最後の四人目

「それでは、改めて、お二人に紹介しま~す。こちら、私のシン・パートナー、椿紅・アスカ・イェフォルガーちゃんでーす」

「なによっ。前にもいたような口ぶりじゃない」

「まあまあまあ~。この『シン』にはいろんな意味があるわけで~」

「ふんっ」


 こうして部屋では、まるで、ダブルデートのカップルが対面しているかのように、マーブルとテトが、これまで散々、二人で情事を重ねたベッドの上に座していれば、背もたれの背中が見えているソファに、マガネは膝を折り、まるで逆向きなようにして座るすぐそばで、アスカは、その背もたれに寄りかかるようにして、足を組んでいた。

 二人が、そこでは前夜、人造人間による自慰行為が散々行われていたことは知らぬが仏かもしれないが、今や、マガネたちよりも難しい年頃かもしれないアスカは、黒い者の一言、一言にも逐一くってかかっては、そっぽを向くのは恥ずかしさも余計だからだろう。


「……そんな、怒んないでよ~」

「あ……ん……っ」

 ただ、慣れたふうにマガネが、そのガウン越しに、頬ずりをするようにし、隙間から手を差し伸べていけば、ビクリとした反応とともに、アスカの雰囲気は変わっていく。

「……私、アスカ、食べなきゃ、干からびて、死んじゃう~」

「も、う……おおげさっ……ふ……んっ」

 そして、囁きながら、今や、マガネの蛇のような舌は、アスカの首筋を這わんとしていた、そのときだった。


「こ、こらっ! テ、ト……っ! あんっ」

 唐突な悲鳴に、ふと、マガネとアスカが視線を移すと、そんな二人の姿に触発されたテトが、ハッハッと口元を緩ませ、野生の本能をムクムクとさせつつ、「シンジャウ……シンジャウ……!!」と、マーブルのガウンの中に顔も突っ込む勢いでいたのだ。


 ただ、すっかりテトの女となってしまったとはいえ、マーブルは人造人間の主でもある。意志よ強く持てと言わんばかりに、アスカに負けず劣らずの鮮度の青い瞳をカッと見開くと、

「テト! ステイ!」

「ガウッ!」


 その一言でテトを黙らせ、ハァハァと頬も赤くしながらも、今度、マーブルは、未だ、二人の世界に入りかけたまま、見たことない目の前の光景にも視線を送っていたマガネとアスカを見返すと、

「もーう、うちらのことも考えてよねーっ。特にテトはおぼえたてなの! いいこだけど……わたしたちと違って、まだまだこどもなんだから!」


 そして、アスカと同じガウンの着崩れを直しながら、途端にベッドの上で正座すらしたテトが様子を伺うようにすれば、その頬を撫でてやり、遂には、やりとりの果てに「えーい、ほんっと、いいこなんだからー! ぱふぱふーっ」などと、直した矢先というのに、とうとう、上半身をアスカよりはだけてみせてしまう始末だ。


 先刻まで盛り上がっていたのが嘘みたいに、興味津々となったのはマガネとアスカである。


「えっ……まあ、いまさら、聞くまでもないことだけどさ。要するに、そういうこと、だよね?」

「んー? なにがー?」

 流石に言葉を選ぶ親友に、テトにぱふぱふをし続けるマーブルは、どこまでも屈託がない。


「そ、そういうのは、二人のときに、しなさいよ……」

「いいじゃなーい。女しかいないんだしー。だって、わたしの子、やっぱ、いいこ、なんだもーん」


 今度は、そんな親友の餌食にされかけてた新たな乙女が苦言を呈するが、同じガウン姿とはいえ、天才の屈託のなさは底抜けだ。


 ただ、自ら言っておいて乙女も「……女? そっか!」と、なにやら気づいたようだ。その金属だらけの面頬の顔面で、どう楽しんでるのかも計り知れないが、自分の制作物が、その豊かな胸の合間で、夢現としているのを見下ろすと、

「テト!」

「ガウッ……?」

 一度、奉仕をやめたマーブルは、改めて、ガウンを着直し、突然の解放にテトは、少し不満げとなったかもしれない。


 ただ、青い瞳は、人造人間の闇の中に光る眼をじっと見上げるようにすると、

「これまでも散々聞いたけど~……ずばり、テト、あんた、わたしのこと……すき?!」

「……スキ……ダイスキダァッ」

「わたしもっ! 大好きっ」

「ガウッ」

「なら、わたしたち、付き合っちゃおうーっ」

「ツキ、アウ?」

「よーするに、テトはわたし公認で、ぱふぱふもへろへろも、きょいきょいも、いんぐりもんぐりもできちゃうってことっ。……って、まあ、もう散々してるけどさー」

「ガウッ! ツキアウ!」

「イェーイっ!」


 そして、なんだかマーブルは大盛り上がりだったが、今や、唖然と二人のやりとりを眺めていたマガネアスカコンビにはお構いなく、

「そんなわけで~、わたし、『はじめての彼氏』、できちゃいましたーっ」

 などと、とうとうピースサインまで送りつけてくれば、それには、「全く……言い方よ……」などと、流石のマガネもやれやれといったところだったが、


「そんなこと、とっくにわかってるよ~。てか、これまでも随分、楽しんだみたいなんだし、別に今更、それ、必要~?」

 と、呆れたふうにたずねれば、

「……わかってないわねー。テトは人造人間~。ロボットじゃないの! 心があるの。わたし、前に言ったでしょー? テトには、この夏休みの間に、いっぱい、心を育ませてあげたい。ってー。だったら尚更! 人の心のプロセスは大事! まあ、まさかわたしが恋人になるなんて思いもしなかったけどさー」

 と、青い瞳は力説して返す。


 マーブルの力説には、「……その言い方だと、恋人ってより、まだまだ母子って感じだけどねー」などと、マガネは皮肉のひとつも返したりしていたが、そんなマーブルと、また、テトの方をジッと見て、

「心……」

 などと、もう一人の青い瞳が、ポツリと呟いたことには、いつもの三人のやりとりと化した各自の耳にまで届かなかったのだ。

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