ツンデレの少女
マーブルたちの前を歩くアスカの長い髪は揺れながら、自ら手にする端末の画面なども覗きつつ、未だご機嫌は斜めといった様子である。
そして、この地下施設のなかをいく人々の格好は、トマスやアスカと同じ、太陽系を出自とした制服が目立ちはしたものの、ある者は、ゼロツーのように、違う軍服であれば、その姿すらも地球人とは言えない人々も入り混じり、なかには白衣を着た者たちまで忙し気に歩き回っている、といった具合だった。
また、アスカと顔見知りのような人々が、時に鼻の下を伸ばして、彼女にコンタクトをとろうともするが、そこには軍隊らしい敬礼もなく、やけにあっさりとしたフランクさも特徴的だ。
そして、ひとしきり、端末の画面を見終えたアスカは、「……ったく、司令は、優しすぎるのよ。ほんと、バカトマスなんだから……」などと、ひとりごとのようにもしたのだが、そこで、くるりと振り向くと、後をついてきてたテトの姿などを見上げ、
「……まあ、あんたの尺じゃ、あたしの車、乗れないし~?」
などと、手を腰にひとつため息などつけば、
「あー。アスカ、ちゃん? の車、軽? なんなら、わたし、バイクだそうか?! わたしの船の圧縮カプセル、もってきてくれたらー……」
「気安く呼ばないでっ!」
そして、せめて親し気にしようとしたマーブルの笑顔には、途端に険しくアスカは切り返し、それには、「あらー……」と、マーブルがキョトンとするしかないなか、そんな軍服が振り向くその刹那まで、その臀部などにいつになく釘付けとなっていたマガネなどが、もはや少しハァハァとして、舌なめずりにニヤニヤしていたものの、剣幕には、「わーお」と、両の手を上げてみせるのだった。
「いーい? あたしのことを名前で呼んでいいのは司令だけなんだからっ」
その一言などには、マガネが途端に白けたようで、「……けっ」と付け加えたものの、それにもピクリとアスカは反応しつつ、
「……あんたたちの荷物は、既に、宿泊施設に輸送済みよ……ついてきてっ」
こうして、またもや、可憐に髪をひるがえした姿に、マガネはニヤリとしはじめると、「いやいや……ねぇ、マーブルー、あの子、ぜーったい、私たちがなくした若さがあると思わない?」などと、友に耳打ちし、青い瞳が、漸く、その横顔に真意を見て苦笑交じりに何か言ってやろうとした刹那、
「ねぇ、ちなみに、お姉さんたちは十六歳なんだけどさー。キミ、年、いくつー?」
と、マーブルの肩に手をかけながら、黒いセーラー服は興味津々としているのだった。
軍服乙女は、もう一度、振り向き、顔は険しくしたが、
「今年、十四よっ! 年なんて関係ないでしょっ」
などと言い切ると、更に道をふたたび進もうとしはじめる。
とうとう、マガネは、「え? じゃ、まだ十三……?! それで、あれだけ美味しそうとか……もう……罪じゃね……!!」と嬉々として、ふらりふらりと後をついていこうとする姿は、まるで闇夜に獲物を尾行する、妖しい妖怪女と化していたが、そんな友に、「ちょっと~。マガネ―、流石に子供じゃなーい。わたしたちも、もう十六なんだからさー」と、とりあえずの忠告をしようと歩き出したものの、
「ママ……アノ、アスカッテヤツ、ナンデ、ズット、オコッテルンダ?」
と、更に従うテトが口を開けば、マーブルは、「そうね~」と首をかしげるしかなかったものの、すっかり、ふらりふらりと妖しい喜びの舞いとともに歩き続けるマガネなどが、そんなテトにクルリとすると、
「少年~、わかるかな~わっかんねーだろうな~。これが俗にいう属性がツンデレってやつなんだよ~」
「ツンデレ?」
聞き慣れぬ単語に人造人間は首をかしげたところで、「いいかげんにしてっ!!」と、何度目かの振り向きと共に、アスカはマーブルたちを睨みつける。
「さっきも言ったでしょっ?! もう、十四になるんだから、あんたたちと変わんないっ!! なめんじゃないわよっ! それに、あんた、名前で呼んでいいのは司令だけって話、聞いてなかったの?!……で、その共通語は、ど、どういう意味よ?!」
「えー?」
次々と繰り出す剣幕には、マーブルやテトは瞳もパチクリするしかないといった心境だったが、最後の、質問にも似たニュアンスとともに、アスカの目が泳ぐのをマガネは見逃さなかった。ただ、それでも、しまいには、軍服は、黒いセーラー服を睨みつけると、
「あたしの祖国はドイツなの! いくらあんたたちが元宗主国だからって……ここの開発の半分のInitiativeは、あたしたちなんだからっ」
これがドイツ語訛りの銀河共通語というものか。少女は負けん気だけ其処に置いて、もはや、過ぎ去っていくかもしれない勢いだ。
「あ~ん。待ってよぉ~」
そして、その反応のひとつひとつに逐次気に入ったという様子のマガネが、顔も上気させ、まるで、金魚の糞と化していれば、マーブルは、やれやれとひとつため息をつくと、テトを見上げ、
「テト、いこ」
「ガウッ」
と、促すのだった。
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