二人のシンクロ
エレベーターやエスカレーターの複雑な通路の道のりを伝い、マーブルやテトを引連れ、白い軍服のコートをひるがえした桜色の長い髪が入室した自動ドアの一室は、一気に巨大なモニターがあちこちに並んでは、オペレーターたちが各々の席でやりとりを繰り返す、切迫した司令室という名の空間であった。
「戦況は~」
そして、ふと、チュッパチャプスなどをくわえたゼロツ―がモニターなどを眺めながら、仁王立ちにして訪ねるようにする。
「はっ。警戒観測領域に、強烈なエネルギー反応を確認! 現在、データ分析を急いでいます!」
「波形、『使者』反応を確認! 画像、きます!」
地球人に人外の型も含めた、数々の型の人々は作業に追われながら、仁王立ちの副司令に振り向き、報告を告げていく。そして、赤い大地に、こちらへと進もうとしてくる、巨大な黒い巨人の首のない体形には、埋め込まれたようなドクロが、ふたつ、みっつと覗いているのだから、その場には、誰ともなく、動揺の声がもれてしまうのもまるで日常のことのようだ。
と、そこで、このただたらぬ空間の一室のなかでも、奥まった箇所は突起のように突き出ていたりしたのだが、その更に天辺に、急に座席に座った男が、肘を机に置いたまま、重ねた両の手で顔を隠すようにして現れると、それは丸眼鏡の奥の目も眼光鋭き、本庄司令であったりしたのだが、彼は、一度、ため息でもつくようにすると、
「総員第一種戦闘配置~」
と、うんざりでもするように口ずさむのだった。
「……防衛ライン隊はすぐに展開だっ。ギガンティスは?」
そして、そんなトマスの姿をふと見上げたゼロツ―は、きびきびと指示をだしていく。
「ライン隊、各拠点にて配置完了。そ、その、ギガンティスなんですが……」
「どうしたー?」
「起動できておらず、その……尚、シンクロ作業を継続中!」
「えーまたー?」
「目標、防衛線侵入!」
「迎撃開始だー」
スタッフたちからの報告にゼロツ―がうんざりでもしたかのようにした刹那、トマスの一声によって、巨大モニターの向こう側では、次々にレーザー光線が放たれる。
だが、すぐさま、巨大生物からの物理的な踏みつけなどの攻撃や、口や手の先から放たれる光の波動を前にして、軍の装備はあっという間に、次々に崩壊していき、それらを、やや悲鳴にも似た報告で、各隊員が現状を告げていくなか、
「アスカ、どうしたー?」
とりあえず応じながらのトマスは、ふと、声をあげ、すると、モニターには、ハアハアと息も荒くしている、軍服乙女のコックピット席の姿が映し出されたりしたのだが、
『も、問題ありませんっ! も、もう少し……』
そして、長い髪にある赤い髪留めに託すように、アスカは俯くものの、
「……起動点まで、上がりません」
スタッフのひとりが呟けば、空気は一気に落胆の色合いが室内を漂っていく。
「……ねぇ、ダーリン、やっぱ、これ、また『拒否反応』なんじゃないかなあ?」
「ん-……」
そして、語りながら、ゼロツーは、トマスのいる司令の一席へと連なる階段に足を向けた、その時だった。
『フランクス副司令っ!』
「んー?」
『……だから、軍規に関わるっ! 任務中は役職名……!』
「うっさいなー。キミははやくシンクロさせてみろよー」
『……っ?! 言われなくたって……!!』
ただ、いよいよ、ゼロツ―が、トマスのすぐ隣にすら寄り添うようにして、着席する彼のすぐ隣に立ってみせる頃、ハアハアとアスカが息遣いも荒くする声が、室内には響くなか、
「だめです……40地点、及び、50地点で、原因不明の負荷がかかっているようです」
「目標、第二次防衛線、突破!」
スタッフたちは、報告を続け、モニター画面には待ったなしの状況が続いていく。すると、
「……よし。こうなりゃ、やったれだな。マガネくん。んなわけで、聞こえてるかい?」
「えっ?!」
「ガウッ?!」
トマス司令の一声には、これまで、この状況を呆然と固唾をのんで、ただ眺めることしかできなかったマーブルに、テトまで驚くほかなかった。そして、画面の一画には、『ほいほ~い』などと、黒いセーラー服姿が現れるではないか。
「ちょ、ちょい、マガネ?! あんた、なにやってんのよ?!」
『あ、マーブル―、やっほー』
ただ、驚く友の姿に手を振る黒一色は、まるで、そのカラーリングに合わせたかのように、その頭には、まるでテトを操るときのマーブルの白色、そしてアスカの赤に対し、それすらも黒い色をした髪留めのようなものが装着されているのである。
