できない宣告
しばし、マーブルは、フィオナに、自らの作り上げた発明について講義をすることにした。
「へぇ……」
だが、フィオナは、口に手をやっては、しばし、考えるふうにはしたものの、あまりピンとはきていない様子である。だが、そんな膝の上のマガネなどは、
「ムムムー……そう思えば、少年には、この、ぜーんぶ、見せてやるもんかって気持ちになってくるんだから、不思議なもんだにゃ……!」
などと、寝っ転がっているフィオナの腿のすべらかな肌を、指先でそれらしくなぞるのだから、銀髪のアダルティーが、「ふ……うん……」などと、一気に熱っぽい愛おしげで見下ろしたりしてしまうのも致し方ない、といったところだろう。そして、黒セーラーは、
「んー! しょうがないっ。ここは『落としどころ』!」
などと決断を下すのだった。
マーブルとしては、もう、何度目かという親友の熱々な光景だ。ひとまずため息をつき、
「……じゃあ、そういうことでー。服は着せてあげてねー」
と、いって話をまとめ、しばらく経つと、尚、壁の向こうで待機していたテトの場所に顔をだし、「とりあえず……おいでー」と声をかける。
やがて、テトが自動ドアをくぐり抜けるようにすると、ベッドの上ながら、いつものクールビューティとばかりに、フィオナは、キッと、三白眼に、テトやマーブルを見つめ、
「中華人民共和国特殊開発星系第三管区警備長、フィオナ・リーです」
などとビシッと決めてくる。ただ、「……そして、私の食べ物でーす」などと付け加えるマガネは、黒いショートパンツは着用されたものの、先刻までは、そこからはタイツで覆われていたはずのフィオナの生足に相変わらず寝っ転がっていて、ノーブラであるセーターごしの膨らみの弾力を楽しむかのように鼻歌まじりに指先で転がし、「ん……ん……!」と、つい、声がでてしてしまうまま、その頭を優し気に撫でてやっているフィオナは、鉄仮面の表情ながら頬は真っ赤に、まんざらでもなさそうだ。
「こ、今回は、特例により、あなたたちを釈放することにします……!」
「ねーねー、フィオナお姉さまー」
「ん、ん……?」
そして、警備長として、なにやら形式ばった申し渡しをしたそうなフィオナであったが、マガネがその胸を弄びながら、どこまでも自由にしていると、とうとうつられたふうに見下ろす表情はすっかり愛おし気に切なげですらある。
「このスタイルだもんなー。フィオナお姉さま、ハーフ? 絶対、外人、はいってるっしょ」
「え、ええ。私はイギリスの……」
「やっぱりー! 名前も名前だもんねっ! マーブルと一緒だー」
フィオナの膝の上、マガネは旧友に明るく笑いかける。
笑いかけられたマーブルは、思わず目のやりばに困っていた。すると、ガシャン……ガシャン……と身を乗り出すように、マガネとフィオナに向かっていったのはテトで、二人の姿をまじまじと見つめてしまうのだ。
透き通った肌の上、マガネは、そんなテトに、いたずらっぽく、「えへへ~いいだろーう」などと、ニヤリとしたが、とうとう、テトは二人の姿を指さすと、マーブルに振り向き、
「マーブルママ……」
「ん、んー?」
「コレ、ナンダ……!?」
「…………っ」
一瞬、答えに窮してしまうのは年頃の乙女といっていいだろう。そして、クックックとなにやら面白げに肩で笑うマガネには一言言ってやりたくしながらも、気を取り直すようにすると、
「これはねー。膝枕、っていうのよー」
「ヒザママラ……」
テトは自分の言い間違いにも気づかず、興味深げである。そして、フィオナが、そんな人造人間の姿を瞬きを繰り返し眺めるなか、マガネに、ここぞとばかりに我が物顔に、豊かな胸を強く鷲掴みされると、途端に「ああっ!」と、強く反応してしまい、思わずのけぞり、尻もちをついてしまったのはテトだ。
「ガウッ!」
こうなっては、もはや、マーブルも黙っていられない。
「もーう! だーかーらー! マガネー! あんた、のぼせあがりすぎー! テトの前ではお触り禁止―っ!」
マガネがギャハハと笑うなか、ふと吐息をもらして、刹那俯くフィオナは、正に大人の色香、といったところだったが、それでも自らの膝の上でまどろむ、年の差も離れた愛しい者の頭への愛撫は忘れないままに、改めて、テトに視線をやると、
「なるほど。まるでAIにはない反応……」
「ねーっ! 私のマブダチ、すごいっしょ?!」
「ええ。こういったものを製品革新というのかしら」
マガネが友の自慢をするなか、フィオナはポーカーフェイスを決めようとしつつ、テトをしげしげと眺めている。
マーブルは、「そんな大袈裟なふうには考えてないけど~」などとしながらも、
「わたしたちは、機械に頼り過ぎてたと思うの。だからー、この子はー、血の通った、わたしたちの新しいパートナーなのでーす」
と、いつぞや言ったようなことを、フィオナにプレゼンしてみせる。
マーブルの屈託のなさを前に、フッとした笑みを浮かべたのは警備長であったが、
「若いっていいわね……ただ、この機体に関しては、ロボット、ということで処理しましょう。あなたたちはわからないでしょうけど、ここは生き馬の目を抜く世界なの」
語るフィオナの顔は、刹那、大人の愁いも帯び、目を伏せたが、「だからー、フィオナお姉さまだって、充分、若いってーっ」と、懲りずにマガネがその胸に手を伸ばせば、途端に、「ひゃんっ」と大声をだしてしまうショートボブは忙しい。
「だからー! テトの前で、あんま刺激的なことすんなっ!」
またもやテトが驚くなか、とうとうマーブルが顔を真っ赤にして怒ると、詫びをいれながらも、マガネはギャハハと笑っている。
「…………」
フィオナも吐息をもらし、一瞬俯くと、恥じらう大人の色香も再び、といったところだったが、思い直したふうに、賑やかな三人の光景を改めて眺めると、眩しそうにして目を細めた。
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