーらー。私は、学校やめるってー……」
いよいよ眉間に皺をよせ、詰め寄るマーブルに、ヘラヘラとしながらもマガネも曲がらない。二人の話は平行線の様相を呈した刹那、
「バーカーマーガーネーっ!」
途端にドアは開くと、登場したのは、軍服を着込んだアスカの姿であり、マガネがきょとんとする間もなく、その眼前まで近づくと、大きな音を立てて平手打ちを、その頬にかましたのである。
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