わからぬ真相
「……ま、ともかく、ばれちゃったんなら、しょうがあるめー! ようこそ! この不毛なる大地へ!」
そんなふうにして、ブフォ! と笑うと、トマスは、もう一度、ギターを握り、ジャラーンとそれを景気よくかき鳴らし、マーブルたちに笑顔を贈った。
「ガウゥ!」
椅子をガタガタと揺らし、途端に、興奮気味にそれに応じたのはテトである。
「……おーう、『マーブル作品』ー。名前はテトだったけかー人造人間なんだって?」
「え、うん」
「名づけ親はもちろん、マーブルお嬢なんだろ? あー、そいや君のとこ、大昔からテオっていたよな? 弟分的なネーミングってやつ?」
「えー? まあ、この子、テストタイプだし。それで、略したら、テト、みたいな?」
「へぇ!! これで、テストタイプ、ねー!」
マーブルの説明に、おどけながらも丸眼鏡の向こうの眼が一瞬鋭く光った、その時だった。
『本庄司令……ゼロツー副司令と、その、カムイおぼっちゃんも来られましたが……』
室内には、兵の声が響いたのである。途端に表情を変えたトマスは、「通しちゃってー」などと答えると、自動ドアは開き、すぐさま、「ダディー!」という声とともに、子供が踊りこんでくる、軽いサンダルのタッチの足音が響くではないか。そして、そのあとすぐに聞こえたのは、
「こらこらー。ダディはお仕事中だぞー。走らないー」
と、現れたのは、首元は黄色いネクタイを締め、全体は赤を基調に、下にかけてはスカート状のデザリングとなっていれば、長い足は黒タイツを帯び、そんないでたちの上から羽織る白色のコートも含めた軍服姿で、更に、頭にかぶる軍帽すらも白色とくれば、それは明らかに太陽系の部隊とは違う、桜色の長い髪も麗しい、切長の翠色の瞳をもった、身長は長身なマガネよりも尺のありそうな美女が、口にはチュッパチャプスをくわえながら現れるではないか。
羽織るコートからも溢れんとする、軍服の曲線のラインも大きな半円を胸部が描いていれば、節操のないマガネの顔もニヤついたものだが、そんな視線にも気づかない軍帽の乙女は、まっすぐにトマスの元まで歩いていくと、
「あー、ダディー、こんなに煙草吸っちゃってー」
と、司令の目の前の机の上の吸い殻に呆れた顔をする。そして、丁度、着席していたトマスの姿に密着するように自分の体を押し付けると、慣れたふうにトマスの頭を一撫でといったところだった。
「……や、ほら、この任務、やっけーやし~……どうするかねーとか、思いつつだったからよー、つい~……」
次に、美女が、男の首回りを撫で始めると、更に露とするようにしながら、トマスは夢現といった顔で、どこの方言かもわからない口調で話し出す始末だ。
「だから、ボクがいくっていったじゃないかあ~。もう、お家、帰るまで、ダディはこれ吸ってな」
そして、美女は、自らの口のなかにあったチュッパチャプスを、えいやとばかりに、トマスの口のなかに放り込むのだった。そうしておいてから、視線をマーブルたちに移すと、
「……で、なるほど、キミたちか」
などと、呟いたところで、トマスも「……そういうこと。錚々たるメンバーだよな」などと付け加えたのだが、
「ダディ、くさーい」
と、あどけない声がテーブルの影からあがれば、今度、トマスは、「あー、ごめんなー」と、吸い殻をディスクの隅に追いやり、ギターを床に置くようにして、屈むと、ひょいと抱きかかえられたのは、翡翠と黒目のオッドアイをした幼児が彼の膝に乗っかり、
「……はい、お姉ちゃんたちに、ご挨拶」
「こんにちは! 本庄カムイです! 四歳です!」
慣れているといえば、司令と呼ばれる男も、子供の扱いには慣れているといった雰囲気であった。
そして、そんな仲睦まじい様子を目の前で見せつけられながら、マガネなどはなにやら悔し気に、「ちっ」と舌打ちを打ってみたり、テトは、「スキスキ……?」などと首をかしげたりしているなか、マーブルは、「どもー」と答えつつも、カムイと呼ばれる幼子の赤茶色をした柔らかそうな頭髪からは、白い角が一本、にょきっとど真ん中に生えているのを、それとなく見つめると、
「恐れ多くも、君のご先祖様の名前を拝借したよ。おれ自身もハーフだけどさ。息子、カムイは更にハーフなんだ。おれと彼女のさ」
そして、ふと、トマスが目くばせしたのに感づいたかどうかのタイミングで、司令に寄り添うようにしている美女が、「よっと」などと軍帽をぬいでみれば、そのロングヘアーからは、白いヘアバンドで象られているようにして、赤い角などが二本生えている。
「そんなわけで、ここに集ってるのは、うちら太陽系連盟軍ばかりでもないわけさ。有志の集いとでも言うんかね。彼女は、ごらんのとおり、よその軍だし、宇宙人だったりもするんだな」
「やあ!」
「彼女の名は、本庄ゼロツ―、ここ、対『使者』専用前哨基地都市『ジェリコ』の前線管理隊副司令、で、名前の通り、おれのワイフだ」
トマスは紹介し、ゼロツーと呼ばれた異星人の美女は、トマスとともに、彼の膝の上にいるカムイの頭を撫でながら、マーブルたちに挨拶をする。
されたマーブルたちのなか、マガネなどは、「むむ、やはり人妻かっ……ガッデーム……」などと、いよいよ突きつけられた現実に、更に悔し気といった雰囲気であったが、相変わらずテトは「スキスキ……?」と首をかしげ続けつつ、当のマーブルでさえ、「ジェリコ……?」と、それはどこかで聞いたこともある大昔の宗教の一節くらいの博識がせいぜいといったところであれば、「……と、いったって、なんのことやら、だよなー」などともトマスは続けると、机上の端末をなにやら操作した後、
「あー。おれー、メディカルチェック終わったら、椿紅大尉、こっちよこしてー」
と、どこかに連絡している様子だ。
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