それぞれの思惑

 ムサシ突入後、シリナは、

「皆さん! 行きます!」

 と、凛とした声で宣言し、突進を開始した。いざ、駆け巡る通路にて、連邦兵たちと遭遇すれば、

「ウイりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 民族特有の雄叫びは、続くマグナイたちにも、呼応させていく!

「うわ……!!」


 そんな銀河一の戦闘民族たちの迫力の前に、最早、疲弊しきっていた敵兵たちは、怯みながらもなんとか抗するも、シリナもマグナイたちが、持ち前の弓術に、斧術に、格闘術、超能力を炸裂させれば、連邦兵たちは次々と討ち倒されていくのであった。それはまさに獅子奮迅の突入劇であり、彼らの向かう道筋とは、様々な情報を加味して引き出された、テオの分析結果である敵船の生命線、メインエンジン室にある原子力機関までの通路だったのだ。無論、機関室到達寸前には、人体兵器と化した、地球人や、ハイデリヤとは種が違う異星人の部隊すら控えていたのだが、いくら彼らの筋骨が異様に盛り上がり、眼すら爛々としていようとも、更に鍛錬を積んだ銀河一の戦闘民族で、「戦士の敗北は死と同じ」がモットーの、特に、シリナのリベンジへの執念は、壮絶なものだった。そして辛くも彼らを討ち果たし、機関室への潜入に成功すれば、次々に用意していた時限爆弾を設置していったのだ。一方のヤマトこそ、生物兵器部隊と化したドタール族に阻まれて叶わなかったにせよ、こうしてムサシは爆破、陥落したのである。


 ムサシの艦長であり、同時に副提督でもあったクシナーダは、ブリッジにて、最後まで、ひるまず、矢継ぎ早に指示を繰り出していたのだ。だが、最早、鈍重なのは配下である兵たちの動きばかりであった。

「ええい……! 役立たずどもが! 私がでる!」

 そして、とうとう自らの出陣を口にした瞬間の事だ。

 DOOOOOOOO……という、嫌な予感のする鈍い音が艦内に響き渡ると、使えぬ軍曹の一人からは、ムサシが危ないということを聞かされるのであった。


 艦長専用の非常避難カプセルで脱出し、宇宙空間にて自らの船が爆発していく中、クシナーダは、彼方に見える敵戦艦ツキヨミと、烏合の衆のような艦隊を、一度強く睨みつけた後、未だ、奮戦の最中のヤマトの船影に視線を移し、

「スサノオ様……申し訳ありませぬ!」

 と、女軍人は、悔しさにこらえきれず嗚咽し、自らの上官に謝罪の弁を述べるのであった。


 三日月連盟側に立てば、いよいよ最大の敵機はヤマトのみになったという事になる。






 その日、ヤマトの「拷問室」では、クシナーダも含め、ムサシに乗船していた軍曹たちが、なんの仕掛けもなく宙吊りとなっていた。真ん中に位置するスサノオは、ただ、両腕をあげ、目を瞑っているだけである。そうして、ゆっくりと拳を作るようにすると、一層に、全ての者が耐え兼ねるようにして、苦しみ出すのであった。


「提督閣下………! スサノオ様……! お許しください……!」

「………………」

 女の哀願も、今のスサノオには届かない。尚、一層、「力」が発動されれば、彼女たちの悲鳴は更に大きくなる。

「俺が無能な者を許さないのは、お前が一番解っていたと思っていたが……」

 正に冷酷な闇そのもの、と言っていい声は、クシナーダの方すら振り向く事もなく、独り言のようであった。

「挽回の機会を……!」

 クシナーダにとっては、粛清される事よりも、今、この場で、自らが愛してやまぬ者がこちらを眺めてすらくれない方が辛い。そして次々に挽回の機会を願い出る、他の軍曹と違う点は其処にあった。知ってか知らずか、やがてスサノオが、

「……よかろう。では、お前は、本日付でヤマトに赴任しろ。他の者は全員……死ね」

 と、口にした瞬間、女も、いよいよとどめを覚悟し目を瞑ったのだが、奇声を発し、次々に死んでゆくのは他の軍曹たちばかりで、今や、解放されたクシナーダはドサリと倒れこみ、女座りのままにせきこんでいるところだったのだ。


 カツリ……カツリ……スサノオの甲冑は足音を立てて、こちらに近づいてこようとしている。クシナーダは、すかさず感涙の笑顔と共に謝意を述べようと顔をあげたのだが、男の顔は、未だに冷酷無比に自分を見下ろしているではないか。そして、男が、

「なんだ……副提督……まだ、終わってないぞ……」

 と、告げれば、

「…………はっ…………」

 全てを悟ったクシナーダは起ちあがった。そしてこれからの仕打ちを思い出し震える指先は、先ずは自らを覆う甲冑を外そうと手をかけるのであった。


 とうとう、そうして自ら覆っていた肌着の最後の一枚も、パサリ……と、床に置くと、豊満で抜群な白肌のプロポーションが露となる。

「……ふむ」

 尚もスサノオの声は冷淡だったが、その手には、既に「専用」の縄が握られていて、

「…………」

 観念しているクシナーダは、自らの主が「作業」しやすいように、後ろ手にすると、やがてひざまつくのだ。既に彼女はそのように「調教」すらされていたのである。そしてスサノオに縛られるだけ、縛られた後、女は宙吊りとなってしまう、その仕組みは、この「拷問室」におけるクシナーダ専用に施されたシステムで、次に手にした男の道具は、蜷局のように巻かれている鞭が、自分の出番を今や遅しと待っているところであった。


 ヒュッ! ビシャリ! ヒュッ! ビシャリ! 


 とうとうクシナーダは、スサノオの鞭で打たれる度に、

「あっ……! ああっ! スサノオ様……! スサノオ様……! お許しください……! お許しください……!」

 と悲鳴と哀願を繰り返す。

 際どく、陰湿に、雁字搦めとなった女の柔肌は、みるみる真っ赤に、腫れていくが、

(全ては、私が悪いのよ……! スサノオ様の夢の邪魔をした、全ては私のせい……!)

 いつかのように、そしていつものように、哀れな女は自らに言い聞かせ、一方的な男の暴力の全てを、健気に受け入れようとするのである。と、ふと、散々ふるわれた鞭のしなる音は止み、「はぁはぁ……」と汗ばみながら涙も潤ませ、主人の動向を探ると、今や、スサノオは、大昔の人類が使用していたロウソクなどというものに、火を灯そうとしているところではないか。クシナーダの錯乱しかけている心の中は、

(ああ……そんな……)

 という深い絶望と、

(ああ……やはり……)

 という諦観と観念が交差するのであった。


 熱い蝋が落ち、火傷を生み出す度に、たまらずに悲鳴をあげ、鞭で打たれれば、更に悲鳴をあげ、クシナーダの体は引攣く事ばかりに追われていく。彼女にとって一番悲しい事といえば、普通に愛しあっている時よりも、涙の向こうで垣間見えるスサノオの表情が、遥かに性的に恍惚とした笑みを浮かべている事だ。だが、それでも、

(……けど、それも私が悪いからよ……! 私は……スサノオ様の……!)

 と、女は自分に言い聞かせるのである。最中、ヒュッ! ビシャリ! と、構わずに鞭がしなれば、

「あああああ! スサノオ様ああああああ!」

 女は心の底から愛する者の名を、絶叫するしかできなかった。


 こうして、周囲を死体に囲まれる中、スサノオのクシナーダに対する専用の拷問は、挙句の果てに乱暴に散々と抱かれるまで、延々と続くのであった。






 スイコにとっては、億万長者どころではないレベルの贅沢三昧が待っていると夢見た、太陽系連邦の国家元首という座をとうとう獲得し、天照宮殿での皇帝即位の際に見下ろせば、どこまでも広がる民の数に、これだけの者以上から税金を絞りとれるのかと思うと、心の中は打ち震える程であった。だが、帝政への宣言の後、間もなくして訪れた、レジスタンス三日月連盟への、星々の相次ぐ離反の日々と、老齢甚だしい皇配ビダツの、性力の著しい衰えによる夫婦関係の破綻で、金と性の事しか頭にない女は、現実とのギャップに、キリキリとヒステリックになるしかない日々を送っていた。


 今宵も、かつてのヒミコが使っていた巨大で広大な寝室を、更に金だらけに改装させた一室のベットにて、

(あの小娘……!)

 はだけた、金色仕立てのバスローブなどを着直したりしながら、スイコは、かつては自分の事を、一度は退官にまで追い込んだ少女の姿を思い浮かべては、眉間に皺を寄せているところであった。そして目の前では、今日も使い物にならなかった老人ビダツが、罰も悪げに佇んでいるのだ。


「……ふんっ! もう、いいさ! あんたはおどき!」

 元総裁の事も然りであるが、目の前の皇配も、最早、居るだけで忌々しい。スイコはきつい口調で、ベットから老人を追い出そうとすると、パンパンと手を叩いた。すると、現れたのは、あの日のイヨのように、裸同然の生地の薄衣程度しか纏う事を許されない、美少女たちの姿だったのだ。その顔はどの顔も、今からされる陵辱を思えば、嬉々とした者など一人もいなかった。


「あんたみたいなクソジジイに抱かれるくらいならね! 若い女、抱いてる方がはるかにましってもんだよ!」

 女帝は、少女たちに、自らの周囲を取り囲むよう、高圧的に促しながら、ただ、ただ、おろおろとしている皇配を睨み、きつく責め立てた。そして、一人を乱暴に引き寄せ、まるで往年のヒミコのように、若さ溢れる肌に舌を這わせば、相手は涙ぐんでいるというのに、スイコが思った事と言うと、

(はぁー、いい光景だこと)

 という満悦した気分であったのだ。


「そ、そんなー、おまえー……」

 尚も決まり悪げに、ビダツは語りかけるが、

「ったく! 誰のおかげで大臣にまでなれたと思ってんだい! 愛人やってあげてた、このあたしのおかげじゃないのさ! あんだけのガキ、こさえておきながら、今更、種無しなんざ、用済みってもんだよ!」

 少女たちには、いつものように、自らの欲望を受け入れる体勢、体位を命令しながら、スイコの口からでてくる言葉は恨みつらみなのであった。


「だ、だから、ワシだってがんばってるじゃないか〜」

 すがる男の声は更に情けない。

「ろくに勃ちもしないで、どの口が言ってるんだい! なら、種無しなりにね! せいぜいうちらの世継ぎを生み出す事を考える事だね! ここはね! 帝国なんだよ!」

 剣幕でどやしつける唇はそうしてから、はち切れんばかりの乙女の乳房を口にふくもうとしているのだが、ヒミコ仕込みの愛撫だというのに、吸われる少女は顔をそむけ、まるで拷問に耐えているかのようだ。また、他の者たちなぞ、次は我が身と恐々としている。

 

(全く、男ってのは! あたしが男に生まれてくりゃよかったよ!)

 そして次々と、ヒミコ譲りの弄び方で乙女たちに乱暴を続けながら、その体を楽しみ、スイコは心の中でぼやく。


 かつてもイヨは、この少女たちのように、当初は混乱し、苦しみ、涙した時期もあったものだ。ただ、同じように体を弄ばれ、歳なぞ百以上離れていたのに、いつしか二人の間には蜜月の日々もあったという。年月こそ経ったとは言え、同じベットの上なのに、いつまでも涙し、苦しみ続ける少女たちと、かつてのイヨの違いはなんだったのであろうか。


 男と言えば、スイコには気に入らない男がもう1人いた。スサノオである。


 ムサシという連邦最大の兵器の一つを、敵に落とされたというのに、それを戦後報告する男の顔は涼しげそのものであった。くわえて、ここにきて、では決戦をしかけるために、残るヤマトを改造したいと、法外な必要経費まで要求してくる始末だったのだ。彼方の宇宙からのホログラムにて淡々と語る隣には、自分もいつかは、その体から溢れる蜜を吸い尽くしてみたいとすら思っている、金髪碧眼の美女で、スタイルも抜群な、異国出身の女性軍人の副提督の姿もあるではないか。確か、ムサシの管轄は副提督のはずではないか。皇帝と皇配であるというのに、眼前にしてその迫力に負け、責任すら問えない情けない女と男がスイコとビダツであった。


 また、あれだけ若く、逞しい男なら、自分が満足する精力をもみなぎっているであろうなどと、女の本能までもが疼いてしまえば、

(全く……どれもこれも忌々しいぃ!)

 あれもこれも思い出すだけで、腹ただしい。ヒミコ直伝の舌技で貪っていた秘部は、ただただ自分の涎にまみれていただけだったが、ヒステリックに、歯もたてたくなるというものである。体を震わせ耐え忍んでいた乙女は、あまりの仕打ちにとうとう泣きだしてしまった。

「お、おまえー……」

 ビダツは枯れきった老体を決まり悪げにしながら狼狽えるのみで、その顔つきには、老獪さすら微塵もない情けなさであった。






 前線基地本部内で、クシナーダが呼ばれた先の部屋は、自動ドアをあけると真っ暗であり、照明と言えば、中央にドンと置かれたソファの近くに置かれた、けだるい灯のライティングのみであった。やがて、そのソファに深く腰掛け、グラスに入った酒を傾けている愛しい男の影を見つけると、表情を変え、女は近づくのである。そして、スサノオの懐の中に、飼いならされた猫のようにしなだれかかれば、いつもの不敵な笑みが、前方を見つめるようにしてそこにあるのだった。


(…………)

 クシナーダは、たとえ自分の方を見つめてくれていなくとも、スサノオの、その、野心をたぎらせた笑みの事を愛していた。だからジッと呆けていたのだが。


 ……DOOOOOOOOON……

 地鳴りのような音がしたので、思わず女も同じ方向を向いたのだ。すると、そこは広大な強化ガラスが一面に張り巡らされている、クシナーダも知らなかった施設のようである。よくよく目を凝らしてみれば、何やら、なみなみと湛えている液体の向こうでは、見た事もないほどの巨大な影が蠢いているではないか。


「捕獲するのに、国の半分の金ははたいたぞ……」

 いつもより酒量の多い口臭だ。今日のクシナーダの主はよっぽど機嫌がいい様子である。

「ツキヨミ、と言ったか。ちょこまかとうるさいネズミどもなりに、やつらもなかなかおもしろい玩具を揃えたものじゃないか。ならば、俺も俺らしく、我が船に、何か玩具を与えてやろうと思ってな……。ヤマトは生まれ変わるぞ……」


 

 Zoooooooooom…………

 主の話の流れのタイミング良くして、ガラスの向こうで、もう一度、地鳴りが響いた。どうやら巨大な影は一つではないらしい。

(………………?)

 クシナーダも一角の軍人である。ただ、その蒼い大きな瞳を凝らす果てにあるものたちと、船の改造になんの脈絡があるというのだろうと、思わず興味にかられれば、首もかしげたくなったものだが、スサノオが、それ以上に語るのを望まないというなら、問うて聞く事なども恐れ多いというものだ。

(私は……スサノオ様さえあれば……。誰よりもお役に立てれば…………全てはスサノオ様のために……!)

 普段は、誰から見ても、颯爽とした副提督という女軍人の内実は、単に上官に盲目となっているだけの一人の女であり、哀れな程に従順な思考しか持ち合わせてはいなかったのだ。


 Zoooooooooom…………

 二人が在る、暗闇の部屋の眼前の広大なガラス張りには、巨大な影の群れが、尚も、鈍く、轟き、蠢いている。



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