セカンド・アタック
巨体に比べれば、虫くらいの大きさでしかないテトであったが、持ち前の脅威の身体能力は、街にある建物の高低を活かして、跳躍力を高めると、一気に飛びつき、
「ガウォォォォ!」
という咆哮も勇ましく、拳を握りしめれば、その一撃は少ない箇所とは言え、相手の体の深いところまでえぐり、鮮血はほどばしり、突然の襲撃にこれにはたまらないと、巨体はテトを振り払おうとするも、勘よく避けた人造人間は、落下しつつも、またもや、近場の建造物に飛び移っては、それを足場に、拳闘に、ときに、華麗なる蹴撃技も繰り出すではないか!
「ガウォォォォ!」
「やー。すごいすごい。やるねー、あいつ」
「テトー」
もはや脅威の身体能力といっていい善戦に、マガネはもう一度、口笛をふき、マーブルは心配げにするのみだ。
ただ、この異常事態に気づいたのは、巨大生物ではなかった。軍用機の一機が、
『そこの君、なにをやっている! はやく避難しなさい!』
などと機体越しに訴えはじめたのである。
その後も聞き慣れぬ、どこかのヨーロッパらしき言葉でも訳されたようだ。ただ、「ガウォォォォ!」と咆哮の塊となったテトは聞く耳など持つわけがない。
「……やれやれ、に、しても、このままでも埒はあかなそうだにゃ……」
そして、マガネはボソリとひとりごとのように口を開いた。それはささやかな傷あとたちだが、テトが負わせた攻撃なども、巨大生物は、しばらくするとみるみる傷口が塞がってしまう様子で、黒服の友は、「しょうがにゃいにゃー……てか、じゃあ、こういうこと?」などとも続けたのだが、やがて、マーブルの方に振り向くと、
「ねぇ、遠隔のやつでさ。あいつのこと、一度、呼び戻してもらえる?」
「そうだ! その手があった!」
気が気でないマーブルとしては、ナイスアイデアと一度、宇宙船に戻れば、頭には白いワンポイントを両サイドに装着させ、すぐさま、戻ってくると、
「テトー! 戻ってきてー!」
と、それは、声にすらなって思念を飛ばすのだった。
やがて、四つ足で駆け戻ってきたテストタイプは、血みどろもあって、もはや野生のなかの野獣のようで、ハアハアという息遣いも激しい。
やけに爛々としてるふうにすら思える面頬の中の眼すら目の前にすれば、マーブルとしては複雑な感情を持たざるを得ず、八の字眉にして、青い瞳は何かを言おうとしたのだが、
「……少年、私と一緒に、あいつにとどめ、さすよ」
「はあ?!」
唐突に、マガネが切り出すのだから、驚くというものだろう。
「ちょ、ちょい、なにを?!」
「いいから、いいから。すーぐ、済むって。少年も、あいつ、倒したいだろ?」
「オレ、タオシタイ!」
「ちょっと、テト?!」
「だいじょぶ、だいじょーぶだからー。よーし。なら、少年、特別サービスだ。私をおんぶさせな……! そしてゴーッ!」
「ゴウォォォォ!」
予期せぬ反応の連続に、マーブルは差し挟む余地はなく、テトはマガネを背負うと、またもや巨大生物に向け走り出してしまうではないか!
「テトー! マガネー!」
こうなれば、強制的にでも帰らせようかとマーブルによぎる頃には、既に、いやというほどわかるほど、二人の姿は巨大生物に大接近をしていた。
ただ、ここからの決着はあっけないほど速やかなものだった。
抗するようにして伸びた、巨大生物の長い腕の上を、マガネを背負ったテトは器用にも走り抜けていく。そして、一際に、跳躍も見せた刹那、その、体内のなかに埋もれたようにして有る、ドクロの顔の真ん前に二人は現れたのだ。
(…………?!)
そこで、何が起きたかは、マーブルにもわからない。
だが、次の刹那、巨大生物は、自らの胸にはまるようにしてある赤い玉状のものを、自分の手で打ち砕きはじめるではないか!
と、そこへ、マーブルを覆うように、新たな巨大な影が、唐突に、彼女の上の夏の空を覆った。
(…………?!)
それは、青い空のなか、赤い色の映えた装甲で、在る。
(大型……ロボット?)
見識あるマーブルがそう思うや否や、向こうからは、「マーブルー!」と、テトに背負われたマガネが駆け戻ってくる。
と、今や、自傷のようなことを繰り返した巨大生物は、完全に自らの赤い玉を打ち砕くと、なんとそれは空に向けて、まるで、十字架状に大爆発をひき起こすではないか!
「きゃっ!」
「うわっ」
「ガウオ?!」
『あぶない!』
各自が驚いていると、咄嗟に赤い機体からは手が伸び、マーブルたちを爆風から守るようにしてくれ、外部音声のように響いた声は、まるで少女のようだった。
ただ、しばらくして、マーブルたちが互いの安否を確かめようとしようとした矢先、
『ちょっと、あんたたち誰よ!』
などと赤い機体からは、もう一度、声が鳴り響き、膝をおったような体勢の巨大物体の、頸椎部分などが、プシューとした音を立てると、そこからはカプセル状のものが飛び出し、中からは人がでてきたようだ。
そして「よっと……よっと」などと、器用にも機体の上を飛び降りていくと、丁度、マーブルたちを爆風から守った巨大な手の先に到着したその姿は、ネクタイもしっかり結ばれた、ブルーグレーの軍服を身に纏い、黄土色の長い髪と青い瞳をもった美少女が、両の手を腰に、厳しくマーブルたちを睨み、見下ろしていたのである。
それは、髪留めなどであろうか。まるで、テトを遠隔で支えるマーブルの白いそれのように、美少女の頭の両端にあるものは赤色なのが特徴的だ。
ただ、そんなことはマガネにとってはどうでもいいことかもしれない。
見上げる美貌が、軍服でもわかるプロポーションの良さと相まえば、
「マガネちゃんセンサー……キャ~ッチ」
などと、ニヤリとしたものの、今度は、瞬く間に、周囲には、銃口をむけた兵士たちが、マーブルたちを取り囲んでしまったのだ。
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