ふしぎな釈放
――開けっ放しとなった自動ドアのおかげで、隣室での出来事はいやというほど伝わってくる。
「あ……ふん……ん……ま、待って……! 私、あっ! そんな……お、女同士なんて……そんなことしたことない……!」
「ふーん……なら……男はある感じー?……」
そして、流石に、感情も極まったフィオナの声は響き、チュッチュとしたリップノイズを発しながらのマガネは、ご機嫌といった様子で問いかけている。
(…………?!)
尚、地震の只中にいるようで、声などはまるで蜃気楼の向こう側から聞こえてくるかのような世界のなか、顔をしかめつつも自らの作品に近づきながら、マーブルも年頃といえば顔も赤くなってしまうというものだ。
しばらくは、ご機嫌なマガネのリップ音のなか、フィオナは可憐な吐息のままに沈黙していた様子だったが、
「……それも……ない、わ……」
「え、まじ?! 初物?! ラッキー! うひょー! いいねーいいねー!……なら、私が、お姉さまに新しい世界、しっかり、教えて、あ・げ・る・にゃっ」
恥ずかしげとした告白に嬉々とした幼馴染は、ヒートアップしたようだ。
「え? あ!……んん……! 私、あ、あなたたちからしたら、おばさんでしょ?……ん……や……! 嫌、じゃないの? あっ!」
「えー。こんなピチピチしてんじゃーん。そんなオーバーなもんじゃないっしょーいくつさー?」
「え?! あん……っ、うっ……に、二十四……」
(あんの……色ボケ……!!)
一体全体、どこをどんなふうにしたら、こんな話の流れになってしまうのか。とりあえずマーブルが古くからの友人としてぼやけることといえば、一言につきる。そしてなんとかテトの元に辿り着くと、目視の限り、寝ているだけで異常はないようだ。
「全然、ゼンッゼン! おばさんじゃないよー。正に、お姉さまじゃーんっ。えーっ……どうしよ……私の方こそはじめてで、なーんかードッキドキしてきたにゃ……」
「も、もう……あ、ん」
「はーい。じゃあ、どんどん脱ぎ脱ぎしちゃおー……」
「え、そんな……恥ずかしい……」
(…………!!)
そして赤面のままにテトの安全にホッとすれば、状態も異常なせいか、改めてマーブルは意識を無くしかけ、他の二人のやりとりが一段遠くから聞こえてくるかのような感覚にみまわれると、ガクンと頭をたれてしまい、もはや目を瞑らざるを得なかった。
どこまでも続く暗闇の世界のなか、遠くからはマガネとフィオナのやりとりが聞こえ、時間はどこまでがどういう時間なのかもわからない感覚だ。
ただ、気づけば、もはや、マガネの搾取の音と、それに呼応するフィオナのせつなげな発音で全ては埋めつくされていて、
「ああああ!」
などといった甘い絶叫も一際、といったところで、ようやくマーブルは、自分が内股に座り込み、うずくまるようにしていることに気づくのだった。
(…………?!)
ようやく酔いも収まったかのような気分に、それでも額に手を当て、自らの意識を取り戻すかのように、軽く頭を振ってみせたりしていると、しばらくして自動ドアの向こう側からは、
「やーやー。お待たせお待たせーっ」
「あ、ちょ、ちょっと」
顔もテカテカに大満足といった感じの笑顔のマガネは、フィオナと手と手を繋いで現れたのだが、まるで引っ張られるようにされたフィオナは、辛うじてセーターを着ているのみで、先刻までタイツで覆われていた生足などを、なんとかセーターを伸ばしては隠そうとしているその表情は、マーブルたちの目の前にはじめて現れたときの鉄仮面の如きクールビューティはすっかりなりをひそめた、乙女の恥じらいそのものといったふうに、恥ずかしげに俯き、頬も染めている。
「マガネ……」
古くからの友としては、今、目の前で起きていることの半分は理解できたつもりであったが、それでも信じられずにいると、
「そんなわけでー。警備長お姉さまの特別な計らいによりー、私たちは晴れて無罪放免となりましたーっ」
「ふぇー?」
「ほ、ほんと、特別よ? わ、私……っ!」
「……わかってるぅーって」
事態の展開には、更にマーブルはついていけない。ただ、マガネの語りに目も泳がせて説明を加えようとするフィオナには、低いトーンとともに、少し背伸びなどしながら、唇をふさぐようにして友はキスをしてやると、「んんっ……」と、警備長は戸惑いながらもやがて嬉しそうに目を瞑るのだ。
そして、二人は牢に近づいてきて、「んなわけでー、でていいよー」とマガネはマーブルに促したりしたが、尚、いびきをかきっぱなしにしている人造人間の姿に気づくと、
「アハッ、ガッツリすぎだろ」
などと、中に入り込み、その眼前で、黒い手袋がパチンと指を鳴らすと、
「ガ……?! ガウ?!」
「やっほー、おっはよー、しょうねーん」
途端に、テトは意識を取り戻し、そしてフィオナが再度、牢をくぐり抜け出ようとした刹那、着用がセーターしかないので尻がつい露となると、マガネは目ざとくボディタッチをして楽しみ、「ちょ、ちょっと?!」と応える警察関係者は顔も真っ赤なままに冷静さを欠いているし、もはや、この場で、尚更、訝しくしているのはマーブルだけといったところである。とりあえず立ち上がりつつ、
「ちょ、ちょい、マガネ?!」
「んー?」
「これって、いったい……」
「あー……だよねー」
マガネは、頭もかきかき、言葉も選んだ様子であったが、一先ず、フィオナの腕に抱きつくと、
「まあ、ちょっとした手品! みたいなっ?!」
などとてへっとすれば、舌もペロリと、それのみで、大人の女性にすっかり甘えたふうにすることに本人も夢中といった感じで、部屋からでていこうとしてしまうのだ。
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