黄昏の運命

 ズシーン!!

 使者に投げ飛ばされたギガンティスのおかげで街は更に荒廃していく。


『えっへっへ……おねえさまは、なかなか、いうことをきいてくれないもんだにゃぁ』

 どうやらマガネは、元のパイロットがそうしたように、そして、普段の自分がそうであるように、アクロバティックな身のこなしでもって、ギガンティスを使用し、眼前の目標に立ち向かっていきたいようだが、なかなか上手くはいかないようだ。


「パイロットのシンクロ値は?!」

「以前、高水準をキープ! こんなの、奇跡です……!」

「奇跡も結果を伴わなきゃ、単なるレコードの端くれに過ぎないよ。マガネ、もっと自分の『能力』と、機体を繋げるイメージを持つんだ。じゃなきゃ、キミ、このまま死ぬぞ」

 司令官たちのやりとりのなか、既に発生していた、マガネのヒューヒューとした息づかいの細さは、とめどない鼻血すら伴って、更に深刻度を増しているかのようだ。


『わーってるってば~……』

 ただ見た目の悲壮感とは裏腹に、不敵な言い様の答え方で、マガネが操縦棹をガコンと動かすと、ギガンティスはよろよろと立ち上がる。

『にゃあああああああ!!』

 そして、独自の威勢も勇ましく、赤い機体は動くには動くのだが、それはどうしても、雄叫びの割には精彩を欠いた動きとなり、使者から触手のような腕が殴りかかってくれば、あっけなく再度、投げ飛ばされてしまうのだった。


「……早すぎたんだ!」

 先ずは司令塔の席に着席するトマスがくやしげにつぶやいた。

「せめて、アストゥラピのチャージに全集中できれば……!」

 そしてゼロツ―は続ける。

「マガネ……!」

 アストゥラピとは、青い瞳の乙女も見た、彼の機体の必殺技のことだろう。ただ、マーブルは友の名を呼び、各自とともに、モニターを見つめるほかない、と、思った、そのときだった。


 ふと、手探りをすると、この施設に来るのにあわてて着込んだ服装の、ショートパンツのポケットのなかには、圧縮カプセルが入っていることに気づいたのだ。また、

「ガウ! オレ、マガネ、タスケタイ!」

 などと、すぐそばで、自らが作りし人造人間の恋人までが、感情を爆発させた、そのときには、天才乙女の手にしていたカプセルのボタンは押されていて、途端に現れたのは、使い込まれたマーブルオリジナルのバイクなどとともに、転がったのは、白色をした、この街でインターフェイスなどと呼ばれてるものと酷似した、マーブルの発明品ではないか。


 もはや、マーブルに迷いはなかった! 颯爽とバイクにまたがると、頭には白色を取り付け、エンジンをふかせば、それは轟轟として呼応する! 既にゴーグルを首にかけテトに振り向くと、

「テト! 乗って! マガネを助けにいくわよ!」

「ガウ!」

 かくして、二人はいざ、救助へ、向かわんとした、その刹那だった。


「これを!」

 言って、ゼロツーが投げたものを、マーブルがナイスキャッチにすると、それはインカムだったのである。


「どいてどいてどいてー!」

 そして全てを装着したマーブルが、後部座席にはテトを従え、彼らを乗せたバイクは地下に伸びる通路から、一気に戦火渦巻く地上へと飛び出していくのだった!


 ここからは、三人による連携プレイの見せどころである。いつしかのデジャブが如く、夏の街の青空には、身体能力をフルに活かしたテトが跳躍し、人造人間とシンクロしたマーブルの的確な指示が相まえば、巨大な物体からしてみれば、子バエ程度の五月蠅さしかないはずなのに、その一撃、一撃の重さがひどければ、苦戦、といった様子だった。

 ただ、使者の回復能力は高い。そんななか、司令室からもゼロツ―などから次々と軍事作戦が打診され、それは機体内部に有るマガネのみならず、インカムごしのマーブルにも共有されていけば、前線をテトたちに任せたギガンティスの赤い機体は、やがて、両腕を交差させると十字架を作り、ただ、そのときを待つ!

『ギガントパワー、チャージ完了!』

 スタッフからは報告が上がり、既に、そのときにはギガンティスの腕は、光を帯び始めている!


『よし! いいぞ!』

『マガネ、今だっ! アストゥラピ光線の使用を許可っ! コアに向けて放つんだ!』


 司令と副司令の声すら交差し、やりとりを現場で見ているマーブルも、さすがの迫力に思わずゴクリと唾を飲み込むと、

(テト! 退いて!)

 と、思念を送った。

『……仰せのままに~……お・ね・え・さ・まぁああああああ!!』

 そして、小さな影のようなテトが、宙を舞うように目標から遠ざかった刹那!

 赤い巨人は一際に光を帯び、それを打ち放つのだ!

 かくして、クロスのエネルギー波は、目標のコアなる箇所に見事命中!

 使者は十字架となり断末魔をあげるほかなかった!


 インカムごしでは、地下からの歓喜の声が次々と沸き起こるなか、ジェリコの街は、気づけば真っ赤に染まる夕暮れどきだった。


「……ふぅ~」

 と、一息いれる青い瞳の乙女のもとには、残骸だらけの街中を、テトがまっしぐらに駆け寄ってきている。また、

『……ふぃ~』

 と、似たようなブレスが、通話ごしには漏れると、勇壮なポーズをしていたはずのギガンティスは、ままにそこに尻もちをつくようにしてしまった。

 その振動に、「マガネ?!」などと名を呼び、途端に友の心配がよぎるのは、マーブルにとって当然のことで、人造人間が彼女の元に辿り着くが否や、アクセルを踏み込み、後部座席にテトを従えたマーブルのバイクは赤い機体の元へと駆け出していた。


 無論、異常は、直に、司令本部にも伝わっているというものだ。ただ、トマスやゼロツ―が語りかければ、今回のマガネは意識を飛ばすこともなく、のらりくらりと答えているようで、こういうとき、情報の共有というものは大変便利で、マーブルもゴーグルの視界越しに、ほっと胸を撫でおろした。が、

『これだけの拒否反応がありながら、このシンクロ値か~……』

『……そして、この適応力、あのコの素質は凄いネ』

 と、いった、それらはきっと、個人的に二人で語っているのだろう、司令と副司令のやりとりには、なにか、ちょっとした胸騒ぎは感じずにはいられなかったし、それでも気を取り直して、機体に辿り着く頃には、プシューとした音をたてて、首筋からは、パイロット席へと連なるカプセル状の突起が飛び出し、そこからはテトに抱えられて、マーブルは友の元へと駆け寄ったのだ。


 満身創痍として現れた友は、その姿の割にいつも通りの飄々とした受け答えである。そうすれば、マーブルのなかによぎった多少のさざ波もどこかへいってしまうかのようで、実際、それは、夏の夕暮れにおきた一筋の風に彼女の髪が揺れれば、消え去ってしまった。

 ふと、髪をおさえるようにして夕陽などを眺める青い瞳の微笑みの横顔を、ジッと見つめたのはマガネだった。そして、

「……あのさー、マーブルー」

「んー?」

「んー……なんでもないっ」

「なによー! あ、救護班、来たわよ! おーい! こっちー!」


 そして、地下施設から次々と繰り出されてきた救急車等の白い群れたちに、屈託なくマーブルが手を振り、ナビをするのを、マガネはもう一度、ジッと見つめたりするのだった。

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