新たな四人目
(ったく、一体全体……)
全く、理解が追いつかない。とりあえずマーブルは、我に返ったテトが、ブルブルと顔を振るようにしているのを眺めながら、
「テトー、だいじょぶー?」
「ガガ?」
「もう、ここ、でていいんだってー」
「オオ、ヨカッタ。イコウ。デ、ココ、ナンダ?」
そしてテトには、牢屋についての説明や、
「……でもねー。わたしたち、わるいことしてないってわかってもらえたみたい」
などと語りながら、出入り口に向かおうとしていると、なにやら軽く言い争うような声も聞こえてくるではないか。
(…………)
旧知の仲に、プラス、女の勘も働いたのはマーブルだった。
「……テトー、STAY」
「ガウ」
そして、言いつけ通りにした巨人をそこに置くと、そっと、隣の部屋を覗き込む。
そこには、枕も二つ並んだダブルベッドの上をすっかり我が物顔としたマガネが内股に座りながら、頬を膨らませ睨んでいて、その目の前では、尚、セーターのみの格好のフィオナが、黒タイツにショートパンツ等を握り、突っ立って、目を泳がせていたのである。そして、マガネがマーブルが現れたことに気づくと、
「あっ、マーブルーっ! お姉さまったら、ひどいんだよー!」
「……どうしたっていうのよ」
「せっかく、私の嫁(食べ物)になったっていうのにさーっ。もう、服、着るんだってーっ!」
「だって、しょ、しょうがないでしょ? 二人だけなら、ともかく、だって、そんな……」
早速、マーブルは頭を痛くしそうであったが、ここまで、きっと、同じような押し問答を繰り返してきたのであろう、フィオナが、恥じらうままに抗し、その声はいくらか、普段のクールな響きを取り戻しつつあるが、そこはかとなく潤みがあるときている。
「やーだーっ! 私、大人の女の人、はじめてなんだもーんっ。もっと、見てたーいーっ……ひどいお姉さまだ……私、泣いちゃう……」
「えっ! 泣かないで……!」
そして、マガネが両の手で顔を覆うようにすれば、その場で衣服を手放したフィオナは駆け寄り、ベッドの上のマガネの元に飛び込むようにすれば、途端にフィオナは四つの体勢となってしまい、尻など剥き出しになってしまう。それをマガネが見逃すわけもなかった。
すかさず、触れはじめたマガネの指先に、「ん……っ」と、ピクリとしたのはフィオナの反応である。ただ、一気に、近距離となった顔と顔の見つめあいのなか、
「お姉さま……」
「ん……?」
「肌、ほんと綺麗……すべすべ~」
「ン……そう、よかったわ。マガネ……」
「んー?」
「すき……!!」
まるでキリッとした物言いは、流石、公安といったところであろうか。すると、まるで、心を射抜かれたような表情をしたマガネがキスで相手に返すようにする。そして、唇と唇が離れたときには、その舌の巧みさに、やや落ち着いたはずのフィオナの方が、またもやトロンと上気している、といった感じだったが、
「お姉さま……」
「ん……?」
「脱いで……っ……見せて……っ」
(…………っ)
上目遣いに、ここまで甘え上手な表情もできるかと、マーブルは、幼馴染の新たな一面を見たような気がしていると、
「……そうね……私も、マガネの嬉しそうな顔、もっと見ていたい……!」
とうとう、二人の世界にフィオナは完全にのまれ、たった一枚の着衣に両の手もかけた、その瞬間だった。
「はいはいはーい! 二人とも、ストーップ!」
顔も真っ赤に咳払いもコホンと、その流れを止めたのはマーブルである。
「なんだよー。いいとこだったのにーっ」
ムッとしたのはマガネだ。それに向けては、
「とりあえず、彼女おめでとーっ。よかったわねー」
一先ず、両の手を腰にマーブルはニコリとして返した。
「そうか……私、彼女……」などと、マガネと共にベッドに腰かけたフィオナが自分に言い聞かせるようにするなか、
「えーっとー。二人が、とーっても仲良くすることは、わたし、いいと思うわよー」
「じゃあ、いいじゃんかー。別にフィオナお姉さま一人くらい、裸でいたってー。どーせ、女しかいないんだしさー」
そして、マーブルが言葉を選ぶようにしていると、マガネはおあずけをくらったような顔のまま、ゴロリとフィオナの剥き出しの膝に横になり、その大人な感触を楽しむかのように頬ずりをはじめたのだが、そんな無邪気な姿に、見下ろすフィオナはますます虜といった雰囲気のなか、つかつかと接近していったのはマーブルで、
「あんた、のぼせあがりすぎーっ!」
「えーっ?」
もはや、夢現とヘラヘラな友は、ちゃんと言わないと気づかないようだ。
「テトのこと、どっかいってるでしょー!」
「……あー。そっかそっかー」
そして、漸く、少しは我に返ったのはマガネであったのである。と、「……Ms.高原」と、話に入ってきたのはフィオナだ。
「マガネの言う通りだわ。この部屋には、今、女とロボットしかいない。なら、私としては、マガネのために裸でいてあげることくらい、差し支えないのだけれど。その、わ、私、マガネの、彼女、だし……」
フィオナは、いつもの口調に戻ったのかもしれない。ただ、それでも、語尾には、戸惑いとも恥じらいともとれるニュアンスを残した。
クールな表情すらも取り戻しつつ、それでも愛おしくせずにはいられないというフィオナの指先が、やがてマガネの頭をそっと撫でるなか、理由を知る黒いセーラーは、その膝を楽しみながら、クックックと笑う。
「……そういうわけには、いかないのよね~」
とりあえず、天才少女は、この度も、ロボットと人造人間の違いを語るところからはじめないといけないようだ。
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