「……よし。インターフェイスは装着しているね。こうなりゃ、知ったこっちゃねぇ。実戦実験だ。今から、アスカの乗るギガンティスに一緒に乗り込んでくれ」
『あいあいさー』
『ちょ、ちょっと待って?! ト、トマス司令っ、それはどういう……』
「ダブルシンクロだよ。机上の話だったけどさ。なーに、彼女ほどの能力者なら、やれるかもしれねーって話」
『そ、そんな……あたし……!!』
『お邪魔しまっーす』
「じゃあ、マガネくん、専用設備の詳しいことは、そこにいるスタッフから聞いちゃってー」
『そんなの、絶対に嫌っ!』
ただ、流れるように話が展開されていこうとした刹那、それを遮るように大声を出したのはアスカだった。
『……此処は、あたしの居場所なのよ……! あたしだけの……!』
そして、うわ言のように呟けば、『お願い……動いて……動きなさいよ……!!』と、操縦棹をガコンガコンと動かすが、その音は、ただ、虚しく響き、やがて、外敵からの振動は、モニターのある地下深くまで響かんとしている。
「あのさ……ラストチャイルドくん。やっぱギガンティスは、乗り物になりきれてないのかも」
『…………?!』
いつになく優しい声音を出したのはゼロツ―だった。
「ボクたちが無理矢理改造したんだ。彼女は未だに怒ってるのかもしれないしさ……」
『……そ、そんなこと! こんなのただの乗り物よっ!』
「椿紅大尉ー!」
そして、ゼロツ―の語りにアスカがやり返そうとした刹那、遮るようにしたのは、最早、丸眼鏡の奥の眼も一際に眼光を鋭くさせたトマスだったのだ。
「どうでもいいから、はやくしてくんね? 『使者』、迫ってんの、わかってるよね? おめーさ……てめーの駄々で、カムイになんかあったら、おれ、一生許さねーよ? おめーのこと」
『トマス……先輩……』
丸眼鏡の向こうの眼は見開き、一気に言い切ったトマスの物言いには、アスカは呆然と見返すのみだったが、
「ダディ……」
「いやいやいやいや。こりゃー、前のときみたく、ぜったいカムイ泣いてるっしょー」
と、トマスの肩にゼロツ―が手を置くようにすれば、後のことは、まるで、夫婦でしかわからない会話は続き、尚、そんな二人の姿を前にしてアスカは呆然としていたが、
「これは命令ー! ほい! カプセル、一時解放ー! マガネくん、乗っちゃってー!」
こうして、コックピット内には、やがて、アスカの乗る席のすぐ隣に、マガネが座る席が設えられてる姿となった。
尚、唇を噛みしめ、くやしげにしているのはアスカだったかもしれない。ただ、そんな空気を察したマガネが、
『……別に、キミのパイロットの座を乗っ取ろうって気じゃないよー?』
『……うっさいっ!』
『この子、もともと、女の子だったっていうしさ……私がやることはー……いやよいやよも好きのうちってな話っ』
『……は、はあ?!』
「二人ともー。ダベリ、ストップー。じゃあ、シンクロいってみようかー!」
そして、トマスが指示をだすなか、ゼロツ―が、「ダブルシンクロなんて……まさか、目の当たりにするなんてね」と呟き、トマスがそれに頷いていると、やがて、アスカもマガネも共に目を瞑るひと時が過ぎ去っていったが、スタッフの「ダブルシンクロ値、急上昇……!」といったアナウンスも流れると、
『……あんた、これ、ほんとう?! だって、こんな……そ、そんなことって……お母さんでしょ?!……あんたの……!!』
『……え? ま、まあ、ね。へぇ……こーりゃすげー……』
一度、プハーと息を吐くようにして、アスカが目を開き、隣を振り向けば、そんなマガネは柄にもなく、相手の顔も見ずに恥ずかし気にしていたりする。
「……これ、もしかすっと、記憶共有現象、か……?!」
「……だね。特にこの場合、甲パイロットに対する乙対象の情報量の流入は、一際、だっけ……」
そんな二人の姿に、考え深げにトマスは呟き、ゼロツーは答えていたが、時間は待ってはくれず、室内への振動は更なる振動を連れてくるようだ。
「……まあ、なんでもいいや。めんどくせー……! 頼むー!」
ただ、流石に飄々ともしられない、というのが、司令官の本音だったかもしれない。いよいよ笑みもひきつってくると、副司令は、そんな姿をじっと見つめてあげるようにしていたが、「シンクロ値、上昇開始! ものすごいピッチです!」と、スタッフの一人が朗報を告げるように言い放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます