不可思議な街

 いつ発射するかもわからないレーザー銃を向けられてしまえば、これではいつかの再来のようではないか。ましてや、今回は、皆、ヘルメットも厳めしい、迷彩柄をしたブルーグレーの軍隊の迫力である。


「……ひぇええ……」

「はは、みんな、おっかないにゃー」


 強烈な既視感をよぎらせつつも、すぐさま、マーブルは両の手をあげ、こういうときのマガネは本当に度胸がいい。と、

「ガウア!」

 と、相手を威嚇したのはテトだ。途端に、兵士らしき者たちはガシャガシャと銃口を構え直すようにして身構える。すかさずマーブルは、「テト! 落ち着いて!」と指示をだしたが、それまで睨みつけるのみにしていた赤い髪留めの軍服の乙女は、「まるで、ギガみたいな形状……」と、呟いては、自らの機体の手の上から降りると、マーブルたちに近づき、先ずはテトを観察するようにすると、


「……でー? あんたたち、避難に逃げ遅れたってわけでもなさそうねー」

「う、うん。ちょっと、地球から旅行してたら、ガス欠くっちゃって……」

「地球?!」


 マガネが下品にまでニヤリニヤリと眺めてくる視線には、その意もわからずといったふうに一瞥のみとした軍服乙女は、マーブルのひきつった表情の状況説明には、途端に振り向き、刹那、長い髪がひるがえれば、それを嗅いだ黒いセーラーに「ん~いいにお~い」などと呟かれると、流石に、少しはギョッとした顔でもしただろうか。ただ、マーブルの頭の上に、色違いとはいえ、自分のものと似たようなものが取り付けられているのを発見すると、今度は、それをしげしげと眺め、

「……それはー?」

 訪ねてくる少女が目の前にたったとき、それまで、立派なその軍服のせいで気づかなかったが、マーブルより少々小柄をしたその姿は、十六歳である彼女たちよりも更に少女であるような実感をマーブルは覚えた。


 ただ、今は、自分たちが危険分子ではないことを明かすことが先決であろう。まるで青い瞳を持つ者同士の仲間でもあるかのように、つとめて笑顔をマーブルは取り繕うと、


「あ、こ、これ?! これはねー。そこにいるテトっていう、これ、わたしが作った人造人間なんだけどー。この子を、例えば……よーし。ちょっと、待ってねー」

 そこで、一瞬、マーブルは念じるようにしたが、すると、たちまち、それでも身構えていたテトが、突然、気を付けをしたと思ったら、そのままガクンとおじきをしてしまうではないか。


「ガウア?!」

「はーい。みなさん、どーもー。こんにちはー。と、まあ、こんな具合にね。遠隔操作、って、わかるかなー? こんなことをしたいときに使うって、いうかー……」


 突然の有無を言わさぬ強制操作に人造人間は従わざるを得ず、自分より少し年下と思えば、マーブルとしてはただでさえ普段から砕けた物言いが、更にフランクになる。


 だが、ペチャクチャとマーブルが弁明をつづけるなか、その同じく青い瞳ではあったが、それを終始険しいものにしていた方は、マーブルの説明に、「人造人間……?!」などとも口走ると、その後に行ったマーブルの遠隔操作のデモンストレーションに、

「これ……インターフェイスじゃない! あんた、この技術をどこで盗んだのよ?!」

「は、はあ? インター……? え?」

「まさか、機密漏洩してたなんて……! それに、此処は強力なセキュリティで見えないはずなのよ。なんで、関係者でもない、あんたたちの船が入ってこれるのよっ」

「や、やー。わたしの船のモニターに、普通に映ってたよー?」

「そんなはずないわよ! ますます怪しい……っ! ましてや、あたしでもないのに、『使者』を倒しただなんて……!」


 長い髪をひるがえす乙女の顔は更に険しくなり、それに呼応するかのように、周囲の兵士たちの銃口も、ガシャリガシャリと改めて響く。

 マーブルとしては、「ちょ、ちょっとー! タンマタンマー!」などと、今や、腕を組み、こちらを睨みつけている軍服姿に、意味もわからず慌てるしかできなかったが、


「……ほーい。椿紅大尉どのー、そして、皆皆の衆ー、そこまでだー。なーに、相手は、銀河中に名が轟くオタカラコーポレーションの御令嬢だぜ。天才さんたちにゃ、そうそう勝てんって」


 そして、肩などは金の装飾も輝かしい、皆と等しくブルーグレーをした軍服を着た、スラリと背も高き、茶色がかった、伸ばしっぱなしの髪の毛を乱暴に後ろ手に丁髷風にまとめた青年が、くわえ煙草に現れると、兵士の姿は一斉に直立をし、大尉と呼ばれた少女もそちらに振り向けば、

「ほ、本庄司令……」

 と、呟くようにしたのだが、その表情の変化に、聡いマガネなどは、猫背に近づいてくるくわえ煙草と、軍服乙女を交互に見ると、「フンッ……」などと不満げに鼻を鳴らすようにし、イケメン好きのマーブルなどは、よく伸びている鼻筋などに、「あらっ……」と、ちょっとした喜びの声をあげたものの、軍など見慣れなくなって久しいご時世とはいえ、皆が皆、同じ色にまとまれば、その格好がときたま、我が家にも現れたことがあるのを天才少女は思い出すと、

(え? この人たち、太陽系連盟軍?)

などと、普段は温厚な自分の父親が、まるで、ハエでも追い払うように彼らにしていたことをもよぎらせていたのだが、


「まあ、あの『使者』を一体、倒してくれたんだ。むしろ大歓迎といったとこだけどさー……」


 煙草、くゆらせるままに、司令と呼ばれた男は語り続ける。と、先刻まで鳴り響いていたアラートのような音は鳴り止み、やがて、地下からは次々と、周囲の建物たちが音を立て伸び始めるではないか。


 その光景に、ふと、マーブルは、「……ビルが、生えてる……?」などと呟くようにしていると、

「此処で起きた一部始終を目の当たりにされて、はい、あざしたー。おつさまー。そいじゃさいならーってわけにもいかねーんだ。ご同行、願えるかな?」

 と、つづける声音は穏やかながら、切れ長をした、丸眼鏡の向こうの司令の眼は、マーブルにも、マガネにも、そして、テトにも、各自、鋭い注意深さが感じ取れるものがあった。

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